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    yu.

    @huwa_awa

    タル鍾・ちょっと伏せたい絵置き場

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    💧🔸タル鍾 『ささやかな宴席(特別意訳版)』
    ぬいり先生とタルさんがお店でご飯を食べる話

    こちらはぬいり先生の言葉の特別意訳版です。
    話の展開は画像投稿したものと変わりません。

    ささやかな宴席(特別意訳版)(鍾離先生はまだ来ていないのか)

     とある店の窓から漏れ出る、橙色の光を受けながらタルタリヤはそう思った。
     璃月港の中心地から少し脇道に入った辺り、喧騒からは少しだけ傍に逸れた路地の合間にある飲食店が、今夜の宴席の場になっている。いつも通りであれば、約束の時間の前には既に鍾離先生が到着していて、自身は遅れてはいないのだが、結果後から来る形になる、という事が多かった。けれど今日は珍しく、先に着いていないようだ。まあそろそろ時間だし、そのうち来るだろうと思い待つ事にする。
     店を決める時、ここは肉や山菜類が美味しいぞと言っていたな、と考えていると、足先に何かが当たる感触があった。石か何かかと思い視線を下に向けると、焦茶色の小さく丸い何かが、靴の爪先の上にちょこんと乗っている。不思議に思い、よく見てみようと身を屈めると、それは生きものの頭で、こちらを向かれて顔が見えるようになる。その拍子に、頭の上の双葉のような毛が元気に跳ねる。きりりとした眉と大きな瞳、目元の鮮やかな朱。まろみのある顔の輪郭、かたく閉じられた口、短く丸い手足。ちりんと片耳につけられたピアスが、音を立てて揺れる。その生きものは初めて見たけれど、見覚えがある。ありすぎる。半信半疑のまま口を開く。
    「まさか、しょ」
     ある人の名前を呼びかけようとした瞬間、不意に背後の扉が開けられた。タルタリヤは内心びくりと体を跳ねさせた。
    「ご予約のお客様でしょうか?」
    「! ああ、そうだよ」
     平静を装い、素早く足元のそれを手の内に収める。そして何事もなかったかのように立ち上がり、にこりと微笑んで店員に対応する。背中に回した手の中で何か抗議の声が上がった気がするが、今は構っている暇がない。
    「お連れ様は……」
    「急用ができて少し遅れるみたいだから、先に入らせてもらってもいいかな」
    「ええ。こちらへどうぞ」
     店員とのやりとりを聞き、見えないながらも状況が理解できたのか、手の中のそれは大人しくなった。やれやれ、とちいさくため息をつく。後で説明してもらうからなと思いながら、品の良い細工が施された、却砂材のつややかな扉をくぐる。

     個室に通され、ではお酒と料理を後ほどお持ちします、と店員に言われ、部屋の扉が閉じられる。足音が遠ざかったのを確認してから、手の中の生きものを卓上に放す。
    「さて、どういうことか説明してもらおうか、鍾離先生?」
     明るい室内灯の中改めて見れば、やはりその小さな生きものは、往生堂の客卿、鍾離先生その人……いや、これ本人で合ってるよな?
    あまりにも見慣れた顔や身体つきからかけ離れているが、特徴はそのままなので多分そうだろう。それは卓の中心にちょこんと立ち、大きな瞳をぱちぱちと瞬かせて、席についた自分をしげしげと観察するように眺めてくる。そうして控えめに閉じられていた口が、徐にもごもごと動いて開かれる。
    「ぬ、ぬぬ……(実は、公子殿……)」
    「へ?なんて?」
     予想外のことに、思わず裏返ったような声が出てしまった。聞き間違いじゃなければ、何か声を発したのはわかるが、単語ですらなかった気がする。
    「ぬ、ぬぬ。ぬぬぬぬ…ぬ、ぬぬ、ぬぬぬ?(だから、公子殿。これは意図して成ったのでは…ん、まさか、言葉として認識できないのか?)」
    「え?は?まさか鍾離先生、それしか喋れないの?」
    「ぬぬ(そのようだな)」
     こくんと頷く。タルタリヤは耐えきれなくなって、盛大にふきだした。
    「はっ、あははっ!なんだって、そんな状態になっちゃってるのさ!?」
     ひいひい言いながら、タルタリヤは腹を抱えて笑い出した。
    「ぬぬ、ぬぬーぬぬぬ、ぬぬ…ぬ、ぬぬ!(これは、数百年に一度なってしまう現象でな、今日たまたま…む、人の話を聞け!)」
     きりっとささやかに眉を寄せ、ぽてぽて身体を左右に揺らしながら何か言っているので、まだまだ笑い足りないが、努めて様子を伺おうとする。目尻に溜まった涙を手で軽く拭い、ひらひらと手を振る。
    「はー……ああ、ごめんね。なかなかない事だから、つい笑っちゃったよ」
     不服そうに、半分だけ瞼が伏せられている。眼が大きいからか、普段より表情の変化が見て取りやすい。ごめんって、ともう一度謝る。それを聞いて、ようやく寄っていた眉と瞼が元の位置に戻る。
    「で、どうしようか?鍾離先生、その小さな体で食事は出来るのかい?」
    「ぬぬぬ、ぬぬ(体は確かに小さいが、問題なく食べられるぞ)」
     むん、となんとなく胸を張ったような気がする。気がするだけかもしれない。
    「う〜ん、何か言ってるけどわからないな……けどまあ、大丈夫そうだな。そろそろ来る頃だろうし、食べていくか」
    「失礼いたします」
     廊下から声が聞こえて、丁度良かったと心の中で頷く。どうぞ、と応える。言ってから、はたと気付く。
     扉が開けられて、先ほどの店員が入ってくる。まずいと思い咄嗟に視線を向けるも、店員は鍾離のすぐ傍に、持ってきた腌篤鮮や翠玉福袋、龍髭麺などの料理と酒を手際良く並べると、何事もなく去っていった。それはあえて触れないようにしているというよりは、元からその存在がいないように見える所作だった。
     扉が丁寧に閉じられてから、訝しげな目でタルタリヤは聞いてみる。
    「鍾離先生、何か術でもかけた?」
    「ぬぬーぬぬぬ。ぬぬ?(一時的な認識阻害の類の仙術を使った。騒ぎになると面倒だろう?)」
     とたとたとどこかあどけない足取りでこちらを向き、きりりとした表情で見てきた。言葉が伝わらない分、表情や行動で読み取るしかない。何かやったことはわかり、まあもういいやと棚に上げて、暖かな湯気をたてている料理へと目を向ける。

     さて取り分けるか、と思ったところでふと気付く。
    「そういえば鍾離先生、箸や皿、椅子がないだろ。椅子はちょっと申し訳ないけど我慢するとして、小さなサイズのカトラリーや小皿は店員に持ってきてもらおうか?」
    「ぬ、ぬぬ(いや、いい)」
     ぷるぷると首を横に振る。後ろの髪束は頭の動きに合わせてさらさらと揺れ、髪留めの石がきらり煌めく。
    「いらない?」
    「ぬ(ああ)」
     うんと頷いた後、自身の短い両腕を胸の前に持ってきて掲げる。途端、何処からともなく現れた金色の光が、掲げた手元に寄り集まって、ぱきん!とガラスが割れたような音が鳴った。光が溶けて消えたのち、今の鍾離の手に合うサイズの、ちんまりとした箸と器、杯が宙にふわふわ浮かんでいて、それらは静かに卓上に置かれた。
     箸は透き通るような石珀色をしていて、器と杯は深い黒色で、ざらつきを持った表面をしており、稲妻で見た金継ぎのような模様が付いている。どちらも形は少し歪だが、質感にこだわって作られたものだということがわかる。
     それから同じように光を集めて、自分専用の小さな岩製の椅子と卓をさっさと作り上げてしまった。
    「自分で作るからいいってことだったのか……」
    「ぬ、ぬぬ(さあ、準備が出来たぞ)」
     作りたての椅子に座り、箸を器用に持ってわくわくした様子でこちらを見てくる。あの丸いだけの手でどうやって持っているのか疑問に思ったが、ここまでくるともはや何でもありなのだ。仙術とやらはやたら便利だな。いや、元は魔神であるからできる事なのかもしれないが。
    はいはいわかったよ、皿を頂戴、と手を伸ばして受け取る。
     手のひらにちょんと皿を乗せられる。いや、分かってはいたけれどすごくサイズが小さい。人間用ならば一口分ほどの量しか乗らないので、料理を小さく切り崩して分けてやる。
    「とりあえずこのくらいでいい?」
    「ぬ(ああ)」
     こくりと頷く。お手製の卓上に、その皿がそっと置かれる様子をじっと見ている。なお、杯に酒を注ぐのはさらに難しく、他に誰も居ないので、水元素を操る要領で指先の上に纏めた球状の酒を、慎重に杯の中へと落とした。数滴垂らすと、豆粒みたいな杯はいっぱいになった。
     タルタリヤは自身の分の料理と酒を取り分けると、箸を取ってようやく食事を始めた。腌篤鮮を口に入れた瞬間、柔らかに舌の上で溶ける食感と、じゅわりと広がる肉の旨みに驚き、思わず舌鼓を打つ。美味しくて、つい箸が進む。以前はぎこちなかった箸使いも、璃月の店で何度か食事をしているうちに少しずつ慣れてきている。だいぶ成長した方だとは思うが、それでも取り落とすことはまあある。
     ちらりと鍾離先生の様子を見ると、熱い具材を息で少し冷ましながら、小さな口を開けてちまちまと食べている。美味しいらしく、目を細めて味わうように噛み締めている……ように見える。普段と同じように箸を使っているのだと思うが、全てが極小サイズになっているため、幼い子どもが懸命に食べているようにも見えてきてしまう。弟たちの小さい頃を連想してしまい、いやいや今思い出さなくていい事だろ、と慌てて頭の中のふわふわとした思考をかき消しておく。
     いつもだと鍾離先生が料理を取り分けながら、これはどこそこの産地の食材で、いかに希少なものなのか、またどう食べるのが美味しいのか、季節や調理方法によって異なる仔細を楽しげに話すのだが、今日はあいにく話が聞けない。けど、これ食べる?あれは?と聞いて皿に料理をのせ、美味しい?と聞くとにこりと笑ってくれたので、これはこれで楽しい夕食の時間になった。たまにぬんぬん言っていたのは、いつもみたいに話をしてくれていたのだと思うが、全く内容はわからなかったので、楽しげに話している様子を眺めては相槌を打っていた。

    「はあ、美味しかった!鍾離先生の目利きは流石だ」
    「ぬぬーぬぬ(喜んでくれて良かった)」
     店を出て、路地裏の道の上で立ち止まる。自身の手のひらに座っている鍾離は満足そうな顔をしていて、こちらも嬉しくなった。支払いは相変わらず自分がしたが、美味しい食事だったので、まあ良しとする。
    「鍾離先生、その姿だと帰るのも大変だろ?家の前まで送るよ」
    「ぬぬ、ぬぬぬ(いや、その心配は要らないぞ)」
     片手を上げて、心配いらないとでも言うようにぴょんと跳んで、近くの建物の影に入っていった。なんだ?と思っていると、ぽわりとまろやかな金色の光が現れて、眩しくて思わず目を細める。不意に消えたかと思うと、しばらくしてその場所から、いつも通りの見慣れた体躯の鍾離先生が出てきた。
    「今日は楽しかったぞ。ではまた」
     呆気に取られたタルタリヤを置いて、鍾離はにこりと笑いかけた後、すたすたと歩いていく。
    「え!?戻れるの!?」

     その夜、ひとりの青年の素っ頓狂な声が璃月港に響いたのだとか。
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    DONE💧🔸タル鍾 『ささやかな宴席(特別意訳版)』
    ぬいり先生とタルさんがお店でご飯を食べる話

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    話の展開は画像投稿したものと変わりません。
    ささやかな宴席(特別意訳版)(鍾離先生はまだ来ていないのか)

     とある店の窓から漏れ出る、橙色の光を受けながらタルタリヤはそう思った。
     璃月港の中心地から少し脇道に入った辺り、喧騒からは少しだけ傍に逸れた路地の合間にある飲食店が、今夜の宴席の場になっている。いつも通りであれば、約束の時間の前には既に鍾離先生が到着していて、自身は遅れてはいないのだが、結果後から来る形になる、という事が多かった。けれど今日は珍しく、先に着いていないようだ。まあそろそろ時間だし、そのうち来るだろうと思い待つ事にする。
     店を決める時、ここは肉や山菜類が美味しいぞと言っていたな、と考えていると、足先に何かが当たる感触があった。石か何かかと思い視線を下に向けると、焦茶色の小さく丸い何かが、靴の爪先の上にちょこんと乗っている。不思議に思い、よく見てみようと身を屈めると、それは生きものの頭で、こちらを向かれて顔が見えるようになる。その拍子に、頭の上の双葉のような毛が元気に跳ねる。きりりとした眉と大きな瞳、目元の鮮やかな朱。まろみのある顔の輪郭、かたく閉じられた口、短く丸い手足。ちりんと片耳につけられたピアスが、音を立てて揺れる。その生きものは初めて見たけれど、見覚えがある。ありすぎる。半信半疑のまま口を開く。
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