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    ミカヅキ

    @almendra_XIV

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    ミカヅキ

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    かきかけのテラディオです。ネタバレが有るかも……!内容的には、オーディンとバハムートが戦っている……あたりですね……

    ##テラディオ

    光彩陸離今日も頭上に広がる空は晴天で、透き通るような空には翳りもない。太陽が昇れば浮き上がる雲の形を縁取るように陽光を煌めかせ、その輝きを遮るのも流れ行く綿毛のような雲である。
    美しさはいつまでも変わらず仰ぎ見れば尊さをも感じ、煌めきを宿す陽光が月光に変わる瞬間までも美しい。この青空を翔けるように飛ぶ事がバハムートのドミナントであるディオン・ルサージュの使命でも有り、宿した者の宿命でもある。一介の竜騎士として成熟した今、何よりも槍を武器として跳び上がる事よりも、バハムートとして飛び上がる事の方が多くなりつつ有る。それは自分にとって、どう言う状況に有るのか――これは自分で考えるよりも、テランスの方がよく理解しているのだろう。
    召喚獣と転変できるドミナントは自分自身だが、自分を心配するよりも、愛する父と愛する我が国の無事を優先する。黒い大陸と呼ぶエーテルが枯渇する大地が拡がりつつある今、尊ぶべきなのは父と国に生きる民だ。

    高台に位置するザンブレク皇国が置く拠点に、大きな翼を羽ばたかせながら、我らが主君で有りバハムートのドミナントであるディオン・ルサージュが帰還する。森を切り出したような高原に位置する此処は、戦場となっている荒野を見下ろすように置かれている。バハムートが顕現する際に風が荒れ狂うほど強く吹くために、ディオンは竜騎士が跳び上がりダイブするように崖から飛び降りてバハムートへと転変するのだ。
    テランスは待つ事しか出来ない自分を呪う時間となる彼が顕現する時間が嫌いだった。幼い頃から友人として隣に居た彼がバハムートのドミナントとして空を翔けるようになり幾らも年を重ねたが、月日を重ねる度に心臓を掌で握り潰されるような不安が大きくなっている。崖から飛び降りて稲光のような光と共に、バハムートが空へと駆け上がる。槍を握り空へと飛び立つディオンの姿を見れる事は、確かに心が高鳴るほどの高揚も感じるが――同時に祈る彼へが無事で帰還するようにと言う願いは、日に日に強くなって行く。
    ドミナントはベアラーと言われる"クリスタルが無くとも魔法を使える人間"と、何も変わらない。膨大なエーテルを体内に宿して産まれくる人間をベアラーと呼び、魔法を使えない人間たちが奴隷として彼らの力を利用している。この世界はマザークリスタルと言われる、大地に突き刺さるようにして存在する巨大なテーテルの塊に根付くように国を造った。魔法を使えない人間はクリスタルの側でしか生活が出来ず、クリスタルから遠い地域やクリスタルを持たない国ではベアラーの力を頼りに生きなければならない。
    ドミナントも正に同じだ。ディオンを始め、ドミナントと呼ばれる存在は数人居る。その誰もが戦地へ赴き、戦火に身を晒してエーテルを奪い合う為に戦っている。

    複数の天幕を張る野営地に吹き込むように吹く風が静かになる前に、複数の兵士たちが集まって行く。整えられた黒髪を乱しながらテランスも向かい、空から大地に飛び降りるようにバハムートとからディオン・ルサージュの姿に変わる転変を敬礼しながら見守る。ドミナントが召喚獣に変わる姿も、召喚獣から人間に戻る姿も、何度見ても感嘆するような息を溢してしまう。他の兵士たちは圧倒されるような光景をどう思っているかは分からないが、少なくともこの場所には蔑む人間は居ないだろう。
    各部隊をまとめる部隊長たちがディオンを迎える場にテランスも混じり、愛用しているランスを配下に預け、戦況を教え状況を訊ねて指示を飛ばしながら、天幕のひとつへ向かうまで彼の背中を追う。各部隊長が指示を受けて散り散りになれば自分の出番だ。
    「――テランス」
    「はっ」
    胸の前で両手を交差しながら敬礼をし、テランスはその場から一歩前へ出る。大地に広がる小麦畑のような黄金の穂に似た色合いの瞳を伏せてから、ディオンはテランスの薄い灰青色の瞳を見つめる。夜の帳が夜明けに染まる幕をも思わす瞳をじっと見つめてから、ふと笑顔を溢した。
    「……戻ったぞ、テランス」
    「っ、……はい、殿下。お怪我はありませんか?」
    溢された微笑みは眦が緊張を解くように柔和に細められている。思わず息を呑んだテランスに悪戯が成功した幼子のような笑顔も浮かべて、ディオンは天幕の中に用意された腰掛けに腰を下ろした。配下の兵士から彼が愛用するランスを受け取り、分厚い革で出来た仕切りに立て掛けると、真水の入ったケトルからグラスに水を注ぐ。
    「あまり戦況は芳しく無いが、どうにかドミナントを牽制出来ている。……これからどうなるか」
    ふう、と息を吐いて肩の力を抜くディオンは未だ甲冑の装備を解いていない。今は現在の敵である灰の大陸の覇者、ウォールード王国の国主から与えられた休息時間なのだろう。ギリ……と音が鳴るほど奥歯を噛み締めるテランスに気付き、ディオンは伏せていた顔を上げる。
    「……其方が血気盛んなのは珍しいな」
    目を丸くすると年齢よりも幼く見える彼に分かるように溜息を吐くと、膝を地面に落として籠手に覆われたままの掌を取る。常なら戦況に雷を落とす勢いで怒声をも吐き出すディオンが、今回の状況にこんなにも落ち着いている訳が無い。不思議そうな色を含む彼の瞳を覗き込みながら眉間に皺を寄せると、テランスはそのまま彼の手を引き寄せ、彼の額に自身の額を重ねる。
    「貴方と供に戦えるなら、どれだけ嬉しいか」
    肩を並べて竜騎士となった過去。肩を並べるだけでは守れないと知り、せめて従者にと仄暗さを心に秘めながらディオンの唯一の存在として彼の背中を守る現在。これは自分の弱き心だ。バハムートのドミナントとして宿命を背負い、国や国を生きる民の為に戦場を翔ける最愛の恋人を――どうして自分は、無事を祈りながら待つ事しか出来ないのだろうか。
    「テランス、其方が居なければ、余は……私は、自分さえ守れないのだぞ」
    温かな額が遠ざかって行くと思えば、血の通う柔らかな唇が押し当てられる。自らを嘲笑うように言われた言葉はディオンの弱さを表していて、彼の血の滲む努力さえ讃えられずに"バハムートのドミナント"としてしか見られていない現実が、すぐ傍に在ると言う事を思い知らされてしまった。愛する義父の命で戦地へ赴かされ、生命を削りながら戦うのはディオンと兵士たちだ。そうであっても、彼はきっと、身体が石となり動かなくなる時まで、バハムートのドミナントとして生きるのだろう。
    「……余の傍に居てくれ、テランス。そうで無ければ、余は、もう……」
    息を飲み、言葉を詰まらせたディオンの身体から力が抜け、テランスへと倒れ込むように身体を預ける。
    「殿下!?っ殿下!!ディオン様ッ!!」
    悲鳴のような叫びに天幕の外で控えていた兵士たちが飛び込んで来る。テランスは意識を失ってしまったディオンを抱き抱えるように背中に腕を回し、冷静になれと自身を叱咤した。ドミナントは転変する行為は激しく体力を消耗するらしい。最近は数日に渡り何度も敵国のドミナントと交戦していたため、間違い無く疲弊しているのだろう。青白い顔色のディオンに何故早く気付けなかったのかを悔やむ前に、脈を測り傷を負っていないか調べるべきだ。
    「……ディオン、貴方は何故、いつも抱え込むんだ……」
    兵士たちに簡易的なベッドを天幕内に拵えさせ、薄く寝心地が悪い敷布の上に彼を寝かせるために抱え上げる。せめて呼吸をしやすいようにと背中で編まれた止め紐を解こうと指で摘んだ。すると勢いよく閉じられた瞳が開き、驚いた顔でテランスを見つめて来る。
    「お目覚めですか、殿下」
    怒りと不安を湛えた薄灰青の瞳にディオンの顔が映り込む。何故、自分は抱き抱えられているのだと言い出しそうな表情を浮かべられたが、深く大きな溜息も吐かれ――どうやら状況は理解してくれたようだった。
    「すまない、自分を過信していた」
    恥じるように視線逸らすディオンにテランスは溜息を吐くと、ゆっくりと寝台に腰を下ろさせる。天幕の外が騒がしくなり始めているため、またバハムートの出番が来てしまったのだろう。テランス、と小声で呼ばれ、答えを返すために天幕内に居る兵士たちに気付かれないように唇を重ねる。
    「これが終われば――褒美を」
    好いている者同士、愛し合う者同士としての会話を互いの耳元で交わして行く。テランスの手を取り、ディオンは自身の鳩尾辺りへと導いて行く。無事にこの状況を切り抜けたら、褒美が欲しいと言う囁きにテランスは指先で押し込む事で返事を返す。
    「ん……」
    少し感じ入るような息を溢してから、ディオンはふと息を吐いた。
    「やはり余の相手はお前で無ければならぬ」
    灰の大陸のドミナントばかりの相手では何も満足出来ない。ベッドから腰を上げて立ち上がり、疲労など感じさせないしっかりとした足取りでディオンは天幕の外へと歩いて行く。その背中をテランスがランスを手に持ち追いかけると、谷底に飛び込むための崖の前で歩みを止めた。視界に映る所まで黒く輝く召喚獣の姿が迫っている。
    「テランス」
    名を呼ばれてランスを差し出せば、瞳の奥で燃え盛る炎を忍ばせた瞳で見つめながら彼は頷いた。その瞳に頷けば、黄金の髪が揺れる。天幕の中へと導かれるように吹く風が、ディオン・ルサージュを讃えるようだ。吹く風は跳ね返り、勝利を呼び込むように背中を押す。ぐっと握り締めたランスと供に風を切るように走り、勢いを付けて断崖から飛び降りた。バチバチと火花が散るような稲光とも言える光を発しながら身体は溶けて、大きな存在へと再構築される。意識はもう視界の先で待つ黒い輝きだ。テランスは飛び立つ主君の姿を見送り、即座に始まる攻撃に備えるよう控えていた伝令役の兵士に指示を飛ばす。
    「これが最後になるだろう!撤退も視野に兵糧をまとめておけ!」
    おそらく野営地を狙われる可能性もあると考え、数日前から少しずつ移動を開始していた。天幕はそのままに、中身だけは気付かれないように撤退に近い形で移動している。戦況は五分五分、もう削り合いと言っても等しく、もうドミナント同士との戦いで決着がつく頃合いだろう。
    どうかご無事で――。
    瞳を閉じてテランスは大空を翔けるディオンの無事を祈る。待つ事が自分の役目だと言うのなら、帰るべき場所で待つ事も自分の役目なのだ。

    風を斬る翼が羽ばたく音が聞こえ、稲光のような光の輝きの中から我らが主君が現れた。吹き荒む風はすぐに止み、舞い降りるように大地を踏むと、少し疲労の色を宿しながらも、琥珀のような瞳は燦々と煌めいている。
    「……ディオン様」
    駆け寄る伝令役の兵士に戦況を伝え、自身がバハムートのドミナントとして戦前で戦う事が終わった事も伝える。どうやら敵国のドミナントに強力な一撃を与えた……ように見せかけたらしい。つまり、この勝負はお前にやる、と、言われるように"わざと"攻撃が直撃したように撤退されているのだ。
    「舐められたものだ。確かに、互いの兵力は拮抗していた。だからなんだと言うのだ……」
    天幕に入る前だと言うのに、テランスの肩にディオンは頭を預けて来る。周囲に居た兵士たちは皆、見て見ぬ素振りをしてくれている。確かにディオンを慕う兵士ばかりが身の回りに居るように配置はしているし、彼を崇拝するように崇めてもいる兵士が実際に存在してもいる。だからディオンも分かっているからこそ、天幕と言う鳥籠の外でテランスと言う自分に囚われた小鳥を羽ばたかせたいと想っているのだ。
    ディオンの想いを知っているからこそ、テランスは彼の肩に手を置いて、失礼します、と言う言葉と共に少し塵が混じる小麦の穂のように黄金色をする髪を撫でるように、後頭部に掌を当てて引き寄せる。
    「……殿下の御心のままに。私は何処までもお供します」
    たとえ世界の果てを目指そうとも、何処までも傍に居たい。テランスの心を現す言葉にふっと息を吐いたディオンは、渦巻いていた激情が凪いで行くように感じた。嵐のように吹き荒む風が峠を越したように、灰色の空に射し込む微かな陽光のように、テランスの言葉に救われる。
    「ありがとう、テランス」
    だからあともう少しだけ、縋らせてくれ。
    静かに回された、普段は槍を持つ掌が――甲冑の上から縋るように指先を曲げられる。息を呑んだディオンが少し震える吐息を吐き出して、そのまま深く息を吸い込んだ。テランスはただ肩口に微かに掛かる吐息で彼の感情を知り、何も言わぬままで居てくれている。バハムートのドミナントと言うだけで、感情を持つ人間だ。ほんの数分でも自身の感情に素直になるディオンを誰が弱いと言うのだろう。
    「……帰らなければ、ならないな」
    この戦場での勝負はもう分かっている。ディオンはもう一度大きく息を吸い込むと、伏せていた顔を上げ、テランスの薄灰青の瞳を煌めく黄金色の瞳で見据えた。
    「もう潮時だ。これ以上の長居は必要無い」
    「仰せのままに」


    完全させたい〜〜〜!!!
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