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    osatousarasara

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    osatousarasara

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    ※未成年飲酒注意※きょうじくん目線、四畳半に一緒に帰るお話。ミ●チル聞きながら考えたはずなのに最後の方突然の地獄になっちゃったな

    幸夜行お空には、月見うどんの黄身みたいな、まん丸くてぼんやりとした月が無防備に浮かんでいる。

    「なぁ、狂児さん。見て」

    肩を並べて歩く聡実くんも、あのお月さんのように、今日は何とも無防備でふにゃんとしながら空を指差している。

    ***********************************

    『ちょっと飲まされました。まだ帰ってなかったら駅で待っててください』
    そんなラインの通知が来たのが二十一時。
    運良く本日のお勤めにもキリが付いたので、既読付け即『ええヨン』と返事を投げ、おっとり刀で飛び出した。
    初夏の夜風はほんのりと湿気を帯びて重く、脚や指にゆるっと纏わりつく。
    飲み屋から出てきた酔客達の明るい声。家路へ、または新たな居場所へと急ぐ車の排気音や、アスファルトに跳ねる人々の靴音。

    ああ、俺、こういうの嫌やないな。
    聡実くんを迎えに行くからかな。
    やったら俺、大分浮かれ散らかしとんな。

    どうにも気恥ずかしいような気がして、海の底みたいに足元に絡む空気を蹴り上げ、泳ぐように駅へと急いだ。


    「おかえり、聡実くん」
    帰りながらコレ飲んで、とペットボトルの水を差し出すと、聡実くんは蓋を開けながら、小さく「ただいま」と呟いた。
    おかえり、が、ただいま、になって返ってくる。
    ただそれだけの事なのに、なんでか目の奥がぎゅっと熱くなる。
    誰に飲まされたん、とか、自分未成年やんかアカンでぇ、とか、年長者としていろいろ言うたろー、と思っていたのに、もう何も言えん。
    「帰ろ」
    これ言うのが、やっとやった。


    聡実くんの手のひらに収まるような四畳半への途上、住宅街を抜けていく。
    遅い夕飯の匂い、石鹸とお湯の匂い。家族の笑い合う声、換気扇の回る音。
    同じ場所へ帰るということは、こういう音や匂いを共有すること。
    隣で聡実くんが、バイト先の先輩が、大学のサークル勧誘が、とか、俺の知らない世界の話をしているのを聴きながらゆっくり歩く。
    君が俺の知らない所で健やかに楽しく過ごしていることが、いつもいつも嬉しくて、けど何となく寂しい。
    けど、こういう時間を一緒に過ごせる事で、全部全部帳消しになる。
    こんな事俺が考えとるなんて、君はまったく知らんのやろな。

    「ねえ狂児さん、ちゃんと見てます?」

    見て、と手のひらをヒラヒラさせて、聡実くんが俺の数歩先を行く。
    十四の頃からお兄ちゃんになって節が目立ってきた手が空へ伸び、さっき見ていたまあるいお月さんの縁を撫で、瞬間、ぎゅっと握り込んだ。

    「ほら、これであのお月さんは僕のもん」

    得意げにヘラっと笑っている。なんやこの可愛い生きもんは。
    水もっと飲ませた方がええかな、自販機とかあるやろか。

    「お月さんだって僕のものになるのに」
    「狂児さんは、いつまで経っても僕のもんにならん。」

    どうして、と問う瞳に、鏡みたいに俺が映る。
    あ、これは酔うて出るもんやない。君の本音や、と咄嗟に思った。
    君は本当に、突然でっかい感情をぶつけてくるのが得意やな。

    「なんでぇ?狂児さんはいつだって聡実くんのもんやで」

    「全部やないもん」
    「狂児さんが僕に見せてない所いっぱいあんの、知っとる」
    「僕の為なのはわかってます。でも僕はいつか、狂児さんの」

    全部が見たい。全部に触れたい。全部欲しい。どれが正解やろか。全部が良いな。
    他人気が無いのを確かめて、最後の一言が出るその前に、そっと抱き寄せて口を塞いだ。
    アルコールの匂いがするな。こっちまで酔ってしまうわ。やっぱ飲み過ぎや。

    「ええよ、聡実くん」
    「聡実くんになら、全部あげてもええ」
    「けど最初は煙草の味からやな。ごめん、さっき出る前に吸うて来てもーた」
    苦かったら堪忍な、と最後の一押し、少しだけ強く抱きしめて、手を離す。
    狂児さんは刺激が強いからな〜、とケタケタおちょけて、聡実くんを置いて歩き出した。
    だって今、俺、君の顔見れんもん。


    数歩遅れて、足跡が追いかけて来る。
    この沈黙は、怒り、落胆、呆れ、どれやろ。
    ごめんな、こんな男を好きにさせてしもて。
    君が俺を求めて伸ばした手が触れると、そこから君が君でなくなる気がする。
    血の紅、硝煙の黒、火花の金、嘲笑、怒号、ドブみたいな色。
    俺にはいろんな色が付いている。
    真っ白な君の手に、頬に、胸や腹に、そんな色を付けてええの?ほんまに?

    けど、ええよ。聡実くんが望むなら。
    俺はこの躊躇いを全部棄てて、名前の通り狂った赤ん坊みたいに我儘になろ。
    君に触れて、君を暴いて、いろんな色に君を染めて。
    俺と同じ色になってしまって、もし君の気持ちがあったかいもんから憎しみに変わってしまったとしても。
    ずっと憎んで、殺したいと思ってもええよ。そのでっかい感情で俺を縛ってくれるなら。
    もし死んで地獄に落ちても、それを目印に這い上がって、君を連れてもっぺん地獄に落ちる。ずっと一緒にいたいもん。
    だから、ずっと。

    「さっきの、冗談です。忘れてください」
    「いやぁ、君酔うて冗談言うタイプやないやろ、ぜっっったい本心やん」
    「めっちゃ酔ってます。ウォッカ飲みました」
    「嘘つき。絶対忘れてやらんよ」

    ずっと憶えてる。
    だからもし、俺が君を地獄に連れて行ってしまったら。
    地獄の一丁目で、今夜みたいにお月さんを眺めて歩こう。
    その時まで、ずっと俺を許さないでいてくれたら、嬉しい。
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