誰かタイトル考えて欲しい。　別れとは寂しいものである。
　それは何千年と生きている神にとっても同じだ。幾度となく経験していてもそう簡単に薄れるものでは無い。
　その日、棺の中で眠りについたのは若い音楽家夫婦だった。今は凡人として生きている少年は、少しアルコールの回った頃に彼らと1曲奏でるのが好きだった。
　事故だった。
　海外公演から帰る飛行機が墜落した。夫婦共に身寄りのなかったらしい彼らの葬儀に人は少なかった。生前の本人達によると駆け落ち同然の結婚だったため双方の家族と縁が切れているらしい。その言葉通り式場に親族らしい人影はなく、その多くは彼らの奏でる音楽を愛していた人々だ。彼らが最後に発表した曲が流れ、時折すすり泣きの聞こえる式場の隅に少年は立っていた。たとえ広い海の上であっても風は吹いている。その風に乗って故郷に帰ってくるであろう2人の魂を静かに待っていた。この式場をあとにしたら海風の吹く崖の上で愛用のライアーを手に二人を出迎えようと。
　その時、式場の空気とは不釣り合いなほど軽い足音が横を通り過ぎた。足取りが軽いという意味ではない。足音の主自身の体重が軽いのだ。足音の主は幼い少女だった。本当にとても幼い。まだ歩き始めて間もないのではないだろうか。艶のあるブロンドを揺らすその少女に少年は初めて会ったのだが、夫婦に2歳になったばかりの娘がいることは知っていた。
「うちの娘は本当に可愛いんだ。ただ、お酒好きになったら困るから君には会わせられないな。」
　冗談交じりに話す友人の顔を思い出す。まさか本当に会わせて貰えないまま、このような場で顔を合わせることになるなんて。
　――「可哀想に……あんなに小さい子を残して逝ってしまうなんて。」「彼らも心残りに違いない。」「引き取り手は居るのかしら。」
　何処からか聞こえてくる会話とは裏腹に「ならば私が」と名乗り出る者が出てくる様子はなかった。この場に集まっている多くはまだ名の売れていない若い音楽家だったので、子供を引き取るような余裕も収入もないのだ。そんな周りの大人たちにはお構い無しに、少女はその小さな足で何とか両親の元に辿り着いたらしい。
「ぱぱ、まま、まだおねんねしてるの？」
　少女はまだ上手く回らない舌を懸命に使って両親の亡骸に話しかける。彼女は今にでも2人が起き上がり、その小さな体を抱きしめてくれると信じていた。なぜなら大好きな父と母が彼女の声掛けに応えなかったことなど今まで1度もなかったのだから。その場にいた人々は、どうしようもないやるせなさを感じながらもただ見守ることしか出来ない。掛ける言葉が見つからないのだ。君の両親はもう永遠に眠ったままだなんて、こんなにも幼い女の子に言える者などいるだろうか。いや、1人、淡く光る髪の少年は知っていた。ただ訳も分からず別れを告げられないまま永遠に会えないことが、どんなに残酷であるかを。段々と声に不安が滲み始めている少女の横に静かに腰を下ろした少年は

　―――――――――以下メモ―――――――――
　どうやら彼女の髪の毛はまだ二輪のバラを作るには少し短いようだ。

　小さな少女はまだ両親がこの世に居ないことを知らない。
「えーっと、何か食べたいものとかある？」
　少年の姿をした神もまた、子育てというものを知らなかった。