決戦前夜if あんまり可哀想で、思わず抱き締めてしまった。
その時親衛騎団の騎士シグマは、夜の港町で魔法使いの少女ポップを抱き締めていた。
シグマの腕の中で、ポップはわんわんと子供のようにむせび泣いている。
(どうして私は、敵である彼女に胸を貸しているのだろう)
涙を流すポップの髪を撫でながら、シグマはこうなった経緯を思い出していた……。
◆◇◆◇◆◇
「ここってもしかして、サババか?」
大魔王と最後の戦いに挑む前夜。
師マトリフの住み処からカール王国の森のある砦に帰る途中、ポップは魔法力の減退を感じ一度地上に降り立った。
そこはかつてハドラー親衛騎団と戦った港町サババだった。
ポップはそこの堤防に腰掛け、夜風にあたりながら師に言われた言葉を思い出していた。
「自分を信じろ、か……」
それは言葉で言うのは簡単だが、いざそれをやろうとしても難しいことだった。
どうやったら自分を信じられるのか。ダイやマァム、レオナのように特別な生まれでもなければ、ヒュンケルのような悲劇を背負って生きてきたわけでもない。
つい一年前まで凡庸な武器屋の娘として生きてきた自分のどこをどう信じればいい。
「わっかんねえよ……もう……」
ポップはため息を付きながら膝を抱えて、顔を伏せる。
その時背後で、ジャリっという小さな足音が聞こえた。
いつものポップだったら、足音が聞こえた瞬間危険を察知し、すぐに立ち上がって態勢を整えただろう。
だが自分の力に思い悩んでいたポップは、少し反応が遅れた。
「ふぐうっっっ!?」
背後から口を塞がれると、ポップはそのまま堤防から引きずり落とされて地面に仰向けに押し倒される。
ポップの目の前には、どう見てもかたぎではない下卑な笑みを浮かべた二人の男がいた。
「よっしゃ! まさか火事場泥棒に来た先で女が見つかるなんてな」
「うへぇ……女って言ってもションベン臭さそうなガキじゃねえか。ほんとにやんのかよ」
「ガキだろうが女は女だろ。穴が使えりゃいいんだよ」
「そりゃそうだな。タダでやれる女に文句は言えねえや」
(こ、コイツら……!!)
男達の会話を聞いて、ポップはこの二人が人間の中でも最低の部類の入る男だということを瞬時に悟る。
この男達は、サババの住人が町から避難する際、家に残してきたものを盗んでいたのだ。
そして港に一人でいる女を見つけ、これ幸いと言わんばかりに二人がかりで犯そうとしている。
(世界が明日にも終わろうって時に……コイツらは……!!)
目先の欲望しか考えない目の前の男達に、ポップは強い怒りを覚えた。
「はなせっ! はなせぇーっ!!」
ポップは勢いよく頭を振り、口を塞いでいた手を振り落として両足をバタバタと動かしながら必死に抵抗した。
「ちっ。うるせえガキだ。おい。なんか口塞ぐもんねえか?」
「ならオレの突っ込んでいいか? こういううるさい女の口にち○ぽ入れて黙らせるシチュエーション憧れてたんだよ」
「止めとけや。噛みきられるぞ」
(こ、この……っ!!)
ニヤニヤと厭らしい笑いを浮かべながら男達が話す内容に、ポップは嫌悪感を抱かずにいられない。
力で男の腕を振りほどくことは出来ないが、メラ一発分ぐらいの魔法力なら回復している。
(こんな奴等に良いようにされてたまるかよ!!)
ポップは手に魔法力を込め、メラを放とうとする。
その瞬間だった。本当に刹那の一瞬……ポップの頭に、ある考えが浮かんでしまった。
『処女じゃなくなれば、おれも特別な存在になれるんじゃないのかな』
自分はダイ達のように特別な生まれも育ちもしていない。
そんな自分がアバンのしるしを光らせるためには、何でもいいから特別なものを手にしなければならないのではないか?
だから処女を失えば……昨日と違う自分になれば、しるしも光を発するかもしれない……。
(そうだ……おれも特別に……ダイ達みたいな存在に……)
魔法力を込めたポップの腕から、力が失われていく。
もがいていた両足も、無意識に抵抗を止めていた。
「おっ。大人しくなった」
「そうそう。じっとしてれば気持ちよくさせてやるからさ」
「…………」
ポップはボーっと、男達の言葉を聞き流す。
考えることを、ポップは止めていた。
ポップのズボンに、男の手がかかる。
ずるとガチャン! という重厚な金属音と共に、ポップを地面に押さえつけていた男達の身体が勢いよく左右に吹き飛ばされた。
何者かが、男達の間を一気に駆け抜けたのだ。
「へぶっ!?」
「な、なんだっ!!??」
男達は尻餅を付き、自分達を吹き飛ばしたモノの正体を見る。
そこに居たのは、銀の身体と馬の頭を持つ異形の騎士だった。
騎士は右手で槍を持ち、左手で自分達が犯しかけていた少女を守るように抱いている。
「し、シグマ……」
少女は月光に照らされ輝く銀の騎士を見上げてそう呼んだ。
「二人がかりで女人を暴行しようとは……外道とはお前達のような者のこと言うのだろう」
自分達にそう言った騎士の声は落ち着いているが、その奥には底知れない怒りが感じられた。
(あ、悪魔だ……)
この騎士は地獄の王が、罪を犯した自分達に遣わした悪魔に違いない。
男達はそう思わずにいられなかった。
「う、うわああー!!」
「ひぃぃぃぃ~!!」
ここに居ては、自分達は悪魔の騎士に殺される。
男達は恐怖に駆られ、取るものもとりあえずその場から逃げ出した。