スティグマの薫1 プロの対局における消耗は、長距離のマラソンに匹敵するという。脳は相手の手番中も、絶えず思考し、己の手番ともなるとそれはまるで積み上げられた本の山から、何冊も同時に読む様な負荷がかかる。
「は……ぁ…」
[[rb:月山元 > つきやまはじめ]]にとって、対局後の消耗は、文字通り命を削る脳の疲労と体の重さがついて回る物だった。いっそ蝙蝠にでも成れたら、この東京の夜空を飛んで帰れるだろうか、等と詮無いことを思いながら、この日も将棋会館を出た。
「あ……」
数歩進んでは、立ち眩みに足が止まる。
不老長命の吸血鬼が、脳の疲労だけでこんなにもボロボロになるなんて、一体誰が信じるだろう?
――血が欲しい。
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