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    yu.

    @huwa_awa

    タル鍾・ちょっと伏せたい絵置き場

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    タル鍾 小説短編『寄る辺の雨』

    雨に降られたタルタリヤさんが鍾離先生の元を訪れる話。
    ※鍾離先生の自宅位置は捏造

    寄る辺の雨「こんなに降るとは思わなかったな」
     暗く湿った雨雲を恨めしそうに見上げていると、夕焼け色の前髪を伝った雨粒が、一滴頬に落ちてくる。眼に入るかと思い、一瞬だけ視界を閉じて、また開く。
     先日まで遂行していた任務が終わり、北国銀行まで戻る道中、山の向こうから刻々と黒い雲がやってきているのを見かけた。あれは雨が降るなと予想できたため、帰路を急いだのだが、それでも目的地まで後少しというところで大雨に見舞われてしまった。忙しない雨音が辺りを包み、軽く吐いた息の音もかき消される。全身が濡れてしまったが、体を拭くものは持っていないため、雑に髪をかき上げて毛先の雫を払う。指先から手袋へ一筋の雫が伝って、手首まで透明な跡を残す。
     雨量は多く、白く細い軌跡がまるで無数の矢のように空から地面へと降り注いでいる。運良く大振りの枝を持つ木の元に辿り着いたため、雨に打たれる心配はとりあえずは無さそうだった。けれども、時折葉と葉の隙間から、ぽたりと大粒の雫が降ってくる。それらは足元に落ちて、木陰の下の乾いた地面を点状に湿らせ、濃い色へと変えていく。

     葉を叩く音は、一向に止みそうにない。暇を持て余して、空気中の水分を水元素でまとめて、手のひら程の大きさの鯨を作ってみたりしたが、雨は弱まる気配すらない。どうしたものか、と烟って輪郭の滲んだ璃月港へと目を向けると、そのもっと手前、とある家屋の橙色の灯が、青暗い景色の中でぼんやりと光っているのを見つけた。あれは…と頭の中の記憶を探り当て、そうして思い当たる。透明な水の鯨は手のひらの上を飛び立つ。額に鋭い角を携えた鯨は、作り出した主の頭上を踊るようにくるりと一回転した後、ぱしゃりと音を立てて崩れ姿を消した。居た形跡は空気中の霧となって風に吹かれていった。一息、すうと吸い込む。ここでいつまでも待っていても仕方がないと腹を括り、雨の矢が降る中をタルタリヤは走り出した。

     コンコン、と扉を叩く音が聞こえた。
     本の上の文章を追っていた視線を、玄関へと向ける。持続的に地面や窓を叩く雨音ではなく、扉を規則的に打ち付ける音だった。それは確かに目的、または意思を持った音のように聞こえた。しかし、このような雨の酷い日に来客があるとも考え辛い。数秒考えた後、開いていた本を静かに閉じて机上に置き、紫檀の艶やかに光を返す椅子から立ち上がる。天井から降り注ぐ暖色の灯を背に受けて、扉の前に立つ。扉にかかる自身の姿を模った影は、少し青みがかっているように見える。鈍い金色をした輪っか状の取手に手を伸ばし、指先を絡めて軽く押す。そうして薄く開いた先、青い矩形の中に浮かぶ鮮やかな橙色の髪と、掬い取った夜の底のような、二つの瞳と目が合った。
    「こんな雨の日にごめん、鍾離先生。急に降られちゃって、少しだけ雨宿りさせてもらってもいいかな」
     訪れた青年、タルタリヤはにこりと笑んでそう言った。
     鍾離は室内の灯によく似た、金色の眼を丸くさせる。
    「ふむ」
     タルタリヤの頭から足元までを一通り観察する。背後に目をやると、野外の道から玄関までの空間、少しせり出した屋根の下の板張りには歪な円形をした水の跡が点々と落ちていて、跡を辿って視線を戻すと、背後に垂らしたスカーフから雫が滴っているのが見える。徐に鍾離は片手を伸ばす。反射的にタルタリヤが避けて臨戦体勢になろうとしたのを見て、
    「ああ、そういうつもりはないぞ」
     落ち着かせるような、穏やかな口調で話しかけてきたので、ほんの一瞬だけ虚を突かれた。さら、と橙色の髪を、細身でありながらも大きな手が一撫ですると、ぱらぱらと細かな欠片のようなものが落ちてきた。触れられたタルタリヤは何事かと、目を瞬かせる。
    「乾かすには、こうした方が早いだろう」
    「…結晶反応か」
    「濡れたままだと風邪をひくだろうからな」
     先程片手を置いた反対側の頭も撫でると、水分が結晶となって落ちる。同じ要領で、何箇所かに鍾離が手を置くと、濡れていた箇所の水分が固められて、だんだんと乾いていく。
    「便利だね、これ」
    「代わりに足元に結晶が溜まってしまうんだが、屋外だから気にする必要は無いな。よし、これくらいでいいだろう」
     粗方乾かしたところで、少し待っていてほしいと言い残し、鍾離は屋内に戻っていった。
     何だろうかと思い暫くそのまま待っていると、傘とタオルと、小振りな大きさの水筒のようなものを持って戻ってきた。
    「容器に仙力を施してあるから、暫くは保温されるだろうが、早めに飲んでくれ」
    「ん? うん、ありがとう」
    「また雨が強くなる前に戻った方が良いぞ。では」
     物を受け取るや否や、ぱたんと玄関の扉が閉じられる。一人その場に残されてから、あれ?とタルタリヤは首を傾げた。でも、服や体は乾いたし、傘も借りられたし。何も不足はない。
    「まあ、確かに早く戻った方が良いな」
     幸い、やり取りの間に雨は少し弱まったようだった。早速借りた傘を使うことにし、ばさりと開くと、微かに白檀の香りがした。自分の身の回りからはしない香りに、他人の所有物を借りているのだと再認識する。きめ細やかで美しい細工の骨と、持ち手に使われる木材の手馴染みの良さから、品質の高さが伺える。鍾離先生らしいな、と頭の端で考える。恐らくタオルも一級品だろうと思い撫でると、ふわふわとして暖かな感触が手のひらに伝わった。

     傘を掲げて、璃月港への道を歩き出す。
     そういえば一緒に渡された水筒の中身は何なのだろうと思い、傘の柄を肩に預け、蓋を片手で捻って開けてみる。途端、ふわりと暖かな湯気が漂ってきて、中を見ると金色の半透明のスープが入っていた。水面には透き通った葱がいくつか揺れている。食欲をそそる匂いに惹かれて飲んでみると、さらりとした口当たりの後、肉の旨みが口いっぱいに広がる。あっさりとした見た目に反して深みのある味わいに、まるで瑠璃亭の料理を一品食べた後のような満足感があり、思わず舌鼓を打つ。
    「美味いな…」
     一気に飲み切るのが惜しいと思ってしまうが、早めに飲んでくれと言われたのも確かだ。何度かに分けて飲んで、水筒の中は殆ど空にする。
    「今度作り方を聞いてみるかな」
     そう零して、タルタリヤは帰路を急ぐ事にする。身体の内に降りた暖かさで、身体の冷えははいくらか和らいでいた。

     港はもうすぐそこだ。
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    yu.

    DONE💧🔸タル鍾 『ささやかな宴席(特別意訳版)』
    ぬいり先生とタルさんがお店でご飯を食べる話

    こちらはぬいり先生の言葉の特別意訳版です。
    話の展開は画像投稿したものと変わりません。
    ささやかな宴席(特別意訳版)(鍾離先生はまだ来ていないのか)

     とある店の窓から漏れ出る、橙色の光を受けながらタルタリヤはそう思った。
     璃月港の中心地から少し脇道に入った辺り、喧騒からは少しだけ傍に逸れた路地の合間にある飲食店が、今夜の宴席の場になっている。いつも通りであれば、約束の時間の前には既に鍾離先生が到着していて、自身は遅れてはいないのだが、結果後から来る形になる、という事が多かった。けれど今日は珍しく、先に着いていないようだ。まあそろそろ時間だし、そのうち来るだろうと思い待つ事にする。
     店を決める時、ここは肉や山菜類が美味しいぞと言っていたな、と考えていると、足先に何かが当たる感触があった。石か何かかと思い視線を下に向けると、焦茶色の小さく丸い何かが、靴の爪先の上にちょこんと乗っている。不思議に思い、よく見てみようと身を屈めると、それは生きものの頭で、こちらを向かれて顔が見えるようになる。その拍子に、頭の上の双葉のような毛が元気に跳ねる。きりりとした眉と大きな瞳、目元の鮮やかな朱。まろみのある顔の輪郭、かたく閉じられた口、短く丸い手足。ちりんと片耳につけられたピアスが、音を立てて揺れる。その生きものは初めて見たけれど、見覚えがある。ありすぎる。半信半疑のまま口を開く。
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