レイシーちゃんと密猟者狩り(後編)「ルティちゃんさすが!!」
きゃあ〜とレイシーは片手で口を押さえて驚く仕草をしている。
「うわ……皆んな気絶してる……」
セバスチャンはこの短期間ではあり得ないとまだ驚いていた。
「……結構いた筈なんだがな……」
オミニスはというと、若干引いていた。
だが、これは事実であると何より結果が物語っている。
「どうした?まさか2人とも怖くなったのか?いいのかい?まだゲームは始まったばかりだぜ?」
ここまでは前菜にも満たないからな。
もし怖いなら帰ってもらうしかない。
だが、すかさずセバスチャンが食ってかかる。
「揶揄うなシャルドネ。で?僕は何をすればいい?君のことだ、何か作戦を考えているんだろ?」
その問いに私はニヤリと微笑んでやる。
「信頼してくれて、どうもありがとう。そうだな……これだけ人数がいることだし、少し強気で攻めよう。まぁ、贅沢をいえる状況ではないけれど」
コマが豊富だが、一手を間違えたら一気に戦局が崩れ落ちるからな。
その時は練り直すしかないな。
まぁ……獲物たちが計画性がない波状的な暴動に陥った場合は、精神を侵す呪の魔法が有効なんだが………。
ははっ。
そんなことをしたら、オミニスにこれ以上嫌われてしまうな。
「私は画一的な戦術は嫌いでね。君達の個性は尊重しないと」
「もっと理解しやすく言え」
セバスチャンがムムッと睨みつけるように言う。
「……シャルドネが訳の分からないことを言ってるが、気にしないでくれ」
オミニスに至っては、レイシーに俺のことで代わりに誤っていた。
失礼なやつめ。
「うふふっ、面白い人ね」
「分かったって。理解しやすく、簡潔に指示……だろ?では、まずシャルロット……ルティには来場者の名簿帳、その他諸々の証拠品を確保して欲しい」
シャルロットは静かに頷く。
「で、セバスチャンとオミニス……君達には囚われた動物たちの保護を頼む。保護したらポピーに頼もうかと思ってね。だが、できるだけでいい。難しそうなら放置して構わない。君達の命の方を優先するように」
「「分かった」」
セバスチャンとオミニスも素直に答える。
「で、貴方には……」
俺はレイシーに視線を移す。
「ふふっ、何すればいいの?」
彼女は楽しそうに微笑みながら聞いてくる。
肝が据わってるな。
「私と一緒にバーンと堂々と敵地に赴こうではないか。なに、囮だよ囮。簡単だろ?」
「ええ。あはは、それ面白そうでいいアイデアだわ」
「嬉しそうで何よりだよ。あ!あと皆んなに注意点が1つ。観客が多いから、人前では決して許されざる呪文を使わないこと」
後で目撃者を消す作業をしに行かなくちゃいけなくなるからな。
後始末が面倒だ。
「そんなの、人前じゃなくても使ってはいけないだろう」
オミニスはそういうと思ったよ。
「皆様、ご理解を頂けましたでしょうか?」
「あぁ分かった。……ほんと、君の計算高さには驚くよ」
セバスチャンが色々と何かを含む言い方をする。
「え?何?私って実は評価が高い?……おいおいセバスチャン、冗談だよ」
くそ!少し褒めてやったらこうだ!
とセバスチャンがまた怒り出している。
「よし!さぁ、今宵のパーティを楽しもうか!解散!」
俺の声を合図に皆んなが一斉に行動する。
「ではお嬢さん」
俺はパートナーであるレイシーを会場にエスコートするため、彼女に片腕を差し出す。
「ふふっ、ありがとう」
彼女も私の意図することが分かったのか、俺の腕に手を添えた。
「君には来場者らを外へ誘導してほしい。なに、君の背中を守る役目は是非とも私めにお任せあれ」
「あはは、実は君が私のナイトだったの?ふふっ、いいねその設定、面白いわ」
さぁ、パーティの始まりだ。
――――
「ご来賓の皆様!、本日は誠にありがとうございます!」
私は広間で戦い合う2匹の魔法生物を魔法で吹っ飛ばして退場させ気絶させる。
私たち2人のド派手な登場により、あたり一面は驚愕に包まれる。
「お次の項目は、未来ある若い魔女と魔法使いによる華麗なダンスを披露いたしましょう」
私は来場者に聞こえるよう、大きな声を張り上げ紹介する。
レイシーもノリノリで皆に綺麗なカテーシを披露していた。
これも演目のうちかと来場者は不思議に思っているのか、あまり動揺はしていなかった。
ヒューっと俺らに応援する始末だ。
ふっ。
こういうところは何も変わっていない。
大勢の仲間と一緒に眺めるだけ。
屑どもめが。
ちょっとは頭を使えよ。
まぁ、彼らに異変を察知する知恵もないか。
「ご声援ありがとうございます。つきましては――」
「――誰だ貴様ら?!死にてぇのか?」
おっと?
やっとお出ましか。
遅いねぇ。
俺はわざわざ御出でになった雑魚を拘束呪文で壁にくくりつけてやった。
それを見た観客らは、ようやく異変に気付き会場が騒つく。
「彼……知っているわ」
「確か世にも珍しいマレディグタスよね」
「竜よね。私も見たことある」
「まさか、復讐?」
「あの魔法サーカスの惨劇をご存知?!」
「嫌!逃げなくては!」
「どいて、私が先に行くわ」
「私の方が高位貴族なのだぞ!下の者は退きたまえ」
……おやおや。
私を知っている奴がご存命していたとは……。
それはそれは、なんともまぁ……実に腹正しいね。
ホグワーツにくる前、綺麗に掃除したつもりなのになぁ。
確かに君らからしたら、我ら双子は永遠の恐怖だろう。
我先にと逃げ惑う姿は、まるで巣を突かれた蟻のようで滑稽だった。
異変を察知した密猟者たちがゾロゾロと広場に躍り出てくる。
そんなに踊りたいのか?
ならば、共にこのショーを楽しもう。
「さて皆様、今宵は私たち2人が魅せるダンスをご覧あれ」
さてミドルゲーム開始だ。
俺の言葉が合図となり、レイシーが炎で敵を殲滅する。
ほぅ……。
芸術的視点で魔法を見たことはないが……これはアートだな。
彼女が操る炎は不思議だ。
生命が炎に宿っているかのように、彼女の意思に沿ってありとあらゆる物を飲み込んでいく。
対象の物だけを狙ったその動き。
木製の壁や物など燃えやすい素材が辺りにあるというのに、燃え移ることなく次の獲物を探している。
それを操る彼女は、いわゆる地獄のイフリートのようだ。
セバスチャンめ、こんないい人材を見つけてくれて感謝するよ。
「ほらほら、彼女に見惚れてないで私とも一曲お願いしますよ」
俺も彼女を狙って杖で攻撃しようとする奴を魔法で切り刻んでやる。
……しかしまぁ。
強敵を前にしても、蟻共がワラワラと湧いて出てくる。
ただの思考停止を堂々とまぁ。
せっせこせっせと健気だねぇ。
「ねぇ、君。ドラゴンちゃんだったの?」
隣にいるレイシーに話しかけられる。
「そうだよ。驚いた?」
「ふふっ。魔法生物だったら、私が保護したのに……と思ってね!」
そう言いながら、彼女はまた1人と炎で丸呑みにする。
「そういうプレイも悪くないね」
君みたいな人に俺ら双子は拾われたかったよ。
『…………ルネ?聞こえる??』
おおっと、愛しのシャルロットからの念話だ。
『聞こえてるよルティ。どうしたんだ?』
『帳簿は見つけたの。でもその時に私らのサーカス時代に撮られた魔道具を発見して……』
『破壊しろ、全て、一つも残さずに』
『ええそうするつもり。あと、あのサーカスの関係者が今目の前にいて……殺していい?』
『ああ、君がそう望むのなら。安心して。遺体は後で私が拾っとくよ。ギャレスの実験材料に丁度いい』
『分かった……そっちも頑張って』
『あぁ、ルティも』
「レイシー、姉からの伝言だ。無事に帳簿を見つけたようだ。こちらもそろそろ仕上げに移ろう」
「あら?君達、遠くに居ても会話ができるの?ふふっ、それはとても便利ね」
「だろ?双子のツガイのように、固い絆で結ばれているから成せる技だ」
さてさて。
クライマックスはどう奏でようか。
ふふん〜ふふっふーん
すると隣にいるレイシーから鼻歌が聞こえてきた。
時折歌いながら魔法を撃ち込んでいる。
それは心から戦闘を楽しいと思っているからなのだろう。
「その曲はモーツァルトのアイネ・クライム・ナハトムジーク第一楽章だね。サーカスのときよく演奏したもんだ。君がマグルの曲を知っているとは驚きだ」
「ふふっ、楽しい曲だから知ってるの」
「いいね。クライマックスは実際に曲を奏でようか」
俺は呪文で楽器を複数出現させる。
勿論、曲はアイネ・クライム・ナハトムジーク第一楽章だ。
――――
ある程度密猟者を殲滅したし、セバスチャンとオミニスそれにシャルロットとも合流できた。
もうここに用はない。
撤退しなければな。
俺は姉のシャルロットに視線を投げ、目配せで合図を送る。
シャルロットは静かに頷く。
「では、最後に我らのカルテットをご堪能くださいませ」
シャルロットは刀を使って相手の首だけを狙い、静かに斬り殺していく。
俺も近寄る者どもを消しながら、テントの天上にめがけて魔法を放ち大穴を開ける。
「よーし!シャルロット、レイシーは任せた。私はこの野郎どもを連れて行く!」
「分かった!」
「おいこっちに来いベイビーたち」
「今度その気色悪い呼び方をしてみろ、君の――うわっ」
オミニスごめんな。
ブチ切れているところ悪いが、俺らは今から竜になるから君らを揶揄うことができなくなる。
竜形態のときも、人語が喋れたらと思うよ。
君らを揶揄えなくなる。
シャルロットも無事変身できたようだ。
レイシーがシャルロットの背中に乗っていたのを確認する。
俺も足で2人を掴んで上空に駆け、シャルロットの後を追う。
――――
ある程度離れた場所で2人を下ろし、竜の変身を解いた。
「あははは!面白かったよルティちゃん!乗せてくれてありがとう!」
シャルロットはレイシーに撫でられていた。
「僕らも乗せてくれたってよかったんじゃないか?なんだよ……足でポイっと地面に捨てやがって」
「いいじゃないか。また機会があればな?そう拗ねるなよ」
俺も2人を撫で回そうとすると、予想通り彼らは私の手を避けた。
ふっ、可愛いベイビーたちめ。
「レイシー、今日は付き合ってくれてありがとう。助かったよ」
「楽しかったわ!またやるときは誘ってくれる?」
「あぁ。その時は声をかけさせてもらうよ」
やったわ!と言ってレイシーは嬉しそうにはしゃいでいる。
彼女は不思議だな。
……同じスリザリン生だからか、少し私と似通ったところがある。
だか、気分は悪くない。
今度の遺跡調査にも、彼女を誘ってみることにしよう。