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    挫折した文章のきれはし (ぜーんぶ遊ジャです)
    そのうち書くかもしれないけど、エディタに入れておいても忘れちゃうだけだから

    ##遊ジャ

    挫折した文章のきれはし・  三十路くらいの遊ジャ(R15)

     恋人の贔屓目ではないが、遊星は本当に格好良くなったと思う。
     癪だから本人には言わないが、ネオ童実野から旅立った当時よりも少し身長が伸びているような気がするし、顔立ちも、青年の幼さを残したものからすっかり男ぶりを上げた。短く切り揃えた黒髪はワイルドで渋い大人の男を演出しており、かといって身なりが杜撰すぎるわけでもなく、十年弱の社会人としての生活で培われた、どことなく風韻を漂わせるいでたちには清潔感がある。ジャックが小さい頃から気に入っている深い青藍のまなこは鷹揚とジャックを見つめ、それがまたなんとも艶があるのだった。
     そんな遊星が、ジャックを眺めて「きれいだ」と言ってくれる。想いを通わせてからもうずいぶん経った今も。
    「ジャックはいつ会ってもきれいだ」
     アルコールに酩酊し、語尾を柔らかくしながらも、精悍で硬質な遊星の魅力にジャックの胸は高鳴りっぱなしだ。雰囲気に酔っている、というのもあるのかもしれない。きらびやかな都会のスペクタクルを一望する高層ホテルのレストランで、落ち着いたジャズヴァイオリンの音色に身を任せながら、恋人の腕に閉じ込められ……白いレザーのヴィンテージソファに二人隣り合って腰掛け、甘い貴腐ワインで濡れた唇でキスをしたり、お互いの項に触れ合ったりする、そんな夜。どうせ誰も気にしない。みな、自分の大切なひとを構うのに必死なのだから。
     アルコールの勢いに任せ、硬い胸にしなだれかかれば、遊星は照れたようにはにかんだ。スパイシーなバニラの香りがする。骨張った男らしい指に頬をとらわれ、またキスをする。濡れた舌に歯の裏側をなぞられると、温かくて、くすぐったくて声が出そうになる。
    「……遊星はかわいくなくなった」
     唇から出てくるのは憎まれ口ばかり。でも、遊星は何もかもわかっているとばかりに目を眇め、優しく手を握ってくれる。腰まである長い髪を撫でる手も、黒檀のテーブルの下でつつきあう足首も、腰に回してくれる腕ですら優しい。遊星が好き。
    「ジャックに相応しい男になりたくて、努力したからな」
    「何を言う。この俺と並び立てる男は、今も昔も、不動遊星ただ一人だ……」
    「光栄だ」
     嬉しそうな遊星の笑顔が愛しい。好き。大好き。激動の人生に翻弄されながらも、変わらず遊星を愛し、愛されていられることが、ジャックにはこの上なく幸せだった。
     今夜くらい甘えてもいいだろう。ジャックはそっと遊星の肩に頭を乗せてみる。

     ボトルを三本開け、身体も熱ってきたところで、部屋を取ってあるんだ、と遊星からの申し出があった。ワンフロアが丸ごと一室になっているタイプのスイートルーム。ジャックも腹の底まで酔いがまわり、ほどよく熱を持て余していたので、大人しく遊星の案内に従った。
     ボーイに荷物を預け、専用エレベーターで最上階まで上がる。ジャックの手をぎゅっと握る遊星の手のひらが熱い。遊星はずるい……。もうお互いうぶな年齢でもないのに、遊星はジャックの心を好きに掻き乱し、とろとろに溶かしてしまう。ボーイがこちらに背をむけているのをいいことに、こっそり遊星の手に指を絡め、きつく握り返した。
    エレベーターがフロアに到着する。自動ドアが音もなく開くと、そこはもう二人の部屋だった。
    革製のソファセットと大理石のテーブルが備え付けられたリビングルームは、ガラス張りの壁一面から夜景を見渡せる絶好のロケーションだ。室内には他に、技巧を凝らした大きな絵画や薔薇を生けた上品な花瓶が飾られ、小さなバーカウンターにはウエルカムフルーツをふんだんに盛った大皿と、氷で冷やされたシャンパンボトル、グラスが二つ並んでいる。主寝室やバスルームは更に奥にあるようだ。
     ボーイが去り、二人きりになると、どちらからともなく抱き締めあった。互いの背中に腕を回し、ぴったりとくっついて、体温を分け合う。遊星との抱擁はいつも心地良い。心が満たされていく。
    「ジャック……」
    耳がらに低くささやかれ、ジャックはからだを震わせる。背筋を何かが走り、腰の奥はきゅんと切なく欲求不満を訴える。ジャックは期待に瞳を潤ませながら遊星を見下ろした。遊星もまた、熱っぽく見つめ返してくる。
    遊星はジャックを抱き寄せたまま、ゆっくりと寝室へと誘った。
    キングサイズのベッドにもつれこみ、お互い服を脱ぐ間すら惜しんで唇を重ねた。素肌同士が触れ合い、お互いの汗ばんだ皮膚が吸い付くように絡む。
    「遊星……あつい……」
    吐息の合間に訴えれば、また唇が降ってくる。舌先を吸われ、甘く噛まれると、まるで爪を剥がれた小さな羊のような、無力で感じやすい自分が顕になっていく。
    「ふ、ぅ……、んン……ッ」
    ちゅ、ちゅう、と唇が触れては、お互いの粘膜の上で蝶のように跳ねる。


       現人神ジャック

     ジャック・アトラスは美しかった。見る人の心のデリケートな部分にまで突き通っていくような、そういうたぐいの美しさだった。
     彼を前にして、人はその短い人生の間まったく経験したことのないような矛盾の輪に陥ることになる。爛漫らんまんと咲き溢れている花の華麗。 竹を割った中身があまりに洞すぎる寂しさ。こんな二つのアンチノミーを、ただ一人の男が備えている。
     血管の浮くような腕や足はすらりと長く、肌は細かな白砂然として、まるで神様が美しくこしらえた人形のようなからだ。細い髪は天女が拾い集めて束にしてきた月の光芒、瞳は薄くさみしいすみれ色、唇は咲きたてのスイートピーの花弁。白痴ではないかと思うほど無抵抗な肉のやわらかさ。
     この世のものとも思えないほど美しい人。遊星の、たった一人の恋人だ。


       遊星のいないジャックの城

     私の三番目の主人はまだずいぶん若かった。でも、足が片方なくて、初めて会ったときも、金属の車椅子にすっと背筋を伸ばしていらしたわ。
     ふるさとの国はもう十年以上戦争をしていて、ひどい爆弾がそこかしこに埋まっていて、毎日当時の私と同じくらいの子どもたちが足を吹き飛ばされたりしていた。でも、この街は戦争なんかしていないし、毎日とても平和なの。はじめてここに来たときは、電車の窓から見える、ピンクやオレンジ、黄色の小さな建物や、どこまでも続くエメラルドグリーンの海のことを、お話の中の神様だと思って泣いたくらい。けれど、その人は、張りのある腿の筋肉が途中でなまなましく途切れているのを、銀色の装具でかなしく覆っていらした。
     私、その人のことを知っていたの。一番最初に私を家政婦として引き取ったマダムが、彼と仲間たちのファンだったのよ。私、カードゲームには本当に疎いのだけれど……キングといったらもうものすごく流行っていて、街のそこかしこで彼の声を聞いた。でも、車椅子の上での彼の声は、思慮深く、チェロの音色のように落ち着いていて、私の気が少しでも他にそれていたら、彼だとは気づかなかったかもしれない。
     彼は、若い私の灰色の目や黒い肌をすっとごらんになって、この仕事をするのははじめてか、とお尋ねになった。
    「ええ、ムッシュウ、わたくし、コート・ダジュールで過去に二度ほどお勤めさせていただいておりますわ」
     私はちょっと片膝を落とし、すっかり萎縮して縮こまってしまった喉をいっしょうけんめいに動かして告げた。男性を前にして緊張していたのかもしれない。マダムのもとをお暇したあと、シミエに住む裕福な銀行家のお家に厄介になったのだけれど、そこのご主人が私にちょっかいを出してきて、おかしなことになる前に暇をいただいたばかりだったから。
     彼はとても穏やかな微笑みを浮かべてうなずいた。
    「では、ここでもそのようにしっかり働きなさい」


       愚痴るジャック

    「遊星が浮気しているようなのだ」
     ジャックのそんな一言に、クロウは思わずコーヒーを吹き出しそうになった。神妙な様子で瞬きを繰り返す目にキュッと睨まれ、わりい、と謝りつつ、彼の口から飛び出た突拍子もない疑いの言葉に喉の奥で笑うのをやめられない。
     プロリーグ初優勝を華々しく飾り、瞬く間に全世界の注目の的となったこの男に呼び出され、クロウは正直もっと深刻な話題を持ち出されるのではと予想していた。地元でも格式高い飲食店を待ち合わせ場所に指定され、テーブルに着くと同時にジャック自ら二人分のブルーアイズマウンテンを注文するのを見せられて、クロウの頭には親しい人間の訃報やくだんの大会での深刻なトラブルなどが次々よぎった。しかし、勿体ぶって回りくどく世間話をしようとするジャックをせき立てて引き出した第一声が、先の一言だったのだ。失笑してもさもありなんといった状況だった。
    「何馬鹿なこと言ってんだよ。あの遊星が浮気? 神経質になりすぎだっての」
    「本当だ。俺も信じたくないが、最近の遊星は浮気をしているとしか思えんのだ」
     大体、ジャックの想い人であり、クロウの大切な親友でもある不動遊星という男は、幼少のみぎりからジャックにべったりだった。誰の目から見ても遊星はジャックをとても大切にしていたし、特に彼らが恋人同士になってからは、その溺愛ぶりは彼らを心から応援する仲間たちですら呆れて物が言えなくなるほどだった。クロウやジャックがプロリーグに進出してからは遠距離恋愛の形に落ち着いたようだが、それでも遊星からの定期連絡にジャックへの愛情を失った様子は全くない。むしろ日に日に激しさを増していて、胃もたれの薬を買おうか悩んでいるくらいだ。
     要するに、ジャックの心配はおそらくただの杞憂なのだ。むしろ、いつ結婚するのかとドキドキしていたクロウに、先のジャックの一言は青天の霹靂だった。
    「最近、遊星からの連絡が少ない」
     憂鬱げに瞼をふせ、ジャックは嘆息する。
    「明日電話すると約束したのに、直前になって反故にする頻度が増えた。メッセージの返信も遅い。何かあったのかと聞いても、上手くはぐらかして答えようとしない……」
    「や、あいつが忙しくしてんのはいつものことだろ」
    「やつはこの俺がひまだと言えば深夜でも連絡をよこしてくる。声が聞きたいと言えば五分後には電話をかけてくるし、会いたいと言えば以後三日の予定をきちんと開けてくれる。俺はそんな遊星を愛……いや、とにかくやつはそういう誠実な男なのだ。だが、最近はそうではない」
     それはお前がわがまますぎるだけなんじゃねえか、といった一言をすんでのところで飲み込んで、クロウはぶすくれるジャックを眺めた。
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    うーん

    DOODLE断念したものを、女体化で恐縮なのですがせっかくなので掲載します。PKSP金銀です 死ネタ・キャラの実子の存在 ご注意ください
     すぐ戻ってくるからと、言いながら頬にふれたいいかげんで優しい唇のこと、きっと死ぬまで忘れない。
     彼は戻ってこなかった。冷ややかな永遠の存在を教えて、それだけ残して、シルバーから静かに立ち去った。言い訳はいくらでもつく、足下がぬかるんでいたのだろう、頭の打ちどころが悪かったのだろう、その人は不具だったのだから仕方なかろう、シルバーだってそのときその場にいれば同じようにした。だが、蕭条と霧雨に濡れた皮膚、不健康に血管の色を透かして青白く、今にも内側から破けそうな、またすでにいくらか硬直もはじまってさえいるその身体を前にして、彼女はすんでのところで自らの錯乱を抑えた。女の啜り泣き、警察があたふたと場を検証する足踏み、雨が街を洗う音、全てが遠かった。揺らぐことなく闊達で、晩年は老成したおだやかな目で妻をよく守った、この男。こんなところで、あえなく、失うことになろうとは。へたり込んだ姿勢から上半身だけを彼に傾け、血色の引いた唇に最後のキスを返したとき、ふと、彼の固く結ばれた右手に何かを予感した。開くと、硬い外皮に包まれた植物の小さな種がいくつか、傷ひとつなく守られていた。
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