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    まひろ@572

    五夏固定です!

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    まひろ@572

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    『ハッピー572ウィークエンド』企画
    五夏、転生祓本軸です。
    情事の翌朝のお話。
    素敵な企画をありがとうございます!

    幸せはきみのかたちふわりと、パンが焼けた匂いが鼻をくすぐる。
    なにかじゅうじゅうと焼いてる音、それからコーヒーだろうか、コポコポ沸き立つ音もする。まだ寝ていたい気もするけれど、目蓋が自然とあいてしまった。そうだ、せっかくのふたりオフーーと頭によぎり、がばりと起き上がる。腰が昨晩の余韻からか、少し重たいけれど我慢するほどでもない。脱ぎ散らかしてたはずの服も無くなっていて、新しくクローゼットから部屋着を出す。また出かけるときに考えればいいから今は適当にTシャツとスウェットで。
    「おはよ、傑」
    着替え終わった瞬間に、後ろからぎゅう、と抱きつかれて。悟は肩越しに青い目を煌めかせた。サングラスから覗く目は甘くとろけていて、でもきっと自分もこんな目をしているんだろうなと少し気恥ずかしい。
    「おはよう悟」
    ちゅ、と陶器のような肌の頬にキスを落とすと、見る見るうちに赤く染め上がっていく。
    「な、なっ、なに……」
    「……いつももっと激しいコトしてるくせにちゅーくらいで」
    「ちゅーなんて可愛いこと言わないで!」
    も〜傑はこれだから!とぷりぷり怒っている悟に、くすくす笑うと、機嫌いいね、と頬に擦り寄ってきた。ふわふわの白い髪がくすぐったい。
    「機嫌がいいのは君だろう?」
    「そりゃ〜2ヶ月ぶりに恋人を堪能出来ましたから」
    当たり前でしょ、とべぇと舌を出した悟に、ここ最近忙しくてすれ違いばかりだったことを思い出して苦笑する。その赤い舌は仕事を降ってくる事務所に対してなのか、妬んでくる同期や先輩に対してなのか。はたまたモーションをかけてくる女子アナやモデルだろうか。
    ーーまぁ全部なのだろうけど、ストレスMAXになった悟に白旗をあげたマネージャーの伊地知がどうにかこうにか私と悟をふたり揃ってオフにしてくれたのだ。「すみません!!どうしても1日しか取れず……!!」と泣きながら土下座されたのが昨日の帰宅間際。悟は「それを回すのがオマエの仕事だろーが」と拗ねていたが、今は売れどきだ。伊地知も私達のタイトなスケジュールに付き合ってもらっているのは分かっているので、「君もゆっくり休みな」と肩を叩くと泣きながら喜んでいた。
    インスタライブも無し、ラジオも無し。本当に久々にゆっくりふたりで夜を過ごせたのだから、私だって機嫌がいいに決まっている。

    「私も同じ気持ちだよ」
    端的に返せば、それでも私の気持ちは伝わったらしく。頬を赤くしたまま、にかーっと眩いほど歯を見せて笑った悟は、そのまま私の肩を押して「朝ごはん出来てるよ〜」とリビングまで連れて行ってくれた。
    ダイニングテーブルの上には、焼き立てのパン、目玉焼き、ベーコンにサラダ、フルーツヨーグルトがワンプレートに乗っている。その横には野菜スープまである。
    「ふふ、豪華だね」
    席に座ると、コトン、と置かれたのはコーヒーが入ったマグカップ。黒猫が描かれてるのが私ので、白猫が悟の。同棲が始まった頃に買ったものだが割れも欠けもせず、お互い大事に使ってるのが分かる。
    「「いただきます」」
    ふたりで揃って手を合わせて、フォークを手に食事をすすめる。まだ温かいパンは、サクサクのふわふわで頬が弛んでしまう。おいし、と溢れた呟きは相方にしっかり拾われたらしく、嬉しそうに目を細めた。
    「だから頑張って作ったんだよ」
    脈絡のない言葉に、もぐもぐと口を動かしながら首を傾げた。私の態度に、伝わってないことに悟は気付いたのか飲もうとしたマグカップを一旦唇から離した。
    「傑がそうやって幸せそうに食べてくれるから、頑張って作っちゃうってこと」
    「……そんなだらしない顔してたかい?」
    「ちげぇよ、可愛い顔してんの」
    基本的に料理は私が作るのだけれども。情事の翌朝のご飯は絶対悟が作ってくれていた。ただ単に悟が早起きで動いてくれているのかと思っていた。
    「特にね、えっちした次の日はすっげぇ可愛い」
    知ってた?と同じ方向に首を傾げられて、かーーっと頬に熱が集まってしまう。
    「だって、それは…気が抜けてと、いうか」
    「はは、照れたら語彙力死んじゃうのも可愛い」
    誤魔化すようにコーヒーを口に含む。いい香りが鼻腔をくすぐる。そうだ、このコーヒーも悟がわざわざショップまで足を運んでブレンドしてもらってる、らしい。市販のでいいよ、とは言ったけれど悟がいーのいーの、俺が好きでやってるの、と笑われたら止めるわけにも行かず。私好みのコーヒーを選んで、買って。朝早くから豆を挽いて、朝ごはんも同時に作って。

    それが、私が幸せそうだから、なんて。

    きゅう、と胸が苦しい。
    悟にそこまでしてもらう資格なんて私には無いよ、と言ってしまいそうになるけれど、嬉しそうに髪を揺らす君にそんな事は言えないな、と口の端を結んだ。
    何も覚えてない悟の側にちゃっかり居続けて早何年。彼の横にいるべき人はもっと他にいるのだろうとは分かっていても、居心地のよい彼の側は離れ難くて。仕事だけではなく私生活まで常に一緒になってしまった。
    悟が望むまでは一緒にいよう、と切り替えたのもつい最近だ。それまではこの幸せを傍受しよう、と。

    フォークを動かして、目玉焼きに手をつける。ちょい、と黄身に先っぽで刺すとぷつりと穴が開いて、とろとろと中身が出てくる。どんどん流れてきて、白身に黄身が覆い被さるまでになってきた。
    ーーなんだか、まるでー

    「なんか、卵って俺らみたいじゃね?」
    「えっ」
    思っていたことを当てられたようで、どきりとする。正面を見ると悟も目玉焼きを食べているところだった。
    味気ない白身に、とろりとかかる黄身。つまらない私が、悟という幸せに隠されて、浸されているようだ。
    「傑が白身で俺が黄身」
    「……そのこころは?」
    「俺が傷つかないように全てから守ろうとしてくれる」
    ぽかん、と口が開いてしまった。誤解されやすい悟に、口先が上手い私。矢面に立つのは私になってしまうけれどそんなものは適材適所だ。まさか、そんな風に思ってくれていた、なんて。
    「あと、白身も黄身も、ピンで色々使えるけど。やっぱふたつ一緒が一番ウマイ!」
    どうだ!と言う様に胸を張る悟が可愛くて、ぶはっと吹き出してしまった。くつくつと笑う私に気を良くしたのか、悟は眉をへにょりと下げて優しく微笑んだ。
    かちゃりとフォークをお皿に置いて、またふたりで手を合わせる。
    「「ごちそうさまでした」」
    長年一緒にいると、食べるスピードも食べ終わるタイミングも似てくる。それに気付いたときの気恥ずかしさったら無かった。
    「私が洗うよ、悟はゆっくりしてな」
    「一緒にしよーぜ、そっちのが早いじゃん」
    かちゃかちゃと食器をシンクに運んでスポンジに洗剤をつける。悟はフライパンなど調理時に使ったものも綺麗に片付けていて、洗い物なんてふたりのワンプレート皿とヨーグルトを入れていた小皿、それにスープ皿くらい。そんなのふたりで洗う量なんかじゃないっていうのに。
    「君はこんなに甘えん坊だったかな」
    私が洗って、悟が濯ぐ。肩も腕もなんならお互いの右足と左足もぴったりひっつけて。
    「離れちゃうと死んじゃう病」
    だからもっと構ってよ、と頭を擦り寄せてくる悟に。いつもならハイハイ、と流してしまうけれど。
    濡れた手をタオルで拭き取って、悟が食器を置いたのを確認してから後ろからぎゅう、と抱きついた。
    「!!?」
    固まってる。相変わらず私からの接触に弱いのが本当に可愛い。自分からのときは嬉々として好き放題触るくせに。
    「じゃあずっと一緒だねぇ」
    そう伝えると、ばくり、と大きな音が悟の身体から背中越しに聞こえてきた。これ、心臓ーー

    「傑、勃った」
    「え!?今ので!??」
    じとりと恥ずかしそうに見られたあと、私の手をとってズカズカとリビングへ連れて行かれる。
    「傑、今日の予定は?」
    「何もないけど、洗濯ーー」
    「もう終わった」
    「え!ありがとう」
    「イーエ、傑の出したのでシーツがびちゃびちゃで洗いたかったから」
    「わわ、わたしだけのじゃないだろ!」
    まぁね、と短い返事と一緒にソファーに押し倒される。でかい男ふたり分、ソファーがぎしりと悲鳴を上げた。
    ちゅ、ちゅ、と顔中にキスを落とされる。心地いい、気持ちがいい。甘えてるようで甘やかされている。キスの合間に、そっと目蓋を上げると。リビングの窓から朝日が差し込んで、悟の髪を綺羅綺羅と透かした。それがなんとも言えなくて、思わず言葉を失ってしまう。
    「傑?」
    髪の間に指を差し込んで、優しく引き寄せて悟の額にキスをした。

    伝わって、伝えさせて。
    どうか、少しでもいいから。
    私が、君の隣にいることで、どれだけの幸せを受け取っているのか。

    「私の幸せは、君が運んできてくれていると思っていたけれど違ったな、と」
    「へっ?どういう意味?」

    とろ、とろ、とろり。
    君という幸せが、私を溶かして絡めていく。
    もうそれ無しじゃ息も出来ないくらい、甘く、甘く。


    「君の存在が、私の幸せだってこと」



















    朝の光が差し込んで、俺の意識が覚醒する。
    目蓋を開けた瞬間に目に入るのがこの世界で一番大事な奴。

    傑が、いる。
    それがたまらなく嬉しい。

    幸せだと思う。
    こんな幸せは他にないと思う。

    きっと、傑は知らない。
    俺が毎朝、傑の顔を見て泣いているなんて。
    止められない、この胸に溢れる喜びは誰にも止められるものじゃない。

    血塗れの傑なんかじゃない、死にゆく傑なんかじゃない。
    息をしている、俺の横にいて、生きている。
    同じ刻を、生きている。
    ーーそれが、この上ない幸せだ。

    未だ夢の中にいる、柔らかな寝顔。髪を後ろに流してあげて、そっと起こさない様に軽くキスをして。

    伝わって、伝えさせて。
    どうか、少しでもいいから。
    俺が、お前の隣にいることで、どれだけの幸せを受け取っているのか。

    お前が、この世界で笑えるように。
    この世界で、幸せになれるように。
    俺、頑張るから、さぁ。

    「お前が、俺の幸せなんだからな」

    ーーだから、ずっと傍にいろよな。


    寝ている相手にそう告げて、起こさないようそっと部屋を出る。今日も相方の笑顔を見るために、俺は袖を捲りながらキッチンへ向かうのだった。


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