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    コマチさんの素敵チャリアなアクスタから生まれた小説です!!
    高緑意識ですが、緑高っぽくも取れるかも……。
    スチームパンクな世界の二人。

    どんな時でも君と一緒が良い「しーんちゃん! 何見てんの?」
     二人分の朝食を作り終えた俺が緑間の姿を探して部屋を巡っていたら、緑間は書架で何やら紙を広げていた。
     町の端っこに位置するこの家は緑間の家で、外観からしてもうカラクリ屋敷だと判るような佇まい。
     壁面に大小様々な歯車。屋根近くには細い煙突が三本くっ付いていて、時折煙を吐き出している。一番特徴的なのは、真四角にドンと地面に建っているのではなく、一般に真っ平らな床が、恐らく緩い弧を描いているのだと判る曲線をしている。まるで湖面を漂う船のような形。もう見るからに不思議な家。
     そんな家に二人で住んでいる俺と緑間だから、相方の姿をやっと見付けた俺はゆっくりと彼に近付いた。隣に並んだら、あぁ高尾、と緑間が顔を上げた。
    「書籍の間に挟まっていたものを見付けたのだよ」
     すっ、俺が見やすいようにしてくれたその紙は古い羊皮紙だった。書き込まれているのはどうやら地図のよう。
    「何の地図?」
    「判らん」
     首を左右に振る緑間を少しだけ見上げて、肩を竦める。
    「それじゃあ意味ないじゃん」
     何の地図なのか判らないのなら、地図は地図の意味を成さない。
     何の地図なのかが判れば食い付くけれど、判らないのであればあんまり興味は湧かない。
     そんな俺がくるりと反転し、頭の後ろで手を組んだら緑間が「あ、」と小さく声を上げた。
     ん? と斜めに振り向けば、緑間は口許に拳を当てている。
    「どーしたの、真ちゃん?」
    「あぁ、いや……何の地図か、判った気がしてな……」
    「えっ、ホント?」
     緑間の台詞をスイッチにしたかのよう、俺はまた緑間の隣に並んだ。
    「で? 何の地図?」
     羊皮紙と緑間の顔を交互に見れば、緑間は少しだけ目を細めた。
    「昔祖父が俺にひとつの探し物をさせたことがあったのだよ」
     まぁ、単なる子供相手のゲームだったのだが。その時の俺はどこを探しても見付けることが出来なかったことを思い出した、と緑間は続けた。
     そう云えばここは元々緑間の祖父母の家だっけ。彼の祖父母はもっと静かな田舎で暮らしたいと云い、この家を緑間の好きに使って良いと空け渡したんだった。
     それが二、三年前の話だった筈。一年と少し前にこの町に引っ越して来た俺は町の散策中にこの不思議な家を見付け、興味深々でこの家のドアベルを鳴らした。そうして顔を覗かせたのが緑間。それが俺たちのファーストコンタクトだった。
     最初は興味本位でドアベルを鳴らした俺を邪険に扱っていた緑間だったけれど、カラクリ屋敷の中を見てみたい一心で毎日通っていたら、緑間の方が先に折れたのだ。
     その理由は、当然俺のしつこさに諦めを感じたからだ。俺はこの屋敷の庭にある(他人の家の庭を歩き回るな、という常識は置いておいて欲しい)ボール遊びの名残を見付けて勝手に遊ぶようになっていった。昔からボール遊びが好きだったのに、今の環境では中々ボールに触れる機会を得られず、つい嬉しくなってしまったのだ。
     トントンとボールをつく音に気付いた緑間は、二階の窓から突然ゴールに向かって華麗にボールを落としてきてから、俺を見下ろしながらこう云った。
    「お前も好きなのか?」
     と。ボール遊びのことだと瞬時に悟った俺は、大きく頷き、緑間に向かって手を伸ばした。
    「ねぇ、勝負してよ」
     どっちが多くシュートを決められるか。
     俺が勝ったら家の中に入れて、と歯を見せながら笑ったら、緑間は眉根を寄せながら「お前に勝ち目はない」と云いつつも、家の中に引っ込んだかと思えばすぐに庭に出て来てくれた。
    「俺が勝ったらもう近付くな」
     面倒臭そうにそう云う緑間に、結果は判らないだろう? と不敵に笑んだのが合図になり、そこから本気のボール遊びが始まったのだ。
     確かに、その日俺は緑間に勝てなかった。けれどもどうしてかこの屋敷に……というより、多分無愛想な緑間にも興味が湧いてしまい、毎日通い続けては勝負を挑んだ。
     嫌そうな顔をしながらも、懲りずに通い続ける俺の相手をしてくれた緑間は、きっと同年代の友人がこれまで居なかったのだろう。段々とちょっとだけ楽しそうに俺の相手をしてくれるようになった。
     緑間の予言通り、俺は緑間に勝つことは一度も出来なかったのだけれど、一回くらいは勝ちたいという欲から毎日毎日通い続けていたら、俺が通うようになってから初めての雨の日に、呆れた顔をした緑間が俺の腕を引いて家の中に入れてくれた。
    「雨の中傘を差さずにいたら風邪を引く」
     大きなタオルを被せてくれた緑間の優しさが嬉しくて、ねぇ、という呼び掛けで緑間の背中を叩いた。
    「名前、何ていうの? 俺は高尾和成」
    「……緑間真太郎……」
    「真ちゃんか」
    「……初手から勝手に人をあだ名で呼ぶな」
     険しい顔をされたが、俺は「良いじゃん」と肩を揺らした。
    「俺、引っ越してきたばっかで友達居ないんだ」
     俺と友達になってよ、真ちゃん。
     屈託のない笑みを浮かべる俺に、緑間は「もう好きにしろ」と大きな溜息を吐いた。その言葉に甘えて好き勝手にしていた結果。気付いたら緑間は俺のことを次第に受け入れてくれるようになったのだった。
     そんなこんな。この家と緑間との出会いに関して能書きが少し長くなってしまったけれど、毎日通い詰める俺に、緑間は「もういっそこの家に住めば良い。部屋は幾らでも空いている」そんなことを云うものだから、俺はちゃっかり甘えて居候をさせてもらっているという訳。
    「昔俺が探せなかったものが、きっとこの地図なのだよ」
    「へぇ……。それ、何か良いことがありそうな地図?」
    「恐らくは……。俺に探し物をさせた時の祖父は何やら楽しげな顔をしていたからな」
     トントン、と紙を叩いた緑間の指先には赤いバッテン印。
    「お宝?」
    「俗に云えば、そうだろう」
    「じゃあ早速探しに行こ!」
     朝飯食ってすぐに出掛けよう、と緑間の腕を引いたら、緑間はやれやれといった溜息を吐きながら、お前の冒険心にはほとほと呆れるのだよ、と呟いた。
     そんな風に呆れつつも、朝食を済ませて後片付けをしている間に、緑間は出掛ける支度をしてくれた。
     俺も急いで出掛ける支度をする。階段を駆け上がって、駆け下りて、緑間の肩を叩く。
    「さ、出発!」
     意気揚々と家を飛び出した俺の三歩後ろを着いてくる緑間の手にはしっかりと羊皮紙が握られていた。
     町を出て、この道はこっちじゃないか? いやあっちじゃないか? と地図と睨めっこしながら歩く俺たち。
     半日経っても目的地に辿り着ける様子はなく、途中の木陰で俺が急いで作ったサンドイッチを二人で頬張った。
     サンドイッチと一緒に持ってきた葡萄ジュースをちまちま舐めながら、改めて地図を眺め下ろす。
    「んー、一日じゃ辿り着けなさそう?」
    「しかし子供に探させるくらいなのだから、そう遠くはないと思うのだよ」
    「あー、まあ、それもそっか」
     うーん、と体を伸ばしてバサッと草地に背を付ける。見上げた空は雲ひとつない水色。
    「それにしても、一体何があるんだろ」
     な? と緑間の方に顔を向けたら、緑間は眼鏡のブリッジの位置を直しながら、さぁ、と肩を竦めた。
    「あんま休憩してるとホントに今日中に帰れなくなるかも知れないから、そろそろ行く?」
     腕を伸ばして緑間の袖を引っ張ったら、彼はそうだなと頷いた。
     そうしてまた歩くこと二時間弱。どうやら地図のバッテン印が示す場所を見付けた。
     バッテン印は家の形をした絵の上に付けられている。その絵が描かれている場所に、小さな小屋があったのだ。
     これはきっと俺たちが探しに来た目的地に違いない。
     小屋は子供がおままごとに使うのにうってつけ、といった様相の佇まいで、さして大きくはない。板張りのその小屋は、ひとつ大きな嵐でも来たら飛んでいくんじゃないかと思わせるくらいボロっちい。
    「ここ、入ってもへーきかな」
    「お前はすぐに他人の家へ勝手に入ろうとする癖をやめた方が良いのだよ」
     はぁ、と大きく息を吐いて、緑間が木戸をトントンと軽く叩く。応答はない。
    「やっぱり勝手に入って良いんじゃないか?」
    「……ふむ」
     ここが目的地なのであれば、この小屋にはきっと何かしらが隠されているに違いなく。それが何なのかを早く知りたくて、俺は緑間のコートの裾を引っ張った。
    「しーんちゃーん、折角ここまで来たんだぞ?」
     無駄足にするつもりなのか? と唇を尖らせた俺を見た緑間は、少しだけ肩を竦めて錆びたドアノブを回した……の、だが。
    「……開かないな」
    「え?」
    「何か細工がしてあるようだ」
     その所為で戸に鍵が掛かっていると緑間は平坦な声。
    「えー、ちょっと俺にも見せてよ」
     ずい、と緑間の横に立ち、ドアノブ付近を舐めるように見る。
     うーん、特に何もない。詰んだか、と落胆しかけた俺は、あ、とドアノブの陰に歯車をひとつ見付けた。
    「真ちゃん、もしかしたら、これが鍵かも」
    「……歯車が?」
    「歯車の噛み合わせが上手くハマったらいけるんじゃないか?」
     そう大きくはない歯車のギザギザを撫でながら緑間を見上げる。
    「成程……。けれども俺たちはその鍵を持っていないのだよ」
    「それな。問題はそこだよ」
     んー、どうしたもんかな。
     腕組みをしてパタパタとブーツの底で地面を叩く。歯車……歯車…………あ。
    「ねぇ真ちゃん、その帽子っていつから被ってんの?」
    「? これか? 祖父が残していったものだ。普段祖父が被っているのを何度か見ていたからな。何となく愛着があって、サイズが合うようになってから被るようになったのだよ」
    「その横に着いてる歯車も元から?」
    「いや、これは子供の頃に祖父が小遣いの代わりにくれていたものだ」
     これにも思い入れがあるから、ブローチにして帽子にくっ付けているのだと云う緑間に、それだ、と手を叩く。
    「それ、とは?」
    「きっと緑間の爺さんがくれてた歯車のどれかが鍵になってんだよ」
    「……突飛な考えだな……と、云いたいところだが……」
     祖父もまあまあ小細工の好きな人だったから遣り兼ねん、と緑間は帽子を取って歯車のブローチをひとつひとつ外していった。
    「嵌るものがあれば良いのだが……」
    「きっとあるって!」
     ひとつめはダメ。ふたつめもダメ。うぅん、と唸りながら合わせたみっつめの歯車で、ドアノブの陰に隠れていた歯車が軋む音がした。一回転させてからドアノブを捻ったら、小屋の戸は静かに開いてくれた。
    「ほーら、俺の思惑通りだ!」
     腰に手を当てて得意げな顔をしたら、緑間は
    「まぁ、今回は褒めてやろう」
     と俺の肩に手を乗せた。
     小屋の中は埃が湿気った匂いが充満していた。恐らく何年も人の出入りがなかったのだろう。
     よく今まで壊されなかったな、なんて思う。
     小屋の中は外観から想像した感じと違わず、そんなに広くない。
     そんな小屋の中の中央には俺の腰くらいの高さの真四角なテーブル。その上にはブリキのカエルが置いてあった。結構大きい。俺の両手で何とか包み込めるくらいには。
    「……ぜんまい仕掛けのオモチャ?」
    「の、ようだな」
     ブリキのカエルを持ち上げた緑間が背中に付いていたぜんまいを数回転捻った。
     そうしてまたテーブルの上に戻した途端、ブリキのカエルは金属が擦れるような音を立てながら口をパクパクさせた。
    「えっ、何これ、ちょっと怖……っ」
     思わず一歩後退ったら、パカッ、と大きく口を開けたカエルがギギギ、と舌を伸ばしてから止まった。
    「……なに」
     止まってくれたことに安堵して首を伸ばしたら、金属製のカエルの舌にはふたつ、大きさ違いの歯車と、細めのチェーンが二本乗っかっていた。
    「……お宝、って、これのこと……か?」
    「そのよう、だな」
     カエルの舌には小さく畳まれた紙も一枚乗っていた。
     それを広げて目を通した緑間は、僅かにだが珍しく楽しそうな顔をした。
    「なになに、真ちゃん、何が書いてあんの?」
    「この歯車は、大事な人と揃いのネックレスにしろ、と」
    「……へぇ?」
     どういうことだ? と斜めに見上げた緑間は、やっぱり楽しげな顔をしている。
    「そう云えば、思い出したのだよ」
    「何を?」
    「祖父母も揃いのネックレスをしていたことを、だ」
    「……そのトップって、もしかして……」
    「この歯車と似ていた」
    「……はぁ」
     成程? 運命の人とお揃いにしろ、と。そういう意味なのか?
     いやでも、もし子供の時に緑間が見付けていたら、そんなことが書かれていても全く理解出来なかったのでは?
     疑問に疑問を重ねて唸る俺を他所に、緑間はそれぞれの歯車にチェーンを通してすぐにネックレスに仕立て上げた。
     大小、大きさは違えど噛み合わせはピッタリな様子。つまり、ペアものだということで。緑間はそれを一体いつ誰にあげるんだろうか。そんなことを考えたら、何だか胸の奥がモヤッとした。どうしてか、は判らないけれど。そんな風に考え込みだした俺は、らしくなく少し俯き加減になってしまっていたのだろう。緑間の手が俺の頭に乗った。
    「高尾」
    「え、あぁ、何? 真ちゃん」
     パッと顔を上げたら目の前に歯車のネックレスを翳された後、その大きい方を俺の手に握らせた。
    「真ちゃん?」
     緑間の考えが読めなくて、俺は頭の中にハテナマークを大量に飛ばす。
     目をぱちくりさせていたら、緑間はほんのちょっとだけ視線を逸らして唇を舐めた。
    「これは、お前にやる」
    「……なんで?」
     つい間抜けな声が出た。
    「……お前は……普段他人の機微に長けている癖に、自分が関わると鈍感になるのだな」
    「……ごめん、遠回りしないでもらえる?」
    「…………気付かないのであれば、それは没収するのだよ」
     俺に握らせたネックレスを取り上げようとする緑間の手から、咄嗟に距離を置く。
    「え、あ、あーと……、うん、待って」
     手を背中の後ろで組んで、三秒思案。
    「真ちゃん、俺の方から云っても良い?」
    「何をだ」
    「俺が、真ちゃんのことどう思ってるか」
    「……云ってみろ」
    「俺、真ちゃんのこと、きっと好きだと思う。今まで近過ぎて気付かなかっただけで」
    「………………」
    「だって、これ、いつか他の誰かにあげるんだなぁって思ったら、何かモヤッてした」
    「………………」
    「真ちゃんが同じように思ってくれてんだったら、これ、貰う」
     良い? そう続けて小首を傾げたら、真ちゃんは細長い溜息を吐き出して歯車が小さい方のネックレスを自分の首に回した。
    「良いも悪いも、それを渡したことが俺の答えなのだよ」
     ジトリと横目で見られて、俺はふふと肩を揺らした。すぐさまネックレスを着けて、緑間のコートの襟を掴む。
    「真ちゃん、二人でずっとあの家で暮らそ」
     少し踵を上げて柔らかい部分に体温を重ねた。
    「これで、正解?」
     やっといつもの調子を取り戻した俺がニヤリと口端を上げたら、緑間は「はぁ」と額に手を当てながら、小さく頷いた。
    「ヤバい、自覚したらめちゃくちゃ真ちゃんのこと甘やかしたくなってきた」
     自分の頭より上にある頭をくしゃくしゃにすると、ちょっと嫌そうに手を払われた。
    「そんなことを云って、後悔しても知らないのだよ」
    「後悔なんてしないって」
     だって、多分どころか絶対真ちゃんのこと好きだから。
     もう一回背伸びをしたら、緑間は俺の耳を軽く引っ張った。
    「好きだ、高尾」
     甘く低く囁かれて。背筋が痺れた俺は、今度は俺の方からたっぷり緑間に愛を囁いてやろうと思った。




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