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    kuduchan

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    ばじくんと松野くんについて

    場地君が亡くなったと聞いたのは、芭流覇羅との対決から数日後のことだった。それを聞いたとき、壱番隊はどうなるんだろうと思った。俺ら壱番隊は、場地君が突然芭流覇羅に行くと言ってから、頭がいないまま宙に浮いていた。副隊長の松野君は場地君が絶対に帰ってくると信じて疑っていなかったから、俺らもそう信じていたし、総長だって場地君を取り戻す気でいた。だから場地君が自分で自分を刺した瞬間を見ていても、死ぬっていう実感がなかった。だって俺らは松野君や総長みたいに場地君の近くに行ったわけじゃない。ドラケン君だって、腹を刺されても少し入院したら何事もなかったように戻って来たし、今回も同じようになるって思っていた。ぶっちゃけ芭流覇羅の一虎とかいうヤツとマイキー君の間に何があったのかも全然わかんねぇ。でも総長があんな風に人を殴っているのは初めて見た。オレ達の頭の本気は、オレが想像していたよりもずっとずっと強かった。
    きっと松野君も総長も、場地君があの時死んだんだと、きちんとわかってたはずだ。松野君はこれからどうするんだろう。東卍を辞めちゃうんだろうか。
    松野君と場地君はいつも一緒にいた。松野君は誰がどう見ても場地君が大好きで、少し気持ち悪ぃなって思った事もあった。場地君はなにかあると松野君を呼んだ。飲み物を買ってこいとか、その辺にいる隊員でもできることをわざわざ松野君に頼んだ。「千冬」って場地君が怒鳴るみたいに大声出すと、松野君は小走りで場地さんの方に向かった。松野君にオレが代わりに行きましょうかって聞いたら「場地さんがオレに頼んだことだから」って断られたのをよく覚えてる。
    場地君は基本的には良い人なんだと思うけど、結構気分屋で、少し怖い時もあった。内輪もめとも呼べないけど、ちょっと殴ったり蹴ったりは当たり前で、俺ら隊員は場地君の機嫌がどうか気にすることもあったけど、松野君は副隊長だし、少し理不尽なことを言われても全部受け止めてたんだと思う。
    場地君が抜けてすぐに、松野君はボコボコの顔で集会に来た。喧嘩っ早くないし、弱くもない松野君がそんな風になるなんて信じられなくて、本人にも聞けなくて、どうしたんだろうなってコソコソ話した。結局しばらくしてから噂が流れてきて、場地君がやったとわかった。それでも松野君は場地君の文句を一度も言わなかった。松野君は優しいし、頭も悪くないし、良い人なんだと思うけど、場地君と同じでどっか普通じゃねぇんだってわかって、少し怖かった。
    松野君は今、いや、あの時からどんな気持ちでいるんだろう。
    オレがどうこうできる問題じゃないだろうけど、辞めてほしくないな。



    隣のクラスの場地君が亡くなったと聞いて、私は思わず松野君の席を見てしまった。他の人も同じことを考えたみたいで、松野君のいない席に視線が集まっただけだった。場地君と松野君は私の知る限り、いつも一緒にいた。
    隣のクラスの担任は心配性で、何度も同じ話を繰り返す。だからいつもどこよりもホームルームが終わるのが遅い。うちのクラスのホームルームが終わると、松野君はすぐに前の扉から出て、場地君の教室の前の廊下で待っていた。うちの学年なら、たぶん全員がその姿を見たことがあると思う。入学してすぐくらいから始まって、朝も一緒に来るし、カップルよりもずっと一緒にいたはずだ。
    場地君も松野君も不良の割には真面目だった。松野君は顔に怪我をよくしていたけど、休んだりとか、サボりは多くなかった。場地君はクラスが一緒になったこともないから性格をよく知らないけど、少なくとも校内では揉め事を起こしてはいなかったと思う。よく教科書を忘れて松野君に借りに来ていた。放課後の教室で、二人で勉強している姿も見たことがあるし、私には普通の人に見えた。だから喧嘩で死ぬなんて、そんな大事件に巻き込まれるなんて、驚きしかなかった。
    このまま松野君は転校するかもしれない、そう思っていたけど、特に前触れもなく松野君はある朝、登校してきた。治りかけの傷を顔につけて学校に来た松野君は、いつもと変わらない様子で授業を受けた。今日の日付と出席番号のかぶる松野君を当てた数学の先生が、松野君の返事で少しだけ緊張したように見えた。黒板に書かれた松野君の文字は相変わらずとてもきれいで、答えもあっていて、意外なほどに普通な様子だった。
    けど、その日の終わり、松野君はゆっくりと席を立って後ろの扉から出て行った。もちろん、隣のクラスには寄らず、一人で帰っていった。
    もう二度と松野君が廊下で待つ姿は見られないのだろう。私は松野君が廊下に立っているときの顔が、好きだった。まるで恋しているみたいで、すごく可愛かった。男の子にこんなこと言うと怒るかもしれないし、言う気はさらさらなかったけれど。
    私は場地君と話したこともないし、よく知らないけど、もうあの顔を見られないのだと思うと、とても寂しい。





    東卍の元壱番隊隊長、場地圭介が連れてきたのは副隊長の松野千冬というヤツだった。芭流覇羅のアジトに東卍のトップク二人。こっちには半間君も一虎もいる。数でも力でも負ける気がしない。場地がなんか企んでたって、勝ちは見えてる。当の松野は、なんもわかってねぇのか、目が合うと睨んできた。こいつはまじで強ぇのか?ってくらい細いし、デカくもねぇ。でも場地が認めてるんなら、そこそこ強いんだろうな。煙草の煙をふかした半間君は、吸い殻を床に捨てた。ショーが始まる。
    「そいつが踏絵?」
    半間君が場地に親しげに話しかけると、松野はあからさまに混乱した顔をした。にやにやと松野の顔を見て、場地に聞く。場地は表情を変えず、松野を一発殴った。ヒュウと誰かの口笛の音がして、半間君が「はじめんの早ぇよ。なんも説明してねぇじゃん」と、楽しそうに言う。でも結局、半間君は口癖の「だりぃ」を理由に「みんなわかってんだろ?踏絵開始ぃ~」と適当にショーを始めた。
    松野は殴られた頬を抑え「場地さん?どうしたんすか?」と可哀相なくらい、ものわかりが悪い。場地は何も答えず腹に強い蹴りを入れた。そのまま倒れた松野に馬乗りになって顔に拳を叩きこむ。松野もさすがに抵抗するかと思ったが、場がしらけるくらいに無抵抗でやられっぱなし。敵わない相手には楯突かないタイプかしらねぇが、つまんねぇと思ったのはオレだけではないらしく、他のみんなも最初はぎゅうぎゅうにサークルを作っていたのに、ぱらぱらと散り始めた。
    「一虎まだ?」
    半間君がつまらなそうに近くにいるヤツに聞く。その時、タイミングよく入口が開いた。一虎が連れてきたのは東卍の新入りだという、弱そうなガキだった。そいつに場地が東卍の集会で言った事を証言させ、場地の芭流覇羅入りは決まった。
    一虎は意識のない松野を見下ろしてにやりと笑った。
    「こいつ、好きにしていいよ。お前ら言ってたじゃん、死姦ってどうなんだろうなって。半分死んでるし、ちょうどいいだろ?」
    声を掛けられたヤツが半笑いになる。一虎が松野の頭を蹴っても、松野は指をぴくりと動かしただけで、大きな反応はなかった。
    「早くしろよ」
    一虎がすごむと、そいつは嫌々松野の服を脱がした。
    「おい、一虎」
    「なに?こいつかばうの?やっぱオマエは東卍側ってわけ?」
    「……ちげぇよ」
    「ならいいだろ。あ、場地、オレ腹減ったから飯食って帰ろうぜ。お前ら、後で写メ見せろよ」
    一虎は場地の肩を抱いてアジトから出て行った。
    証拠を要求されたら仕方がない。足を折られるのは勘弁だ。お前が一虎に言われたんだという押し付けと、一人でなんて不公平だろという反論で、輪姦ショーが始まった。そんなもの見たくないという人間は帰り、面白いじゃんという人間は再び輪を作る。
    殴られる前は割と可愛い顔をしていた気がするが、鼻血がこびりつき、痣ができた顔は正直萎える。それでも女を殴るのは気が引けても、男に暴行を加えるのは慣れている奴らだから、最初は嫌々だったが、だんだんと面白くなってきたらしい。松野が抵抗をしようと足掻くと、それを潰す奴が現れ、完全にリンチだった。
    信じていた人間に裏切られた松野は、今どんな気持ちだろう。場地はあの瞬間、確かに一虎を止めようとした。けれどあの時、松野に場地の声が聞こえていたのかはわからない。
    こいつも東卍を抜けるかもしれねぇな。別にオレがしったこっちゃけねぇけど。
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    kuduchan

    DONEどこか遠い場所フィリピンでマイキーが死んだ時、イザナは荒れ狂った。その訃報を流したテレビに向かって、目の前にあったスマートフォンを投げつけ、画面が割れた。亀裂は画面に影を落とし、音だけはなんの異常もなく、不気味に流れていた。
    「なんでそんなとこにいるんだよ」
    フィリピンはイザナの父の故郷らしい。そしてイザナにも、その血が流れている。浅黒い肌と銀色の髪は、フィリピン人というよりは、どこか別の土地、人種の血も混じっているように見える。イザナの故郷も、両親の顔も、彼にまつわるルーツを本人はおろか、誰も知らない。
    「誰だよ、どこのどいつが殺したんだよ。鶴蝶、テメェ調べてこい」
    ヒステリックな怒号が飛ぶ。しかし鶴蝶は慣れたもので、狼狽えることなく部下たちに電話で指示を出した。おそらく数日で調べ上がるだろう。その間、イザナは殺意を込めた言葉を繰り返していた。
    「テメェがマイキーを見張ってなかったせいだってわかってんだろうな」
    「悪かっ」イザナの拳が鶴蝶の頬を捉える。手加減のない怒りがこもっていた。
    「テメェみたいな役立たずだけじゃ不安だろ。稀咲にも伝えとけ」
    吐き捨てるように言って、イザナは頭をかかえた。この場 5231

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