「おい、若頭を運べ」
「はい!」
サングラスのいかつい男に慰められながら、イルマは自室へと向かった。
「オペラ、お前はこっちだ」
「は? お説教ならけっこう……」
「あいつを庇うときに、お前も痛めただろう?」
若頭には聞こえないよう、ひそめられた声に、きゅっと臍を噛む。
「手当てくらいしてやる」
来い、と言われても立ち尽くしていれば、
「なんだ、お前も抱えてほしいのか?」
意地の悪い笑みを向けられ、さっさとその背を追い抜いた。
清潔に整えられた寝台に、上着も脱がず腰を下ろす。
カルエゴは黙って膝をつき、こちらの靴に手をかけた。咄嗟に息を詰めたが、存外、丁寧な手つきで脱がされる。
「腫れているな……いつからだ?」
「それ、言う必要あります?」
「痛いときは痛いと言え。家族にまで痛みを隠すものは死ぬぞ」
素足に冷たい手が触れるのが、心地良い。いたわるように、踵を支える手のひら。厭うことなく床につかれた膝。なぜだか、落ち着かなくさせる。ぼんやりと男の肩のあたりに視線を彷徨わせた。
「今日は静かだな」
「べつに……」
小さなかすれた声が、夜の空気に取り残される。
うつむく頬の線が、いつもは寄せられた眉が、和らいだ気がして、ますます寄る辺のない心地になる。胃の中がざわめく。何かが羽ばたく。鳥か、蝶か、それとも、名もない化け物か。
「まあ、お前を跪かせるのは、悪くない気分ですよ」
ゆっくりとカルエゴの肩に足を乗せる。
視線が真正面からぶつかった。
「いい度胸だ」
足を掴み上げられ、ひっくり返される。煙草と香水の、甘く苦いにおいが、舞い上がった。ずきりと足に痛みが走る。漏れかけた悲鳴を噛み殺せば、視界の端で男が笑うのが見えた。手を伸ばし、その口に噛みつく。