あの地球と同じ、夏の河川敷、入道雲の立ち登る青空の下で瓶を睨みつけている男を見かけ、ナイトは不審に思いながらもそちらに足を向けた。
「何をしている、ガウマ」
「ん?…んだよ、お前かよ」
「俺で悪いか」
道の隅に座り込んでいるガウマの手に握られている瓶は、よく見れば空のラムネ瓶。それに入ったビー玉を甚く真剣な顔でからからと揺らしている姿にはどことなく既視感を覚える。
「蓬から貰ってさあ……コレ全然取れねーの。蓋も開かねーし…」
ガウマの言うコレとはビー玉のことだろう。どうやらこの男は、さっきからずっと瓶の中のビー玉を取り出そうと奮闘しているらしい。ナイトの気の抜けた顔を『そんなことに真剣になっているのか』という呆れと捉えたのか、ガウマは半ばやけくそにブンブンと瓶を振りながら語る。
「……前に、ダイナレックスで宇宙まで行ったことあってよ!その時に見えた地球がすげー綺麗で……それに似てたから!ちょっと欲しいなって思っ……ぐぬぬ……」
「……」
それを聞いて、ナイトの蒼い瞳がしずかに輝いた。
___綺麗な地球に似ていたから、か。
「……それは振っても取れんぞ。元々、蓋の代わりに入れられている物だからな」
「んなっ……」
薄々気づきつつ知らないフリをしていた事実をハッキリと突きつけられ、露骨にショックを受けたガウマが、がっくりと肩を落とした。
「そ…んなはっきり言わんでも……」
腕ちぎれる覚悟で頑張ったんだぜ…とこぼす様子に、暇なのかこいつ?と思いながらナイトは腰の剣に手をかける。
「……少し貸せ」
「…なんだよ?」
不思議な顔をしつつも素直に瓶を渡してくれるのは、無意識に深まった信頼故なのか。
ナイトは平らな地面にそれを置き、少し離れてろ、といったジェスチャーをする。その指示に従ったガウマがあ、まさか…という顔をした直後、
キン!と鋭い金属音が響き、気がついた時には瓶は真っ二つに分断され、中からビー玉が転がり出ていた。
カチャ、と刃が鞘に収まりきる音。
「…………反則だぞお前!!??」
「ルールなどあるものか」
呆気に取られたあと、なんだか悔しくなったのか大声をあげるガウマ。それをさらっと受け流しながらビー玉を拾い上げ、その包帯の巻かれた手に握らせる。
「ほら。やる」
そんなナイトの表情はいつもの仏頂面なのに、なんだか得意げに見えた。
「…やる、ってか、そもそも俺の………あー、うー、……ありがとな!」
釈然としない気持ちを追っ払うような礼を言われると、ナイトは何か返したそうに口を開いたが、特に何も思いつかなかったのか深く頷いた後さっさと歩いて行ってしまった。
一人きりになったガウマが少しべたついたビー玉を空に翳すと、逆さまの雲が青い光りに反射して煌めく。
「やーっぱ綺麗だな〜〜〜…」
その顔が緩んでいたのは、ビー玉に映る空の美しさだけが理由ではなく__否、その蒼さがナイトの瞳にすらよく似ているように思えたからだった。