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    S4yanbaltype

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    ガウマさんと飲む暦くんってだけ

    友達「いただきまぁす」
    「いただきますっ」

    気怠げな声で呟いてから、箸を割る。その前でガウマさんがワンカップの蓋を開けた。
    「あっ」
    「零しました?」
    「おうよ!ちくしょー」
    濡れた部分を手で擦るガウマさんを横目に、熱々の麺を啜る。粘っこい油ごと口に含むと、醤油スープの塩辛さが喉まで染みてくるから咀嚼して飲み込む。何百回と食べた味。橋の下で食べたのはこれで3回目とかそんなんだけど。
    ガウマさんはカニカマの包装を剥いて噛み付いた。なんか…それ以外に食べるものないんすか、とも言えないので特になにも言わない。
    吹き抜けてくる冷たい風が心地よいから、それだけで安上がりな食事もちょっとだけ風情があるように感じる。毎日ここで食べているガウマさんがどう思っているかは知らない。
    「寒くね?」
    「え?いや暑いでしょ」
    「そんな格好してるからだろ」
    「そのセリフそのまんま返しますけどね」
    実際、気温的には平均より少し暖かいくらいなのだが。腹を出していればちょっとの風で寒く感じるのも無理はない。そう自分を納得させつつも、毎日働いてそれだけしか食べてないガウマさんの体調が変なんじゃないかという不安は無視しきれない。から、とりあえず、
    「寒いんならこれ食べます?3口くらい食べましたけど」
    「え、いーんか?じゃ貰う、お前がカニ食え」
    「カニって。カニカマでしょうよ」
    食べかけのカップラーメンをそのまま渡した。代わりに、何本ものカニカマを握らされる。せめて、カニカマ以外のおつまみもなんか、ないのか?
    ずるずると勢いよく麺を啜ってがっつくガウマさんを眺めながら、やっぱ腹減ってんじゃん……とどこか安心感を抱く。こんなんでいいんだろうか。せっかくの話し相手にかける思いやりって。

    覚束ないながらも食べていれば夜は深ける。
    「つか、カニカマのカマってなんなんだよ?」
    「えーと、あー、カマボコ…のカマでしょ、たぶん」
    「……カマボコってなんなん?」
    「うそお」
    んで、何故かスマホで『カマボコ なに』で検索して、Wikip●diaの文章を音読するはめになる。その流れで『東海道中膝栗毛』の語感にガウマさんが飛びついて、それの説明もすることになって、そこからだんだんと酔いも合わさってぐちゃぐちゃと脱線して分別のないくだらない話ばっかり。わけのわからないトコでツボったら、もう永遠に笑えてしまうような。
    それがたのしいのって、ガウマさんが俺にとってのトモダチだからなのかな。
    「ひーひっひっひ、はー、ガウマさん、ガウマさぁん」
    「くっくっく、あんだぁ、暦ぃ」
    「おれ、ガウマさんのことぉ、トモダチだと思ってますぅ」
    「にゃーーーにを今更ぁ!おれだって、おれだってだなぁ、暦とはトモダチだぜ、友達友達!くらえ友達キック!」
    「友達を蹴るなああああ」
    この辺になるとだんだんどうでもよくなってくる、体の心配とか、今日はちゃんと歩いて帰れるかとか。大事なことまで忘れてしまうのが、良いのか悪いのか。それも一旦置いといて、このふたりだけの愉快さをもう少し味わっておきたいとなってくる。
    ガウマさんのこと何にも知らないけれど、自分からもっと深く知りたいなんて思わないけれど。でも彼が話すのを聞いているのは楽しいってのは、わがままなんだろうな。
    「あーそう、ちせって、たまにガウマさんに会いに行ってるでしょ」
    「おー、たまにな。あいつホント中学生の感じねーわ、全然同じ歳のやつと喋ってるみてーだもんよ」
    「ちせ頭いいっすからねぇ…昔からなんでもできるんですよ、ピアノとかさぁ」
    「お前はなんか楽器できんの?」
    「かすたねっと」
    「そっかぁ」
    幼稚園児の頃にちょっとやったカスタネットはどうでもいいが。
    「……だから、おれがちせのためにしてやれること、なーんもないんすよねぇ」
    「なんだよ、お前はいつもあいつの側にいてやれてるじゃねーか」
    「ん……」
    「それだけでジューブン、とは言わねーけど……な?ひとりよかふたりのが楽だぜ、色々」
    「………まー、それはたしかに……はーーーーー」
    「どしたぁ?」
    「またガウマさんにいいこと言われたぁ。俺のが年上でしょお」
    「だーかーらっ、俺のはプラス5000歳だっつのよ」
    「うるせーーー!」
    がーっと両手を振り上げ、後ろに倒れ込む。これでは年上どころか駄々をこねる子供だった。最近ようやく、なんだか、自分はもうずいぶん大人だって分かってきたような気がするんだけど。大人になるってなんなんだか?結局よく分からねえや。

    空になったワンカップの瓶を置くと、ガウマさんは立ち上がって、ぐーっと背に手を当てて上体を反らした。自分が寝転がっているからだろうが、ガウマさんはとても大きく見えた。それこそ、ずっと大人のように見えた。
    左手を下に伸ばしてばたばた動かすと、かろうじて一本残っていたカニカマが掴めた。
    「ガウマさん、お腹いっぱいっすか?」
    「んー」
    「俺もう半分しか入らないんで」
    「あー、じゃ食う」
    「ほい」
    俺から受け取った半分カニカマを丸ごと口に含んで、あっという間に飲み込んでしまうのを見て、いや、やっぱ腹一杯じゃねーじゃん!と。俺はもう、カニカマの食べ過ぎで腹一杯というか気持ち悪いくらいだけど。強がりなんだか、無意識なんだか__それは、友達としてどうしてやったらいいのかなんて、ぜんぜん知らない。
    「ガウマさん、俺と飲むの楽しいっすか?」
    「楽しくなかったらこんな遅くまで飲まね〜〜だろぉ」
    「あーーははは」
    意地悪い笑顔で頭をちょいとつつかれ、たのしいならまぁそれでいっか、って。何回も同じ不安を抱いて、安心を得る。俺がやるのは、そのくらいでいいんだって。ガウマさんはほっとかれてもなんとかなるほどきっと強くないけど、でもガウマさんを支えてやれるのは俺じゃないよ。だって俺はガウマさんの友達だし。ガウマさんの恋人とかじゃないし。
    「ま、そろそろ終わるか……おら、立てやコラぁ」
    「ひえー」
    手を掴まれて、立たされる。
    立つと大体同じくらいの目線。優しい風がガウマさんのピンク色の前髪を揺らしていた。
    「………どした?」
    「あーー……」
    大きくも小さくもない、別段大人でも子供でもないガウマさんのサイズ感をぼーっと実感していると怪訝そうに尋ねられたので、わざとらしくジャージの裾をまくった。
    「やっぱ今日暑いっすよ」
    「えーー?まぁ……たしかに?」
    「そうなんすよー。ちゃんと飯食ってくださいね」
    「いや、食ってただろ散々」
    「あ、そっすねぇ………んーじゃ、また午後練で、次あれでしょ。合体練習」
    「おう、そうだな。暗いから気をつけろよー」
    「ういーっす」


    おわり
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