独白朝、シャワーあがりの濡れた体が鏡に映る。僕はそれを見て小さく眉をひそめた。
僕の相棒をこの手で墜としたあの日から、僕の胸には大きな穴があいた。
心の穴なんてものじゃない。
本当に胸の中心、心臓のあるところに10cmくらいの風穴が空いている。
初めてそれに気がついたとき、相棒を殺したショックでとうとう頭がイカれたと思っていた。
胸がないのに心臓の音はするし、穴の側面は皮膚とも肉ともいえないなにかで覆われている。
もっとよく確かめようとそっと穴に手を入れてみた事もあった。
痛くはない………ただ胸が空っぽで虚しいと言えばいいだろうか。
あの日から今日までいろんな事があった。長年やってきた傭兵業を辞め、翼を捨てた。地上で空を見上げながら細々と毎日を過ごし、ただの一市民として過ごしてきた。
傭兵業をしていた頃とは真逆の生活は平和で豊かなはずなのに、この胸には全てが通り抜けてしまう。
相棒…ピクシー…ラリー…
目を閉じずとも己の二番機の姿が見える。共に空を駆け、酒を交わし、勝利を分かち合った日々は昨日のように思い出せる。
それと同時に、裏切られ、対立し、刺し違えたことは、明日も忘れはしないだろう。
「あいぼう…」
鏡に映る自分にそっと触れる。冷たい鏡はまるでキャノピーのようで、どことなく懐かしさを感じてしまう。
アヴァロンの曇天が重くのし掛かる空で互いの槍が交わり、そして僕らは散った。
僕がラリーの命を奪い
ラリーは僕の胸を…心を奪っていった。
この胸は決して塞がることはないだろう。ピクシーが届かない所へ持っていってしまったのだから。
鏡に触れていた手をそっと下ろして小さく息を吐く。
手早く引っ掻けておいた服にきがえれば穴は隠れていつもの僕が出来上がる。
洗面所を出て、サッとカーテンを開け窓から見える朝の町をながめる。
地上から見るこの町は…美しい。
きっとピクシーもこの鐘の音を遠くで聞いてるだろう。