お揃いの香りを纏って「立香はいつも女の子らしい匂いがするのね」
「え?」
はちみつ色の瞳をぱちぱち瞬きさせて、少女はクンクン、と自分の腕に鼻を近付ける。まるで小動物のようなその動きに、私は頬を緩ませて美味しいみたらし団子をひとくち。
「そうかなぁ?」
「自分の匂いって分からないからねぇ。立香は…そうね。例えるなら…甘い香り?」
「みたらし団子の匂いじゃなくて?」
「違いますー!」
モグモグ団子を頬張る立香は、もう一度すんすんと自分の匂いを嗅いで、首をかしげて私を見る。ああ、もう。こういう仕草一つ一つが本当に可愛い。
「甘い香りってどんな?」
「んー…食べちゃいたい香り?」
「…?」
「花みたいな優雅な香りじゃなくて、どちらかというとデザートに近い香り」
そう。近くに男がいたらひょいと食べられてしまいそうな感じの、甘い美味しそうな香り。まあそんな男がいたら私がすぐに斬り伏せるけどね。
「そうなの?」
「そうそう。だから立香、気を付けないとだめよ。私だっていつも傍にいられるわけじゃないんだから」
にこりと顔を覗き込んで微笑めば、少女の血色の良い頬が少しだけ赤くなった気がしてまた可愛さが上がってしまう。
無意識に周りを見渡して、変な男がいないか確認。よし。いない。刀に添えた手を下ろして、またお団子を一口。
「武蔵ちゃんは?」
「え?」
ふっと近付く蜜柑色の髪の毛に目をぱちくりすれば、少女は首筋辺りに顔を近づけてすんすん匂いを嗅ぐ音。
不意打ちにやられてしまうとは、私もまだまだ修行不足。
「ちょ、立香…近すぎじゃない?」
「…良い匂い」
「へ?」
熱い。顔が、熱い。そんな間近でうっとりしたように言われては、余裕ぶってた気持ちに限界が来る。
「武蔵ちゃん、顔赤い」
「そ、そう?それより、良い匂いって?」
我ながらナイスなかわし方。このまま私がなし崩しになってたら形勢逆転されるところだった。
立香よりお姉さんなんだから、ここは落ち着いていないと。
「……おうどんの出汁の匂い」
「へ?」
「武蔵ちゃん、わたしが来る前にうどん食べたでしょ」
ば、バレたーー!!ちょーっと小腹が空いたような気がしてうどんを食べたの、バレてしまったー!
「わたしが来たとき、こっちも今来たところって言ってたのに…」
「いや、違うの!嘘をつこうとしたんじゃなくてね!?あ、嘘はついていたんだけど…!」
「…」
「………はい。すみません。出汁の香りに勝てませんでした」
じとーっと見つめる視線があまりにも痛くて、さすがに私の心もポッキリ。誤魔化してもあまりに見苦しかったため、さすがにここは折れる。立香にいやしいと思われたくなかったけど、これだとみっともなさ過ぎるわ…。
「怒ってないよ」
「え?あ、そうなの?」
「慌てる武蔵ちゃんが可愛くて、つい」
「!…もう~!あんまりお姉さんをからかうんじゃありません!」
ニコニコ笑う笑顔もこれまた可愛くて、一瞬ムッとした気持ちがすぐに引っ込む。自分で言うと恥ずかしいけど、あまりにも惚れ込みすぎね。
「でもわたし、武蔵ちゃんのうどんの出汁の香り、好きだなぁ」
「美味しそうだから?」
「それもあるけど…武蔵ちゃんが好きなものの香りをさせていると、なんか嬉しくなっちゃう」
「そう?」
「うん。わたしなんて多分これシャンプーの匂いだし」
少女が小さく笑うとふわりと風が吹いて、蜜柑色の髪がなびく。甘い美味しそうな香りが漂ってきて、ついうっとりしてしまう。
例えシャンプーの香りでも、それは身だしなみにきちんと気を使っていることだから私は好きだけどなぁ。立香が年頃の女の子らしくしているだけで、私も嬉しくなるのだ。特に、彼女は私と違って普通に暮らしていけることも出来たはずだから。
「…ねぇ、立香。立香は、私が好きなものの香りを纏っているのが好き、なのよね?」
「…?うん。好き」
「じゃあ…一つお願いがあるんだけど」
「なに?」
キョトンと見上げる蜂蜜色の瞳にドキッと心臓が跳ねたけど、ここで怯んではダメ。余裕たっぷりに、格好よく!頑張れ私!
「立香と同じシャンプー 使いたいんだけど」
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