4「実、これを持って行って」
お社の掃除に行こうとする私を彼女は引き留めた。
なんの変哲もない封筒。
「こうやって、着物の袂に入れて。落としちゃだめよ?」
そういうと、彼女は教えてくれた。
嫁いで来た時から、外部との連絡は殆どできず手紙などは全て内容を確認された。電話もどこで聞かれているか分からないので、家族に元気でいると伝えるので精一杯だった。
そして何より嫁いで来てから5年間懐妊ならず、白い目で見られているのも嫌だった。もとはと言えば帰って来ない旦那が悪い。
彼女は反発心から自由に外部と連絡が取れる方法を考えた。
それがあのお社だった。
自分は常に付き人がいるが、体を半分突っ込んでお社の中を掃除すれば手紙くらいなら着物の襟元や袂に素早く出し入れできる。着物なんて着たくなかったけど役に立つなんて皮肉だ。
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