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    nobu_tomo_kaede

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    nobu_tomo_kaede

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    前作(By your -)を書く際、話の都合上カットしたエピソードに新たに肉付けして単独のお話にしたものです。前作を読んでなくても問題ないです。
    相変わらずアニメの騒動直後で無駄に長いです。クリス視点。
    前作のエピソードと繋がる場所は♡♤♢♧で括られている部分だけです。
    タイトルは……色々な日本語解釈がありますが、オタク大好き聖なるアレってことでお願いしますw

    Stigma「はいはいただいま〜!不死身の色男が外回り営業からご帰還ですよ〜!」
    「お前なぁ、自分でご帰還とか言ってんなよ、なーんかバカっぽいぞ、……って……あれ?」

    昼下がりのオールドメイド支店の扉をくぐり、いつものように軽口を叩きながらフィンと二人戻って来た。
    普段ならここで店内からも辛辣なツッコミが飛んで来そうなものなのにそれがない、それどころか応答がない、これがお客様だったらどうするんだ。

    違和感を感じつつ何やら話し声のする応接セットの方へと向かうと、そこにはテーブルに広げた新聞を囲んで雑談している、レオ、ウェンディ、ヴィジャイの3人がいた。

    「……だって、やっぱりロマンチックじゃない? 私にはできないけど」
    「ロマンチック? ハッ…、そんな一時の感情で後先を考えずに暴走する奴ばかりでは国が滅ぶだろう」
    「土壌と言うのは国によってその成分もpHも変化します、植え替え先の土が合わなかった場合、最悪は…」
    「ヴィジャイ、そもそも人間は土から養分を摂取しない」

    「あ〜の〜、皆さん一体何のお話で……?」
    「あら、クリス、フィン、おかえりなさい」
    「営業お疲れ様でした」
    「……ったく、誰も出てこないとかどーなってんだよ、不用心だろー?」
    「安心しろ、帰ってきたのがお前達だと分かっていたから無視しただけだ」
    「それはそれでひどくな〜い?!」

    ほんの少しだけ、本気でした心配は杞憂に終わり、いつものメンバーのいつもの調子に安堵する。この何てことのない穏やかで温かな時間を、壊そうとしたのは自分だと言うのに。

    「……で、結局何の話で盛り上がってたんだよ?」
    「これよ、この記事」

    ウェンディが示した新聞の一面には、近隣国の王子が城下で見染めた旅行者の女性との愛を貫くために、国を捨てて女性の国に亡命したと言う、今やテレビでも持ちきりの話題が載っていた。

    「二人はどう思う? 私は当事者じゃないから普通に素敵だと思ったけど、レオは現実主義者だから」
    「当たり前だ、と言うかこの男も女も、どっちもタダの非常識なだけだろ」
    「さっきからこの調子、クリス何か言ってよ」
    「ん〜〜〜、俺はどっちかと言うとレオに賛成かな〜」
    「ええっ、何で!?」

    援護射撃を求めていたウェンディには申し訳ないが、俺の答えはNOだ。背負うものが多くなればなるほど、足元の安定は必要不可欠だと身をもって知っている。そして人間は一人で生きていけるわけではないと言うことも。
    俺がミシェルを、自分の生きる上での唯一無二の支えにしていたように、どちらかの支柱が崩れた時、全ては崩壊に向かってしまう。
    仮にこの王子に何らかのスキルがあったとしても、縁もゆかりもない地では雇う若しくは契約を結ぶ側はメリットとリスクを天秤にかけ、リスクの方が上回ると判断されれば、やはり糧を失い路頭に迷ってしまうのだ。
    この王子の取るべき行動は、何年かけてでも王族を説得し、その女性を正式なプリンセスとして迎えるべきだった。それが、今の俺の考える答えだ。

    「クリスってチャラチャラしてるくせに、何でそんなとこだけ無駄にリアリストなんだか」
    「無駄って何!? 失礼しちゃう!」
    「フィンはどう思う?」
    「お、俺はー……、何か難しくてよくわかんないっつーか、ハハッ……」

    「みなさーん、そろそろ書類を片付け始めないと、終業時間に間に合わなくなりますよ」

    バーナードのじいさんの一声で全員そそくさと持ち場に戻る。
    フィンの言葉の歯切れが悪かったことが少しだけ引っかかったが、他には特に気になる様子もなく、その後はみんな残業をしたくない一心で仕事を片付けにかかった。



    ♡♤♢♧



    初めてフィンを抱いた夜、大切に、壊れ物を扱うようにその身を包むスーツを脱がせていった俺は、一糸纏わぬ姿を見て息を飲んだ。
    誰も触れたことのない無垢な姿を綺麗だと思った以上に、衝撃を受ける光景がそこにあったからだ。
    脇腹や肩、腕や腿に残る深い傷跡。
    こんな稼業だ、かつて♤5との戦いでも傷だらけになっていたし(俺は顔面を潰されたが)、それ以前にも怪我を負うような任務は何度もあったが、これはその時のものとは恐らく違う。
    もっと新しい、最近つけられたものだ、それも一部に至っては一生跡が残るほどの。
    どうしたのかと尋ねる俺に、視線を泳がせ酷く言いづらそうに言葉を濁してから、ただ一言『勲章だ』と笑みを浮かべて答える様子に、本当のことは聞き出せないのだろうと悟った。
    それよりも早く……と、経験もないのに健気に誘う姿に嘘はなく、愛しさに暴走しそうな己を制して大切に抱いた。
    傷にキスを落とし舌を這わせた時、一際甘い声を上げる姿が美しかった。



    ♡♤♢♧



    「クリスー帰るだろー? これからクレイジー8に寄ら……、何してんの?」
    「悪いね、今日は残業、ぜ〜んぜん終わりそうにないからお前は先に帰りな?」

    帰宅準備をしながら呼びかけてきたフィンが、まだ書類を整理している俺を見つけて怪訝な顔をする。
    自分も残って手伝うと言い張るフィンをどうにか宥めすかして、次に抱く約束を耳に吹き込めば、顔を真っ赤にして怒りながら帰って行った。

    入れ替わるように、バーナードのじいさんが紅茶のセットを持って近づいてくる。

    「残業お疲れ様です、皆さんお帰りになられましたよ、店内に残っているのは私だけです」
    「あれ〜〜〜? やっぱりバレてる感じ?」
    「ええ、クリスさんの書類整理はお昼過ぎには既に終えられているご様子でしたので」
    「さっすがだね〜」

    素直に感嘆しながら、意味もなく弄んでいた書類の束を傍に避けると、向かい側から優雅な手つきで紅茶の注がれたカップが差し出された。そのまま俺の対面のソファにじいさんが座る。

    「私にお答えできる範囲でなら、何なりと」

    どうやら俺の話したい内容まで既に見当をつけられているらしい。それならそれで有難いと、俺は真剣な顔でじいさんに向き直った。

    「俺がチームを……、HIGH CARDを裏切っていた間に起こったことを教えて欲しい、全部」





    自分の命を使ってミシェルを救おうとしたことに後悔はない、再び同じ状況に置かれれば、俺はまた同じことを繰り返すのだろうと思う。
    想定外に続くことになった命で、変わらず迎えてくれる仲間たちと共にこの先も生きるのなら、俺は全てを知る必要があると思った。
    勝手なことをしておいて何を今更と思われるかも知れないが……

    分かる範囲でと前置きしながら、じいさんの話は細部に渡った。
    レオが社長である父親の命に背いてまで、HIGH CARDのリーダーとして俺の捜索を強行したこと。
    ヴィジャイが列車事故で行方不明になっていた俺とフィンの身を案じ、エクスハンドの閃光に声を荒げて阻止を訴えていたこと。
    ウェンディがクロンダイクの♢Aと対峙するため、自らラブピを召喚して闘い、あの重傷に至ったことも。

    「私が直接この目で見ていたわけではありませんが、フィンさんの負われた傷は恐らく、クロンダイクの♢A、ニャット・チ・グエンとの戦闘でついたものでしょう、ウェンディさんが駆けつけるよりも前の話です」
    「なんで……、クロンダイクが」
    「彼らは、理由は定かではありませんが、クリスさんに是が非でもエクスハンドを実行させたかったようです。クリスさんを阻止しようとするフィンさんは、彼らにとって障害たり得る存在だったのでしょう」

    俺の前に♢A、そしてバン・クロンダイク本人が加勢するかのようなタイミングで現れたことを考えれば合点が行ったが、それは見方を変えれば比喩でもなんでもなく、あれは俺のために負った傷なのだと言うことになる。最弱の♤2で、最強クラスの♢Aを相手にして……
    フィンが頑なに隠したがっていた理由がわかり、今すぐにでも追いかけて抱きしめたい衝動に駆られた。

    「……それともう一つ、私の口から一言一句全てをお話することも可能ではありますが、どうせなら聴いて頂いた方が良いでしょう」

    情報は財産だから、念の為に保存しておいたものだなどと物騒なことを言いながら、テーブルの上に小型のレコーダーが差し出される。再生ボタンが押されたそれからは、無線通信と思われるバーナードとフィンの声が流れてきた。

    『国王陛下を、フォーランドを敵に回してでもクリスさんを止めに行かれるおつもりですか――』





    フィンの家に向けてライカを走らせる。少しでも気を抜くと暴走してしまいそうな気持ちを抑えてハンドルを握っていた。
    支店を出て駐車場に向かいながらクレイジー8に確認をするも今日は来ていないと言われてしまった。ならば今から車を走らせれば地下鉄で帰るフィンに家の前で追いつけるはずだ。

    俺の能力、カロリーズハイはどんな怪我でも、例え欠損を伴う致命傷で命を落としたとしても綺麗さっぱり治してしまう。
    受けた損傷の数だけ、時には耐えがたいほどの痛みの記憶は確かにあるのに、まるで最初から『なにもなかったかのように』修復してしまう。
    ♧5の居場所を聞き出すために生身で受けた傷も、その後のプレイと共に消え去ってしまった。
    きっとこの先も俺はプレイヤーでいる限り、例えフィンのために傷を負うことがあっても、それを自らの身体に残すことはできないのだろう。
    身体に刻まれた傷を、秘めた宝物のように誇るフィンのことを少し羨ましいと思った。

    俺には背負うものがある。ミシェルのことはこれからも守り続けると誓ったし、それからもう一人、大切な存在ができてしまった。
    フィンにも大切な家族がいる。HIGH CARDとして生きる覚悟を決めた、全ての始まりで原動力だったはずの存在だ。
    国を棄てると静かに答えたフィンの声からは、背負うものなど何もないのだと聴こえてくる気がした。何よりもしなやかで、柔らかい羽根のような、あれは魂の言葉なのだと思った。魂が、俺と共にあらんと願っている。

    今はまだ、俺はそこに追いつけそうにない。

    だから1秒でも長く、側にいたいと思ってしまう。
    名前を呼んで抱きしめて、俺の想いをその身に何度も刻みつけたい。俺がこの身体に残すことができない傷の代わりに、フィンの身に刻まれた痕を愛したいと思った。

    目的地に近づくにつれて、鼓動が高鳴っていくのを感じる。アパートメントの階段の下で、待ち伏せしている俺に気づいたフィンがどんな顔をするのか想像をしながら、ハンドルを握り直すと、煌びやかに暮れゆく街を駆け抜けた。









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