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    可惜夜

    ひよるです。
    筆名は『可惜夜』でやってます。

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    可惜夜

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    レオいずWEBオンリー
    ライドオンセレナーデ !
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    🥀ライセナ3、カウントダウン企画🌹

    ##Knights

    104Hz≒秒速5センチメートル2年の春。桜が散り始めて中道に舞い落ちた花弁を大股で避けて駆けていくあいつの背中を、俺は急ぐでもなくただ自分の速さで着いていく。

    「よ、っと…、ほいっと」

    あいつが靴音を立てて着地をすれば靴が着いた反動で周りに散っていた花弁も舞い、そこだけ靴跡を残すように綺麗になくなったところをなんとなく目指して歩く俺に、何故か嬉しそうに微笑みながらあいつはこちらへ振り向いた。

    「桜、きれいだな〜!まぁセナのほうがきれいだけど!!」
    「当ったり前でしょお」
    「わははっ!うん、そうだな…赤ん坊でも分かるくらい"当たり前"のことだ。セナが桜よりきれいなのも、いつかこうして花弁を落として散ることも、全てが必然で当然だ」

    桜並木の下いつの間にか俺に近づき、頭に落ちていたらしい1枚の花弁をとって見せた。そのたったひとつの動作が儚く見え、咄嗟に顔を見れば指で摘んだその花弁の奥であいつは寂しそうに笑っていた。なんだかそのまま桜と同じように消えてしまいそうで、無意識に手を伸ばしかけたのを隠すように後ろへ引っ込めた。

    「…なに、」
    「ううん、なんでもない。……ただこの樹さえ壊れなければ、また来年咲けるなって」

    ――またこうやって来年も一緒に見れたら、いいな。

    そう言って摘んだままのその花弁を太陽に翳すよう空へ向ければ呆気なく指をぱっと離した。花托から切り離されあいつの指からも解放され自由になった花弁は、春風に乗って高く舞い上がっては空の海を泳いでいく。あいつは『見れたらいい』と言った。『見ような』ではなく、そう確かに言った。なんでそんな簡単な約束を叶えられそうにもないように言うのか少し頭に引っかかったけど、空へ飛んでいった花弁を見えなくなるまで見つめてるその横顔を、俺は何も言えないままずっと見続けていることしかできなかった。



    ――あぁ、また同じ夢をみていた。

    幸せだった頃の夢。俺の春。生まれてきてよかったと思えるぐらいの青春。もう二度と取り戻せないそれを夢に見ては、必ず覚め現実に戻って今の世界に絶望してを繰り返している。今日もまた、俺は覚めた。覚めてしまった。閉じたままの瞼から何かが溢れて零れていって。どこからか吹いてきた春風が雫の跡に通って冷たくしては浸るようそのままにして、しばらく時間が経った後、俺はやっと瞼を開けた。

    『――いったい誰が駒鳥を殺したんだろう――』

    あいつがいなくなってからずっと、同じことばっか繰り返し考えている。どうすればよかったのか、夢なんて持たないであいつと2人だけでずっとやっていれば今も平和で幸せでいられたんじゃないかとか、そんなことばっか考えては、過去を変えられないという事実が押し寄せてきて考えても無駄だと1回頭の隅に置いやるのに、気付けばまたそれを引っ張り出しては後悔の海に自ら身体を投げ捨てる。もう何もかも遅かったのに。気づくのも手を差し出すにも、抱きしめるのも全てが手遅れだった。もうぼろぼろで傷つける場所も残ってないあいつをキツく抱きしめようとしたときには、救いようも結び直せそうにもなかったのだ。

    「………、(起きなく、ちゃ…、)」

    躰が重い。なにか錘を繋げてそれを引きずって歩いてるみたいに全てのなんでもない動作に時間をかけてしまう。開けっ放しだった窓を閉め、制服を着て、歯磨きをしてスキンケアをして、朝ごはんを作ってそれをただ咀嚼するように食べ、お弁当を準備すれば時計は家を出る時間間際を指していて、誰もいない部屋に行ってきますとも言わずに俺は家を出た。





    学院に着けばまるで機械のように、下駄箱から上履きをとって履く。ちらっと下駄箱に残っているあいつの汚い上履きを見つければ、また土から顔を出してしまった芽を踏み潰すように教室へ向かう。学院にいる間もあいつのクラスの前を通る度盗み見てはあのオレンジを探している。あの柳緑の瞳と目が合う瞬間を求めている。だけどやっぱ、どの色も違くてやけに主張が激しいそれらに腹が立った。

    「あ、泉ちゃん!」
    「………」
    「もう、明らかに聞こえてるのに堂々と無視しないでちょうだい!」
    「……なに、あんたに構ってる暇ないんだけど」

    前から俺にめがけて向かってくる足音にうんざりして、何気なく方向を変えようとしたらその前に呼び止められてしまった。メガネを外し髪を染めた後輩の姿を見て、こいつなりにケジメをつけ変わろうとしてるのに、俺はいったいいつまで"ここ"にいるんだろうと自嘲が零れる。

    「Knightsに加入希望だしてるあの子のことよ、えぇっと……『朱桜司クン』だったかしらァ」
    「……俺は後輩の面倒なんて見てられないから、好きにすれば?」
    「まるで面倒事を押し付けるような言い草ね、アタシだって…後輩の進退を見極めるほど余裕なんてないわよ、…でも、あの子はそんなアタシ達の事情なんて知らない。まだ未来のあるあの子をこの冷戦に巻き込む訳にはいかないでしょう?」
    「じゃあさっさと、不合格でも不採用でも出せばいいじゃん、そうやって最終的な決断を有耶無耶にしてるのはなるくんの方でしょ」
    「…泉ちゃん、王さまの件で不安定になってるのはわかるけど、あなたが言っていいことと悪いことの分別がつかないほど冷酷な人じゃないってことは知ってるんだから、せめてアタシが信じている泉ちゃんでいてちょうだい…それに、"あの子なら"って思っているのはきっとアタシだけじゃないでしょ」

    無理やり奥に追いやった俺の本音を見透かすような、ムカつくくらい高い位置から桔梗の瞳に見つめられる。

    (……知らない、そんなの)

    『朱桜司』。Knightsに思い入れがあるのかなんだか知らないが、入学した途端加入したいと付き纏ってくる1年で、新メンバーなんて考えてもいなかった俺たちは正直めんどくさいと思い、諦めさせる手段として加入審査をすることにしたのだが。

    (…なんか妙にやる気だけはあるんだよねぇ)

    なんの武器も持たず、闘う知恵すらない丸腰のくせに自信とやる気だけはある、なんて生意気なやつなんだって思うのに、俺は沈みゆく夕陽を結晶化したような黄昏色の紅色の髪の下に潜む、あの杜若の瞳に弱い。

    「………あいつは、どう思うんだろ」
    「え…?」

    あの瞳を見て、"王さま"はなにを思うんだろう。

    「泉ちゃん?」
    「……わかった、今日の放課後にでも顔を出すから…」

    ふとあいつのはにかむ笑顔を思い浮かべて、やめた。まだ話したげな後輩の手を押しのけるようにその場から離れ、学院の外通路を歩けば温かな春の風に乗って飛んできた淡い桃色の1枚の花弁が床に落ち、咄嗟に足を引っこめた。反射的に踏まないよう身体が動いたことに自分が驚いて、上からその花弁を傍観した。

    「………(桜……、)」

    ――またこうやって来年も一緒に見れたら、いいな。

    あいつにとってその場でふと思い浮かんだ小さな約束だったのかもしれないけど、当時の俺にとっては1年も先の約束を簡単に出来る仲になれてたんだって嬉しかった。俺もそうだと、信じていた。落ちたままの花弁を拾おうか悩んでいると、もう痺れを切らした春風がさっと俺の目の前に吹きその花弁を攫っていってしまう。あっと思った時には既に遅く、その花弁はあの中道の方へ消えてった。上履きのまま、春風を追いかけるように駆けてゆけば一際強い風がぶわっと吹いてきて、辺りに散っていた花弁を再び舞いさせ俺の視界を桃色に染め奪った。

    「…っ、!………?」


    桜の世界。花吹雪のなか、俺の反対側に誰かがいるかのような影があり、不思議に思いながらもそれに目掛けて歩いていく。一歩一歩、近づけば近づくほどそのシルエットが鮮明になっていき、それが俺より少し小さく、そしてずっと待ち焦がれていたあの瞳の持ち主だという確信が持てない妄想が、確証のある事実になっていく。夕焼けに染まってとろけている黄昏色の髪が見えてしまった瞬間、もうだめだった。

    「――ッ、」

    足が止まる。だけど、泪は零れる。またあの"夢"だと、気づいてしまった。これが"夢"だとわかってしまった。これ以上近づいてしまってはだめだ。引き返せなくなる、もう二度と"こっち"へ戻りたくなくなるだろう。拳を強く握り潰して歯を食いしばって、ぼやけ始める視界のなか身を翻した。守ると決めたのだ。闘うと誓ったのだ。

    (っ、…俺、だって…)


    見たかったよ、あんたと。




    「………、」
    「おはよう、セッちゃん」

    意識が覚醒し、瞼を開けると同時に何かが目尻から溢れたのをさっと拭われる。こちらにそっと優しく微笑む彼を視界に捉えれば、現実へ戻ってきたのだと気付かされる。

    「…俺が膝枕する側だなんて、滅多にないよ〜?」
    「……頼んでないし」

    だるい躯をゆっくりと起き上がらさせ、辺りを見渡せば中庭のベンチに俺たちは座っていた。くまくんの話によると中庭の隅で魘され倒れている俺を見つけ、こちらへ運んでくれたらしい。彼の髪の毛に花弁が乗っかってるのを見て、申し訳ないことをしたなとどこか後ろめたさが残る。空はもう夕焼けだった。

    「………くまくんは、…上手いね」
    「え…、なんのこと…?」
    「…なんでもない、」

    こいつは、人の脆いところ、弱いところを引き出すのが上手い。ただ寄り添うんじゃなくて、我武者羅に抱きしめるんじゃなくて、無理やり手を引っ張るんじゃなくて。相手が気付かぬうちにいつの間にか支えられてるような。やっと1人で立てるようになってから気づくのだ。背中にそっとあてられたその手の存在を。

    「……行こう?ス〜ちゃんが待ってる」
    「はぁ?誰がス〜ちゃんだって?」
    「ん〜……Knightsの"末っ子"になるかもしれない朱桜司くんのス〜ちゃん」
    「……"末っ子"の方からとったわけ、」

    俺より先にベンチから立ち上がり、手を差し伸べてくる。いつも気だるそうなのに、こういう時のくまくんを見る度あぁそっか同い年なんだと自覚させられる。俺が面倒を見る後輩じゃない、すっと隣を歩いてくれる友達なのだと。

    「……容赦なく叩きのめしてやる」

    その手をさっと払い除けると、ふっと彼は笑った。歩き出せば俺の後を着いてくる気配を感じながら、だからかと思う。こういう俺のわざと突き放すような態度をとってもそれを真に受けず、俺らしいと笑ってくれる彼だから、こうしてくっつきすぎす離れすぎない関係を維持していられるんだろうなと。

    「手加減してあげて。せっかく俺たちの輪に入りたいって懇願してくれたんだから」
    「……生意気。100万年早いからぁ」
    「まぁでも、王さまの曲が好きだって言ってたとき本当はうれしかったでしょ?」

    ――Knightsの曲が好きなのです!


    「っ……、はぁ、」

    (なんなわけ、なるくんといいくまくんといい、俺を詮索するみたいなあの眼差し)

    こういうのは苦手だ。心の内を探られてるようで嫌になる。もうとっくに辟易しているのだ、"特別"な誰かをつくることもあぁしとけばよかったって後悔するのも。全部、もう懲り懲りなのに。

    いつも使っているレッスン室に入れば、鏡と向き合いながら踊り続ける後輩の姿があった。その隣にはなるくんもいて、どうやらレッスンをしていたらしい。正直、こいつとどう接すればいいのかわからない。あんな風に真っ直ぐ憧れの視線を向けられたことなんて、ほとんどなかったからどうにも慣れない。今の状況でこんな俺に、こいつはいったい何を求めてるんだろうか。

    「……っはぁ、……おや瀬名先輩ではないですか!それに凛月先輩も、私おふたりのこと探していたのですよ」

    曲が終わり、袖で汗を拭うその横顔をなんとなく見ていたら彼の視線ががっとこちらへ向き、反応するまでもなくあっちから近づいてくる。

    「あっそ、…ったく、後輩のレッスン見れるほど暇じゃないんだけどねぇ?」

    あぁ、どうか負けるな。ほんの一瞬歪められたその顔を見て咄嗟に目を逸らした。今ならまだ間に合う、こんな落ちこぼれた城にわざわざ自分から入りに来なくたっていいのだ。酷いと言ってその剣を振り落としていいからと、本当はずっとここにいてほしい癖に猶予を与えるふりをしているのだ。

    「……お手を煩わせてしまい、すみません…ですが、私1人ではKnightsの名にふさわしいperformanceをする実力が身につかないと痛感いたしました…。…お願いです、どうか…、……力を貸しては頂けませんか…!?」


    ――いつかさ、おれの曲が好きだって、Knightsになりたいって言ってくれるやつが来てくれたらいいな。


    鼻の奥がツンとして、涙が溢れるより先に背中を向けた。
    今のあんたが、どう思ってるかなんてわからないけど。でも過去にあんたが言ってた願いは確かに今ここに在る。俺は、この願いを叶えてもいいのだろうか。また間違った選択をしていないだろうか。

    (…いや、)

    叶える。きっと、叶えていい。この光を信じてもいいって不思議と思えるから。

    「………あんた、名前は」
    「っ朱桜司です!」

    無駄に威勢のある声を背中に感じながら、ふぅと1つ息を吐いてから振り返る。

    「……朱桜司、ねぇ……、じゃあ『かさくん』だね」
    「……へ?」
    「はぁ?なにその態度、……、くまくんもなるくんも、"いい"よね?」

    状況をよく掴めていないかさくんを置いて、2人は縦に首を振った。

    「じゃあ、改めて宜しくねぇKnightsの末っ子の『ス〜ちゃん』」
    「ふふっ、司ちゃんよろしくね!後輩ができて嬉しいわァ♪」
    「…え……?『かさくん』?…『ス〜ちゃん』……『司ちゃん』……、…え?」

    混乱している彼になるくんがしれっといつの間に用意していたらしいユニット衣装を渡せば、困惑の色だった表情がみるみる変わっていく。今まで実年齢より大人びて見えていた彼だが、今目の前にいるのは13歳のまだ幼さの残る、嬉しそうに笑う後輩の姿で、俺にはそれが眩しく見えた。そしてこの日からKnightsは4人に、いや5人になり、空いている玉座を守る日々が続いたのだった。






    桜吹雪のなか、俺の勿忘草の瞳がずっと焦がれているあの夕焼けに染まってとろけている黄昏色の髪を写したとき、先程まで駆けていた足を止める。


    ――セナ、

    嗚呼、俺の大好きな声だ。忘れることはない、大好きな人の声。間違いなく彼なのに、俺は背を向けた。


    ――どこ行くんだ?

    止めるな、振り返るな、泣くな。早くこの夢から、悪夢から、幻想から覚めなくては、と淡い桃色の世界を歩いていく。
    ほぼ覚めきっている夢の中で、彼に言う。


    「俺と桜が見たいなら、……夢の中じゃなくて、あっちで会いにきなよ」


    あんたの、居場所は俺が守るから。守ってあげるから、だから…だから…、…お願いだから……。


    「――こっちの"桜"より、あっちの"桜"の方が、……騒がしくてうざったいかもしれないけど、生きてるって感じがして、綺麗だなって思えるはずだからさ」


    せめて俺だけは、俺だけでも。何がなんでもKnightsを守る。あんたを信じる。待っててあげるから。


    ――だから早く、夢から醒めておいでよ。
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    Replies from the creator

    可惜夜

    DONEメリークリスマスです!!🎄.*

    ES2年目軸のKnightsのお話。
    日頃の感謝をこめて司が4人の仲間たちにサプライズ作戦を決行しようとしているみたい…?
    クリスマスに寂しいなんて思わせない『サンタのこと、いつまで信じてた?』
    12月に入るとよく話題に上がってくる、答えに困るその質問。無難に小学生くらいですかねと答えるけれど、サンタがいるいないにしろ、あの頃12月の24日の夜にクリスマスプレゼントを枕元に置いていってくれる存在が確かにいたのだから、信じていた信じなくなった、いるいないなんて白黒つけず、もうそれでいいんじゃないかと、雪の降る夜景を映す窓を見て1人微笑んだ。

    ◆司
    事務所の卓上カレンダーには、メンバーのスケジュールがびっしり書かれている。この時期は音楽番組に特番やらそれぞれ忙しく、クリスマスも他の日と変わらず仕事が入っていた。
    (…帰ってくるのが25日の早朝…、)
    海外で活動しているレオと泉は、25日の夜にある音楽番組にKnightsが出演するため帰国してくるのだが、凛月と嵐、そしてその2人を含め司は彼らにサプライズを考えているのだ。去年は、学院を卒業したレオと泉にサプライズを仕掛けられたのもあって、今年こそは自分が"サンタ側"になって、いつも王である自分を支えてくれている4人の先輩に日々の感謝を込めてこのサプライズ作戦を決行することにしたのである。今までこういうことをしたことがなかったのもあって、当日までそわそわしてしまうのもしょうがないだろう。びっしり埋まっているカレンダーの『25』に司は赤マルをつけ、嬉しそうに微笑んだのだった。
    7005

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