Aubrey&Maturin:tie-mate きみの髪は、と、頭の後ろでスティーブンが言った。
「うん?」
「きみの髪は、金というより黄色だな」
振り向こうとしたジャックの動きを制するように、こめかみのところで髪にもぐりこんだ指が、耳の後ろを通って首を渡る。するりと毛先を抜けて、着古したシャツ越しの背中に指先の丸い感触が落ちた。
髪をくしけずるスティーブンの手にされるがまま、生物の体毛の色に関する講釈でも始まるのかと大人しくしていたジャックは、しかしそのあとに続く声がなかったので口を開く。頭の天辺から後頭部に向けて下りてきた指の腹が、小さな縺れに引っ掛かって止まった。
「子供の頃は明るい色だったらしいんだが。母親譲りだとかでな」
ふうん、と嘆息と大差のない相槌を返して、スティーブンの指が二度、三度と同じ動きを繰り返す。指先の捉えた引っ掛かりをあやすようにしてほどいたあと、再び毛先まで撫で下ろすようにして梳いていく。
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