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    wolfavorite

    @wolfavorite

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    wolfavorite

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    「ウツハン書こう!」と思って書き出しがこれなので光のジャンルほんと向いてないと思います

    愛弟子失恋話 雪は溶け、淡い春色の花びらが降る。

    「いや、実に目出度いな!」

     雅楽を掻き消すほどの呵呵大笑が響く。里長のそれを隣に立つ女性が失礼にならぬ程度に小声で諌めた。とはいえ、厳かな雰囲気に緊張し固くなっていた息子がふっと肩の力を緩めたのを見逃す母ではない。心の内で頭を下げつつ、再び前を見やる。
     普段は「集会所」と呼ばれる屋内、この日の為に整えられた道を挟むようにして里の民が一堂に並んでいる。女性は、正面に立つ者の表情に気付き僅かに唇を噛んだ。成人を間近に控えた一人の女子。里一番の期待の狩人であり、里を救った英雄となった彼女は、今。嫋やかに、微笑んでいた。
     道を、二人の巫女を先頭にして寄り添って歩く男女。人々は静々と歩く四人を祝福の笑顔で眺める。
     最奥、建物から突き出した部分、普段は川を見ながら食事を取れる空間まで歩むと、男女は舞い散る桜の下で向かい合った。白無垢で飾られた女性をこの場で唯一真面に映すのは、英雄の教官を勤め上げた壮年期の男性。
     二人は酒に口を付け、神前で互いの愛を誓い合った。



     教官が今日この時まで最も時間を共にした相手は自分であろうと自信を持って言える。それほどまで、自分と教官は常に一緒だった。
     どんなに危険なクエストへ身を投じようとも五体満足で帰って来られる一流のハンターに育て上げること。それが教官の目指す教育だっだ。身体を壊す一歩手前を常に行く、過酷な訓練の日々。弱音を吐かず食らい付きがむしゃらに彼の理想を目指した。続けられたのは、辛いと思うことよりも嬉しいと感じることの方が余程多かったからだ。
     自身で成長を実感し、その実感を教官に褒められて確信する。そうして積み上げられた自信を土台に更なる限界へ突き進み、より大きく成長していく繰り返し。教官はただ試練を課すだけでなく、万に一つの事故も起こらぬよう細心の注意を払ってくれた。里長には元より才能があったのだと言われるが、教官の元でなければここまで大きく伸びはしなかったであろう。
     自分にとって教官は第二の親であり、狩猟の師であり、我が人生そのものだ。きっと自分は彼と生涯を共にするのだろうと疑わなかった。どんな形をしていても構わない、ただ永久にそばにあれればそれでよいと。
     ハンターとして認められたその日に百竜夜行の知らせが舞い込んだ。愛する故郷と大切な人々の為に武器を取り戦った。僅かな平穏の間にも次々舞い込むクエストに取り掛かった。忙しなく巡る日々。教官と顔を合わせる時間は激減したが、里の危機を乗り越え落ち着きを取り戻せばそれも改善されるであろうと信じて。
     その間に、彼が一人の女性と仲を深めていたなんて知る由もない。

    「我が愛弟子には一番に伝えておきたいと思ってね!」

     そんな言葉と共に信頼と親愛を込めた笑顔を向けられる。昨日までわたしはこの笑顔が大好きだった。教官のこの笑顔を見られるだけで満足していた。心のどこかで、これが彼の一番愛情深い表情で自分だけのものなのだと、驕っていた。

    「俺とお付き合いしてくれることになった、■ ■ ■さん」

     教官の隣に立つ、愛らしくも意思の強さを感じる顔立ちの女性。その女性のものであろう名前を呼んだ瞬間に教官が彼女に向けた視線、目の細め方、眉の下がり方、優しい声色、すべてが。今まで見たこともないほどの深い慈愛と燃えるような熱、一言で表すなら“愛”を、湛えていた。
     愛弟子、それを世界一の称号なのだと勘違いしていた。積み重ねた時間の深さが愛の深さに比例するのだと思い込んでいた。
     血液が砂になってざらざらと身体中を削りながら巡るような感覚。口を、開けなかった。だって開いたら自分は何を言い出すかわからない。みっともなく喚き散らすに違いないのだ。立ち尽くすだけで精一杯。表情を取り繕うことすら出来なくて。

    「……愛弟子?」

     黙ったままの自分を見てさっと顔色を変え、手を伸ばすべきか迷うように持ち上げながらこちらへ歩み寄る。その手を取って駆け出したい、付き合わないでと叫び出したい、わたしにしてよと泣き出したい。飲み込め、飲み込め、飲み込めと繰り返し念じ言い聞かせ俯きながら舌を噛む。

    「ガウッ!」

     突如聞こえた吠え声に振り向けば、険しい表情でなにかを訴えかけるオトモのガルク、その足元には蹲るオトモアイルー。ぷるぷると震える様子から痛みか何かに耐えているのだと気付き、一旦思考を手離して慌てて駆け寄った。

    「大丈夫 どこか痛いの」

    「……ゥニャウ……だ、大丈夫ニャ……おうちに帰ればおくすりがありますニャ……ひとりで帰れますニャ……」

    「なに言ってるの! ……教官、すみません、わたし……!」

    「こっちのことは気にしないで、早く連れて帰ってあげて!」

    「はい! ……いくよ!」

     アイルーを抱いたままガルクに跨る。大急ぎで駆ければこの狭い里の中、自宅へはあっという間だ。

    「薬はどこ」

     家に飛び込むなり半ば叫ぶようにそう問いかける。
     オトモたち、特にアイルーの私物には出来る限り干渉しないようにしているが今はそんなことを言っていられない。一見して玩具ばかりのそのスペースの前にしゃがみ込み手元を見ると、アイルーは申し訳なさそうな表情で後ろ頭を掻いていた。

    「ご主人サマ、ごめんなさいニャ……」

    「え、な、……え?」

    「ぜーんぶ演技ですニャ。ご主人サマはやさしいから、きっとこうしてくれると思ったのですニャ」

     ぺこり、と頭を下げるアイルー。続けてガルクも頭を下げて謝罪の意を表明した。一拍遅れてその意味を理解し安堵のあまりアイルーを床へと下ろしてへたり込む。何故そんなことをしたのか、けれどあの状況を思い返せばそれも明白だった。
     わたしのため、だ。いつもそばで共に戦ってくれていた彼らがわたしの異変に気が付かないはずがない。気を使わせてしまったことに申し訳なく思いつつ彼らの頭をがしがしと撫でる。

    「……わたしだけじゃない。あの場のみんなに心配かけた。それがいけないことだっていうのは、言わなくてもわかってるね。…………ありがとう」

     事態は何も変わっちゃいない。思い出した、重く辛い現実が自身の上にのしかかる。けれど先程よりはずっと冷静になることができた。相手の女性に何も言わないまま場を後にしてしまったし、今度会ったときに改めて挨拶しなければならないだろう。
     それまでにきちんと覚悟を決めなければいけない。

    「……わたしが悪い、のかな……」

     教官でしかない相手に教官以上のものを求めた自分が間違っていた。それはきっとそうなのだろう。でも、師弟以上の関係を望めば彼を困らせるだけだったのではなかろうか? もしそうなら自分のこの想い自体が悪で、過ちなのだろうか。自分一人で考え続けても答えなど出るはずもなく、自分の懊悩などよそに日々は恙無く巡る。

     一年が過ぎた頃、ウツシ教官とその恋人の結婚が決まった。
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