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    osatousarasara

    @osatousarasara

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    osatousarasara

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    CURI●の粉雪ひっさしぶりに聞いたら降ってきたので頑張りました。センチメンタルきょうじくん冬の日の奇跡に遭遇するお話。時間無くて推敲あんまし出来なかったので誤字脱字あったらごめんなさい(普段もそんなしてないのでは???)

    君を呼ぶ雪「あ〜何度目やコレ?ま、ええか。よお狂児ィ、お勤め御苦労さんっと」
    チン、とグラスが擦れ合い歓声をあげる。ありがとうさんです、と短く揃えられた頭を下げつつ、相手のグラスの中身が自分のものに飛び込まないよう器用に避けた。
    初夏の日差しを日中たんまり浴びた喉に黄金色の炭酸酒はよく沁みるらしく、アニキ分の小林は嬉しそうに目を細めて飲み下していく。
    先の台詞の通り、成田狂児が灰色の虜囚から人間に戻って数日、あちらこちらで祝杯の誘いを有り難く頂戴し、いささか食傷気味になってきた時分を見計らったように、ちょっと付き合えやと誘われた先が、こじんまりとした小料理屋での二人きりの一席であった。
    言うて鉄砲玉になったわけでも誰ぞを庇ったわけでもなし、貰い事故みたいなもんで名誉もクソもあらしませんわ。と独りごちると、ええやん、みぃんな祝うてくれるんやから貰っとき、とドスドス脇を小突かれた。
    それに今日呼んだのはな、他に聞いときたいことがあるからや。声の温度がほんの少しだけ、下がる。
    「お前、お歌のセンセの坊にはもう会うたんかえ」
    「あの子にはもう会わんて決めたんです」
    聞かれたらそう答える。そう決めていイメトレまでしていたが、いざ聞かれて答えてみるといささか不自然、被せ気味な返答となってしまった。
    「…お前はそれでええんか」
    それはもう、何度も聞きました、自分で、自分に。だからもう誰にも、何も言って欲しくない。さすがにそんな事は言えないので、もうええんです、とかぶりを振るに抑えた。
    「ほぉか。お前がそれでええちゅうんなら、もう何も言わん。」
    「…お前があのセンセと連んでるの見るの、俺も結構楽しゅう思てたんや。やから聞いた。忘れてくれぃ。」
    それきり、沈黙が帳を下ろした。

    部屋の電気をつけるのも億劫で、窓から差し込む頼りない月明かりに全てを任せ、自室のソファに倒れこんだ。酔ったわけでもないのに泥のような疲労感があった。『もう会わん』たった五文字を放つだけでここまでとは。これが、未練か。
    胸ポケットの潰れたタバコを放り出し咥え、ライターを何度か擦る。火がつかない。ガス切れか。持ち主に似んでもええやろが。
    ポケットをあちこち弄ると、どこかで突っ込まれたマッチを見つけ、こいつは重畳、小さな火を灯す。
    「…あの子みたいやな」
    真っ暗な夜ん中に突っ立った自分に、ふと灯ったか弱く細い、明るい火。触れたら火傷してしまう。触れたら消してしまう。なら、触れずにいる他無いやんか。もう会わん方があの子の為や。
    もう考えるのはやめよう。意識を睡魔の虜にすべく、灯した火をぱちん、と消した。



    「なるべくしてなったな。歌ヘタ王」
    盛夏の折。一番見たくなかったオヤジの良い笑顔。
    言いたいことはまぁ割とある。こちとらムショ出早々一発目のカラオケ戦士復活である。獄中で歌うなんてそう出来るわけもなし、腹から声を出すとか、喉を開くとか、
    そんなもん定期的にやらんかったら出来んようになるわけで。
    「で、何彫る」
    ヤクザに二言は不要か。ま、しゃあない。文字でもええですか、と尋ねるとアーティスティックを極めんとする素人彫師はいささか不服そうではあったが、まぁええわ、と頷いたので、ほんならコレで、と漢字二文字のメモを手渡す。誤字でもされたらかなわん。
    「お前……業の深いやっちゃなぁ」
    あの子の名前、憶えてたんかクソオヤジ。何を勝手に察しとんねん。
    「嫌いなもん、彫ってもらおうと思て」
    「嫌いなんです。その名前」
    俺をこんなんにした君が嫌い。君を忘れられなくした君が、嫌い。だから、一生残そうと思う。意味は、ふたつ。
    ひとつは罰。あの子に教えてもらった事が少しずつ自分の内から消えてしまうのを留められんかった、アホな歌ヘタ王への罰。
    ひとつは墓碑銘。この先いつか来るであろうその日、俺の生涯最後の日。その時に、君の名前が俺の目に映ったままくたばれるように。大嫌いな君が俺を地獄へ叩き落としてくれますように。
    ごめんな、君の知らん所で、重いもん背負わせてしもて。君が折角教えてくれた事、忘れてしもて。もうこれで、絶対忘れんからね。



    タバコも吸ってないのに、息を吐くと白い靄が空へ吸い込まれていく。
    雪にでもなって往生したらかなわん、しゃあなしと潔く車を置いて徒歩で街を歩く。
    こんな風に歩くのはけったいなチンピラだった時分以来か。ヒモ時代は送り迎えもあったしなぁと取り留めのない事が頭の中を今日の吐息のような霞になってぐるぐると回り、気付けば見知らぬ道を歩いていた。アホや俺は。
    普段車だと勘が鈍るのか?にしても締まらん。深い深い溜息を吐き、スマホの地図アプリを本当に久々に起動した。成る程これが現在地か…?
    それにしても本当に締まらない。シャバに出て来てこっち、今日の空模様のようにぼんやりとした日々が続く。俺の過ごした日々はこんな色やったか。否、こんなもんやった。少し前に過ごしたほんの短い期間が、眩しくて、色に溢れていて、心から笑えていたから。全部全部、上書きされてしもてただけか。
    「オヤジの言うことも案外的外れちゃうな…」
    呻きのような独り言が重たい空に吸われて消える。成る程確かに業が深い。たったあれだけの楽しい思い出で、薄汚れた極道一人の一生が輝くものに思えてしまうなんて。

    歌が、聞こえた気がした。
    靄がかかった視界が、レンズのフォーカスを絞るように鮮明になる。この場所を、俺は知っている。浮ついた気持ちで、あの子を迎えにいく道の途中。
    じゃあ、この声。この歌は。
    待って、待ってくれ。行ったらあかん。全部ワヤにする気か。
    心と身体がバラバラになる心持ちがした。必死にブレーキを掛ける自分と確かめたい自分が殴り合いの大ゲンカをして、縺れた脚がよろつきながら視界の先へ進む。あかん、そっちはあかん。
    「なんで…」
    喉から絞り出た声は、驚くほど掠れていた。
    いる。立ってる。校舎の外、フェンスに凭れて白い息を吐きながら、あの子はそこに立っていた。見知った十四歳の姿から、脱皮をするようにしなやかに成長をした姿で、空を見上げながらか細い声で何かを、囁くように歌っている。
    「なんでなん…?」
    知っている。君が歌うその歌を、俺は知っている。前奏四十二秒の長い長いその部分が、まるで祈りの詠唱のように、繰り返し小さく反響しては、空へ空へと消えていく。
    ああ、どうして。どうして?どうして!どうしてどうしてどうしてどうして。どうして君はそこにおんの。
    あんなに嫌な顔してたやん。怒らして、泣かせて、迷惑だって言うてたやん。
    連れ回して、引っ掻き回して、傷つけて、怖い思いいっぱいさせてしもた。
    嫌われきっていないことに甘えて、楽しい思いして、嬉しい思て、はしゃいでるのは俺だけやと思ってた。
    二十五も歳下の君がどうしようもなく可愛くて、怒りながらも気遣ってくれるのがむず痒くて、大人気なくからかって最後には結局泣かしてしもて。
    君が最後に俺の為だけに歌ってくれた時、ああ、もうこれで十分やと決めた。
    ムショ行きは良い口実やと思った。
    これ以上俺の世界に君を招き入れてしまうのはあかんねん。戻れなくなってもうたら、俺は君を元の明るい世界に戻してやる事が出来んから。だったら、まだ君が明るい中にいる間に、あっち側へ背を押すのが、綺麗な君の声を奪った俺の義理やと思った。
    それやのに、どうして君は、そやって俺を待ってんの。

    歌が、消えた。
    代わりに、小さな白い光が落ちて来た。
    冬の花。真っ白な粉雪。俺の靴元に、君の頬に、清濁を選ばずそっと降りてくる。
    君はゆっくりと落ちてくる冷たい花をそっと手にして、小さな白い吐息を吐いた。
    ああ、行ってしまう。
    行かんといて。もう行ってくれ。
    今、君に声をかけて、君が俺を受け入れてくれたなら。俺は君を君の友達や親御さんから奪い取って、誰も手の届かん所へ連れてってしまうよ。
    そうなる前に、俺の前から消えてくれ。
    ゆっくりと、何度も何度も夢に見て、何度も何度も追い掛けた頼りない背中が。
    灯り始めた街灯の間へ消えていく。ああ、安心した。
    「聡実くん」
    とうとう口に出してしもた。ずっと、君の名前を口にしてしまったら、必死になって取り繕ったいろんなもんが全部崩れ落ちてしまう気がして、怖かった。
    「聡実くん、聡実くん。聡実くん…」
    君の名前を呼ぶ事ができるのが、こんなにも、こんなにも。
    「聡実くん、聡実くん、聡実くん」
    もう立っていられない。知らん人の家の塀に凭れかかって、そのままズルズルと腰を落とした。
    会いたかった。会いたくないと強がった。会えるかもと思った。会いたい。会いたいよ、すごく。会って頭を撫でて、怯えながら怒る君に会いたいよ。
    胸が焼け付くように熱い。目も、頭も、手も熱い。俺の何もかもが熱い。
    「聡実くん、聡実くん、聡実くん…」
    嗚咽を堪える代わりに、君の名前を呼び続ける。君をあんだけ泣かした分、俺は泣いてはいけない気がした。
    粉雪は降り続ける。俺の元へ、君の元へ。
    寒い思いしてへんかな、聡実くん。その分俺に降ってくれればええのにな。そしたらこの熱も何とかなるもんな。
    多分真っ赤になっているであろう鼻をすすって、そんな益体も無いことをお空の神さんに願った。


    「おそようさん。外寒かったやろ。鼻真っ赤やで」
    事務所に重役出勤すると、一人残っていたアニキが自分の淹れ差しの茶を分け、ホレと差し出してくれた。えろうすんません、と何となくスッキリした頭で礼を言い受け取ると、アニキは怪訝な顔でじっとり見つめる。
    「何かあったんか」
    「いえ、何も」
    実際、何も無かった。何かが起こったわけでもない。ただただ、俺が俺の気持ちを改めて、痛い程に思い知っただけ。
    そうかぁ、と興味も無いようにアニキは背を向け、せや、今度のお前の仕事の話せな思っててん、と何やら書類の束を鷲掴んだ。
    「東京でな、ちょっとした物件見つけてん。お前に任せるわ」
    「東京?何でまたそんな遠いとこに」
    アニキの目がいつになくジッと俺の目を射る。
    「お前のお歌のセンセな、春から東京の大学やて」
    「何も言うな。何年お前のアニキやってると思っとん。あんまし俺を舐めんなや」
    ほれ、さっさと目ぇ通して準備せえ、と紙束を突き付ける。喋る隙を与えんモードや。
    押し付けられた紙束を強く握る。これは正解か。俺は間違っていないか。
    「狂児ィ」
    スパァン!と一種爽快な音。別の紙束を丸め、アニキが俺の頭を引っ叩いた。いや、その紙束随分厚いんとちゃいますか。
    「おんどれ、まだ自分騙眩かすんか。どうせ騙すんならええ方に舵切れや」
    ……さすがは俺のアニキや。ええこと言うなぁ。
    ぴし、と姿勢を正して。誠心誠意、勤めさせていただきます、と返答すると、おう、と答え後ろ手に手を振り、せいぜい気張りや〜とのったり事務所を出て行った。
    宵の口、夜はまだ長い。けれど、夜明けの気配を遠くに感じる夜だった。


    白い雪が桜に変わり、それも盛りを終えつつある。
    空の玄関。そこで、やはり俺は背中を見つめていた。
    なんで聡実くん、こんなとこで俺の名刺眺めてんの?
    ヤクザの名刺なんてとっくに捨ててると思っとったのに。あかん、ほっぺたユルユルになるやん。

    会いたくない、嫌いなんて、全部嘘や。けど、どうしようもなく大事なのは本当。
    だから君がもし、宵闇に足を踏み入れそうになったら。
    その時は俺がそっと通せんぼして、君を明るい世界に押し留める。それでええかな?
    俺も頑張ってその淵で踏ん張るから、もう少しだけ、側におってもええかな。
    気取られないように大きく息を吸って、一歩、踏み出す。

    「しょっぼい名刺やなぁ」
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