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    warabi0101

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    warabi0101

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    ※転生パロ&捏造
    小学校の夏休み、お盆の夕暮れの海辺。不思議な男と出会う、少年壊相くんのお話。
    ぼくの/なつや/すみ2のオマージュのような何かです。
    (過去pixivに投稿したものです)

    #呪胎九相図
    theNinePhasesOfTheCurse
    #パロディ
    parody

    いつかまた陽は巡る(呪i胎九相i図)哀しいほどに赤い夕焼けだった。

    橙色に染まった海から吹き上げる潮風が、防波堤の上を駆け抜けていく。


    私は隣に置いた色鉛筆の箱が飛ばない様に軽く手で抑え、段差の下に垂らした脚をぬるい風が押すままにぶらぶらと揺らす。

    強い風に目を覚ましてしまったのではと、隣で眠る弟の顔を覗き見る。弟は口をもごもごとさせているものの、コンクリートの上に横になり実に気持ちのよさそうに眠っていた。手に握っていた綺麗な貝殻がころりと転がる。今日はずいぶんと元気に遊んでいたからきっと疲れているのだろう。

    愛しい弟の寝顔と髪を撫でる潮風と腰下のあたたかなコンクリートが心地よくて、ゆっくりと深呼吸をすると心臓の音がとくとくと聞こえた。


    夕日がきらりと目に入る。

    私は胸に抱いていたスケッチブックを膝に乗せ赤色の色鉛筆を握りしめると、再び燃えるような夕焼けを真っすぐ見つめた。







    =====================



    ―――私は、物心ついた頃から絵を描くのが好きだった。

    空想のものではなく、目に映った美しいものを紙に描いていくのだ。

    優雅な白鷺、細やかな蝶の翅脈、巨木の木陰、薄暗い雲の群れ、枯れ落ちていく薔薇の花。
    季節が巡るごとに色を変えていく世界が、毎日違った強さで光輝く世界が、不思議でいつまでも新鮮で。どうしてみんな、こんなに美しいものを見て描かずにいることが出来るのだろうと思った。

    私は世界を描かずにはいられなかった。
    どくどくと脈打つ心の動きのままに目の奥に焼き付いた美しいそれを自分の手で紙に染めていくことが、とても自然なことのように思った。


    ―――そして、絵を描くことと同じくらい、愛する家族に絵を見せることが好きだった。

    私の見た美しい景色を家族にも共有したかったから。
    私の見る世界が美しいものだと、知ってほしかったから。

    「おれ、兄者の絵だいすきだぁ」

    生まれつき目がわるく遠くの景色を見ることが出来ない弟は、私の描いた絵をとても喜んでくれた。
    これが川、これが駒鳥、これがとおくの山から昇る朝日と指をさして教えてやると、画用紙を握りしめてぐっと顔を寄せて隅々まで絵を見てくれる。ホントにこんな色なのかぁ凄いなぁと驚きながら頬を染めて興奮する弟が、愛おしくてたまらなかった。父と母も私の絵を見て口々に褒めてくれた。上手い下手はそんなに重要なことではなかったが、私の世界を見てもらえることがただ嬉しかった。


    だけど。


    誰か、ひとり。


    誰かひとり忘れている気がした。


    絵を描き上げるたびに私がこの景色を見て欲しいと心から思うのは、家族に対してだけだった。
    父と母と血塗と、いまは母のお腹にいる双子の弟たち。それが私の家族の全て。そのはずなのに。
    あと一人。いるはずなのに、いない人。
    とても大切なものを数え間違ってしまったような、悲しい不安がいつも私の胸の底にあった。

    それが誰かは分からなかった。
    でも、どうしてもその人に絵を見て欲しかった。
    私が美しい世界を見ているということを知って欲しい。
    きっと、とても喜んでくれるから。

    絵を握りしめて家族の輪の中に探しても、その人はどこにもいなくて。
    私はいつも家族に隠れるようにひとり涙をこぼした。







    ====================




    ざあ ざあ ざあ
    波の音は、心臓の音のようで好きだった。
    その音が絵から聞こえるようになればいいと、夕方になるといつもここに絵を描きに来ていた。

    小学3年の夏休み。8月1日にこの海沿いの街にやって来てから2週間が経った。
    臨月を迎えた母の負担を減らすために預けられた叔父の家は放任主義な家で、学校の宿題も終わらせていた私たち二人は朝ごはんの後から日が暮れるまで、飽きもせず毎日毎日海辺で遊んでいた。

    今日も、
    遊び疲れて眠る血塗相の横で、海に沈む夕日を描く。

    今日の太陽は昨日よりもずっと紅い。
    雲の霞もなく太陽の輪郭がはっきりと見えて、今にも手に取ることが出来そうな夕日だった。ぽってりと紅い太陽が足先をとおくの海に浸して、その冷たさを確かめながらゆっくりと身を沈めていく。あかい光に焼かれた空がじりじりと色を変えていくのを静かに見送る。太陽から伸びた橙色の光の道が波に合わせてゆらゆらと細く揺れている。

    ふと、いつか本で読んだものを思い出した。
    羊水の海に浮かぶ、赤裸の胎児。母親と胎児を繋ぐねじれた緒。母の愛に包まれて微睡みほほえむこども。
    波の音は鼓動の音。母の柔らかくふくれたおなかに耳を当てたときに聞こえた、命の音。
    私は夕焼けの景色にそれを見た。

    目の奥に光が散るほどにその景色を見つめて、色鉛筆を握りしめて膝に乗せたスケッチブックに線を引く。鉛筆を横に寝かせてさらさらと滑らせると淡い橙が太陽の色をずっと際立たせてくれた。命の輪郭を描くように暗い色で太陽の中にうねりを描く。波の音と鉛筆が走る音、そして弟の寝息だけが聞こえる世界で、私はいくつもの色を重ね美しい夕日をゆっくりと縁取り、自分の手のなかにそっと丁寧に描きうつしていった。





    「良い色だ」

    突然隣から聞こえた声に、絵に夢中になっていた私は肩を跳ねさせる。
    すでに膝の上にはもう一つの太陽が浮かび上がるようになっていた。
    横を見ると、男の人が私の隣に腰かけていた。いつからそこにいたのか、深く悲しげな黒色の目で私と私の絵をじっと見ている。

    「お前の瞳を通すと、そんな美しい色になるんだな」

    不思議な格好をした人だった。白黒の、浴衣のような服を着ている。
    高く括ったざんばらな髪が潮風に揺れて、ひらひらとした袖もふわりと広がる。とても背の高いがっしりとした男のひとなのに、重たそうな暗い色の服が体を抑えていなければ潮風に乗って飛ばされてしまいそうな感じがした。

    「お兄さん、だれ?」

    私はスケッチブックを撫でながら聞く。
    知らない人だったが不思議と怖くなかった。男の人が私たちに向ける目が、悲しいほどに優しかったから。

    「…俺は―――」


     お兄ちゃんだ。


    夕日の方に目をやり口を固く結んだあと、男の人は零れ落ちるようにそう言った。
    私が何も言わずじっとその横顔を見つめていると、また深い黒の瞳がこちらを見た。
    夕焼けに照らされてこんなに明るい世界で、そこだけぽっかりと穴が開いたような瞳だった。

    「壊相」

    なんで、私の名前をしっているんだろう。
    お兄ちゃん、ってどういうことなんだろう。
    黒い瞳の美しさに魅入られていた私の頭に、そんな疑問が浮かぶことはなかった。
    名前を呼ばれたことが何故かひどくうれしくて、泣いてしまいそうなくらい幸せな気持ちだったから。


    「―――――背中は、どうだ」


    男の人が噛みしめるように聞いた。私は首をかしげる。

    「背中?」
    「ああ。 ―――痛く、ないか」
    「うん。痛くないよ」


    「…苦しくはないか」
    「うん」


    「悲しくはないか」
    「うん」




    「―――――いま、幸せか」


    男の人の不思議な質問に流れるように答えていた私は言葉に詰まった。
    それは、簡単に答えていい質問ではなかったから。

    私は後ろを振り返り、まだ気持ちよさそうに眠る弟の頬に手を添える。

    「…うん。幸せ。」

    私はその温かさを確かめてからそう答えた。

    「そうか」

    よかった。と男の人は笑った。




    それから私たちは夕日を見つめながらぽつりぽつりと言葉を交えた。
    彼は私の―――私たち家族のことをしきりに聞きたがった。
    母のこと、父のこと、血塗相のこと。そして、生まれてくる双子の弟のこと。

    「…本当は、会うべきではないと思った」

    ざあ ざあ ざあ
    風が強くなり波の音が騒々しくなるのに、男の人の低い声は私の耳に真っすぐ届く。

    「俺が居なくてもお前たちが幸せに生きているならば、何も問題はない」

    せっかく膿爛相と青瘀相が俺の手を引いてくれたんだが。そう呟く男の人の眉が、瞼が、唇が、時を刻むようにゆっくりと動く。悲しげで、幸せそうだった。

    「―――だが壊相、お前だけにはどうしても会って、話がしたかった」

    「…どうしても、謝らなければならないと思ったんだ」

    「俺がお前の、たった一人しかいない存在を奪ってしまったから」

    「お前の先を歩む者を、奪ってしまったから」

    私には男の人の言っていることが良く分からなかった。
    それでも私は首を振った。男の人が言ったことは、絶対に違うと思った。

    私はあなたに何も奪われてなんかいない。

    は、与えられてばかりだった。
    貴方・・に。
    たった一人道を進む貴方・・に。
    何も返すことが出来なかった。

    言葉もなくただ首を振り続ける私の頬に手を添えて、男の人は薄い唇で小さく微笑んだ。


    「すまない、壊相。―――弟たちを頼む。」


    男の人が立ち上がった。夕日を眺め眩しそうに目を細めている。

    「…もう、行っちゃうの?」
    「ああ」
    「どこに行くの?」
    「…とても、遠いところだ」

    ざあ ざあ と波が鳴く。
    ひらり、と目の前を白い袖が翻った瞬間、彼が消えてしまうような気がした。
    どくり、と胸が脈打った時にはもう駆け出していた。

    「まって!」

    私はスケッチブックを抱えたまま、ぶつかる様に男の人に縋りついた。

    「いか、ないで…!」
    「…………………」
    「ずっと、ずっとここに…いてください」

    彼の袖を握りしめ、黒い服に顔を埋める。ややあって割れ物に触れるようにそっと背に回された彼の腕はとてもあたたかかったけど、縋りついた体は何の匂いもしなくて。私は滲む涙を必死にこらえた。
    すまない壊相、という小さな声に顔を上げると、彼は苦しそうに眉を寄せていた。ああ、ちがう。こんな顔をさせたいわけじゃないのに。自分の胸から溢れてくる感情がうまく言葉にできなくて、私ははくはくと口を開いては閉じた。

    「駄目だ。――――俺は、駄目なんだ。」
    「どうして?」
    「俺が――――お前たちを、死なせたからだ。」

    それに、俺は人を殺した。だから、お前たちと一緒には生きられない。
    男の人の頬から鼻に走る文様から、ぽたりと赤黒い液体が滴り私の頬を濡らす。
    私は奥歯を噛みしめると、液体が彼の服につくのに構わず再び縋りついてくぐもった叫びをあげた。

    「いいよ、私、それでも…それでもいい、から…!」
    「…壊相は、優しいな」

    流石、俺の弟だ。彼の柔らかな言葉が、私たちが一緒にいられないことがどうしようもない真実であるということを示していた。かなしくて苦しくて視界が歪む。だめだ、泣いちゃだめ。ちゃんと見せて。この人を。美しいこの人を、目に焼き付けさせて。
    私は男の人に抱きしめられながら嗚咽を押し殺すようにして泣いた。



    「…また、会える?」
    「ああ、もちろんだ」

    男の人は私が泣き止むまでずっと傍にいてくれた。男の人の腕の中から見た夕日はもう半分ほど海に沈みこみ、空はことごとくが赤く焼けて恐ろしかった。彼が私の黒い髪を丁寧に撫で、背中を優しく叩いてくれる振動が私の体の底に落ちていく。耳を押し当てた彼の胸の奥から、優しい声が響いてきた。

    「お前たちが永く長く生きて――いつか死んで、また生まれて。生きて、死んで、また生まれて」
    「その先できっと、俺たちはまた出逢うだろう」

    男の人はそう言うと、私の背に回していた腕を解き微笑むと、そっと私の手を取り小指を絡めた。
    「約束だ」
    私が小指を丸め彼の小指に絡めると、彼はもう一度微笑んだ。
    ―――もう、お別れなんだ。私はやっと理解した。
    私はこくりと頷くと、彼と私の間に挟まれてすこし皺が寄ったスケッチブックに目線を落とす。

    びり、とスケッチブックからちぎり取った夕日の絵を差し出した。

    「…俺に、くれるのか」

    腕を差し出したまま私はまたこくりと頷く。うまく言葉が出なかった。お別れの言葉も、何も。
    また込み上げてくる涙を隠そうと私は俯いた。こんなことしても、きっと意味はない。でもどうしてもこの人に見て欲しかった。その寂しげな背中が進む道をこの綺麗な夕日が照らしてくれることを願わずにはいられなかった。
    画用紙を握った私の手を男の人の大きな手が包む。あたたかくて、私は唇を噛みしめた。

    「ありがとう、壊相」





       どうか、幸せに。









    ―――瞬きの間に、彼は消えた。

    男の人が立っていた防波堤はただ沈みかけた夕日で橙に照らされて、相も変わらず吹き付ける潮風がぽっかりと開いた隙間をあっという間にかき混ぜ押し流してしまう。私の背中と手に残ったぬくもりだけが、彼がここにいた名残だった。

    深く息を吸って振り返る。冷たくなり始めた風が私の手の熱を奪う前に、家に帰ろうと思った。
    長くなった私の黒い影が防波堤の淵をなぞっていく。
    コンクリートに寝そべったままの血塗相に歩み寄り、色鉛筆の箱を拾い上げる。

    ――――その時、強い一陣の潮風が吹いた。

    その拍子に胸に抱えていたスケッチブックが落ち、ばらばらとページがめくられる。
    吹き飛ばされる前に拾い上げようと慌てて手を伸ばした瞬間―――私は息が出来なくなった。
    体の芯が哀しみで震えて、押し出されるように涙があふれ出す。
    ぽた、ぽた、と涙が画用紙に落ちていって、色鉛筆の色がまあるく滲んでいく。
    苦しくて堪らなくて、私はスケッチブックを掻き抱いて身体を丸めて泣いた。

    「んあ…?どうしたんだぁ兄者」

    私の嗚咽に目を覚ました血塗相が心配そうに背中に手を添えてくれる。私は血塗相の身体をスケッチブックと一緒に抱きしめてまた涙をこぼす。



    私の握りしめたスケッチブックには―――彼に渡したはずの真っ赤な夕日の絵が描かれたままだった。
















    おしまい


    この日の夜、お父さんからの電話で「双子の弟たちが生まれた」と知らされるふたり。
    きっとあのとき、あちらとこちらが繋がったのだろう。
    心の中であの男の人が嬉しそうに微笑む姿を思い浮かべて、壊相は嬉しそうに飛び跳ねる血塗相の手を強く握り返した。
    きっとまた逢える。そう信じていた。









    =========================



    ちょっとした設定と蛇足



    壊相
    長男。小学3年生。自然の絵を描くのが大好き。弟の血塗相と共に夏休みの間親戚の家に預けられていた。
    一番好きな花は薔薇。いつか自分の手で育ててみたい。
    いつからか彼の描く風景画の中に、凛と立つ美しい一人の男が描き込まれるようになった。

    血塗相
    次男。小学1年生。生まれつき視力が弱く、遠くのものが良く見えない。
    一番好きな花はクチナシ。いい香りがするから。
    拾っていた貝殻は、生まれてくる弟たちへの贈り物。お兄ちゃんになれることをずーっと楽しみにしていた。

    脹相
    この世の人ではないモノ。双子の「弟たち」がたった一度だけ、この世に招き入れてくれた。
    その手を血に染めた罪ゆえに大切な弟たちとの血の繋がりを絶たれたが、いつかまた繋がることを信じている。






    以下、蛇足。
    壊相が脹相と会ったときに「絵を見せたい人」が目の前の人だと気が付かなかったのは、血が繋がっていないから、かもしれません。
    あと、「脹れる」は良くない意味のふくらみを指すそうですが、彼らにとってはそうではないかもしれない、と思ったので。
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