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    JitoOkami

    @JitoOkami

    @JitoOkami
    基本的に成人向け。
    最近はパッチのすけべばかり。
    又は小説や漫画になる前のネタ墓場。
    過去にはエロくないアンダーテールと喪黒さんが少々。

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    JitoOkami

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    ラーヤの旅。残酷な世界で頑張ってます
    https://poipiku.com/31276/8499878.html
    https://poipiku.com/31276/8513256.html
    https://poipiku.com/31276/8519625.html

    背筋を伸ばして④「ヨォーシ! 『パッチ商店 雪原支店』開店だ! ホントここのルート確保できたのは超ありがてえぜ。ロアの原種だの火の花だの地上じゃ絶対手に入らんからな。他にも寒冷地ならではのあれやこれやもヨリドリミドリってな」
     パッチさんの提案で、私達は初めて飛んできた時に見えた棄て置かれた小屋を修繕し、そこを拠点として商売を始めることにした。
     私はその地名を聞いた程度の知識しかなくピンと来なかったけれど、パッチさんのおかげで、この地が『巨人たちの山嶺』と言う場所であることが判明した。
     ここはローデイルと陸で通じているものの、関門に当たる場所が禁域に指定されている上、特殊な昇降機無しでは往来が不可能だったために流通経路の確保が難しかったんだそうだ。
     それを英雄様がユーノ・ホスロー打倒の際に禁域を突破して昇降機を動かしたお陰で、この閉ざされた地が実質開通したというわけだ。
     …そう、そのユーノ・ホスローにまつわる話として後で気付いたけど、その彼がこの小屋の直近の所有者だった。
     だから全く知らない場所という訳ではなく、無意識に私のテレポート先の候補に挙がる程には因縁の地だったというわけだ。
     火山館最大のターゲットが使っていた家に、火山館縁の男と女が住むのは何とも皮肉でグロテスクな巡り合わせだと思った。
    「しかし、パッチさんもここに来るのは初めてだったとは意外でした」
    「俺も褪せ人だから祝福さえありゃ何処だって移動できるんだけどよ。移動するにはソイツの位置を最低限把握しねえとだからさ。ぶっちゃけこんなところ真面目に開拓すんの普通に死ぬし、ダルすぎるんだよな。だからお前が連れてきてくれて良かったぜ」
    「その割には先日ご迷惑を掛けた商人さんの位置、正確に把握してませんでした?」
    「このパッチ様、この世の商売敵は全員把握済みよ。未開の地でも地図にはバッチリ印付けといてんだ」
    「なるほど……」
     …まぁそういう訳で、おそらく他の人達も似たような理由なのだろう。だからこそ、人っ子ひとりいないのだ。
     正直寒いところは苦手だけれど、蛇の弱点を克服する良い機会だと思おう。

     さて、新生活の始まりだ。
     テーブル代わりにする予定の簡素な台の上に当面必要な食器、布、石鹸やらを並べる。
     どうせならベッドもあったら良いとは思うけれど、こんなところにいつまでも住むわけでもないだろうし、ベッドなんか置いたら狭くて大変だ。そんなことよりどんどん片付けていこう。
    「それ何?」
     私が自分の鞄からこっそり取り出したものに、好奇心旺盛なパッチさんが目敏く反応した。
    「大したものではありません」
    「ふぅん?」
     多くは言わずに、パッチさんが作ってくれた棚の奥に黒い瓶を追いやって、手前に備蓄品や食器等を手早く仕舞った。
    「ところで今日は何を?」
    「護身術のレクチャーだ。バリアだのワープだのにばかり頼ってたら慢心するからな。オフェンスもできて損はねえ。どうせ今までそういうの何にもしたことないんだろ?」
     私は素直に頷いた。
    「お前は何が向いてんのかねぇ……筋力なんて無さそうだし、鈍臭いし、あんまり器用そうにも見えねえしな」
    「急に悪口ですか?」
    「適正を見てんの。お前神様だの律だの熱心に考えるタイプ?」
    「いえ、人並みかと」
    「魔術とかに興味は? お勉強は好きか?」
    「少しは。けど、あまり難しいことは…」
    「不思議な事に遭遇したり、見えちゃいけないもの見たり、聞こえちゃいけないもの聞いたりとかは?」
    「滅多に無いですね」
    「こりゃ参った。全方位に才能が無ぇ」
     私の適性とやらを見てたらしい先生が、ガラ悪く座り込んで頭を抱えてしまった。
    「だめ…ですかね。私」
    「鉄火場に向いてねえのは確かだ」
    「でも何か…ダガーの一本くらい持つべきでしょうか?」
    「まぁマジでサバイバルって時には便利だから持っておいてもいいが、人間と取っ組み合って奪われたらいよいよ不利になる。生兵法は得策じゃねえ」
    「じゃあ私に向いている一番の護身術って?」
     私もパッチさんもそれで黙り込んでしまったけど結局、
    「「逃げる?」」
     と、声を揃えて結論が出てしまった。
    「だよな」
    「ですよね……」
     そう言うわけで、この件は保留になった。
     私の護身術はバリアとテレポートを確実に。暇を見て色んな武器に触ってみる。
     当面はこれが目標だ。

     ……けれど、私の心には少し澱が沈んでいた。
     バタバタと始まり、目まぐるしく過ぎゆく新生活は毎日が新鮮で充実している。
     それは本心ではあったけれど、一方で私はどこか苦しい気持ちが拭えなかった。
     パッチさんとの共同生活はキツいことも多いけれど楽しい。だからこそ頭の隅で思ってしまう。
     私は本当に人生を楽しんでいい身分なんだろうかって。
     本当は、早いところ色んなケジメをつけて死に時を見極めるべきなんじゃないのかって。
     生きる理由を自分の胸に一つ一つ積んでいくのと同時に、死んでもいい理由を数えては積んだものを打ち消していくような、どこまでも虚しい気持ちをずっと抱えている。

    『お前は覚悟を履き違えてる』
     仕事でケイリッドのとある場所にどぶさらいに行った日、腐った沼の水でダメになった靴を捨てながら、パッチさんはそう言った。
     これは私が拙いながらパッチさんの仕事を手伝って何度目かの危険な橋を渡った後、とうとう言われた言葉だ。
    『でも私、これでも一生懸命やっているんですよ?』
    『それはわかる。俺が言ってるのは一生懸命の方向性がズレてるって意味だ。覚悟ってのは死ぬ気でやるって意味じゃないんだぜ。死ぬ気でやってたらいつかはマジで死ぬんだよ。帰ったらマブいあの子と結婚しようとか、美味い飯食おうとか、一発ヤ…いや、とにかく、どんな状況でも絶対に生き延びてやるって気持ちが大事でな』
    『パッチさんはそういう時何考えてるんです?』
    『お子様には聞かせらんねえのでヒミツです』
    『おじさんて最低ですね』
    『お前それはいくらなんでも傷つくぞ……』
    『私、お子様なのでオトナの人の話は面白くないんです』

    ──絶対に生き延びてやるって気持ち…か。
     生きる上で大事なことなんだろうということは頭ではわかってるつもりなのに、その時の私にはどうしても響かなかった。

    *

     今日はパッチさんが一人で仕事に出ている。その間、私は一日中お留守番だ。
     そんなこんなで暇なので先日パッチさんが色々持ってきてくれた武器を亜人や蝙蝠を追い払いがてら試してみている。
     溶岩刀、は……。うーん。火山館にいる蛇人達が持てるなら私も持てるかと期待してたけど……あんまりしっくりこないような。普通に持てはするけどコツが要るのか上手く振るえない。あったかいから嫌いじゃないんだけどな。練習したらもうちょっとどうにかできるかな。
     鞭の類は論外だ。パッチさんに綺麗なお手本を見せてもらったけど、自分が使ったら相手じゃなく真っ先に自分に当たりそうって思う。大体「まず基本は遠心力で、ぐるっとする感覚を身体で覚えて、あとは肘でこう、シュッと。な、簡単だろ?」みたいな説明じゃさっぱりだ。一生理解できない。
     やっぱり基本のロングソード? ちょっと慣れたら使えるかな。そんなに重くないし、後でパッチさんに稽古をつけてもらおう。
    「よし。亜人も蝙蝠もみんな追い払ってしまったし。今日はこれでいいか……」
     そう思ったと同時くらいにゾクっと寒気がした。流石に冷えたかな。風邪ひかないうちに小屋に戻らなきゃ。
    「こんにちは」
    「きゃあ!」
     びっくりした!
     後ろから急に声をかけられてひどく驚きながら振り向いたら、放浪騎士特有の鎧を身に付けた男性が立っていた。褪せ人さんだろうか。全然気配を感じなかった。
    「すみません、こんにち……!」
     ──先ほどの悪寒の正体はこれだ。
     優しそうな顔でにこにこしてるけど、身体は血のように赤黒く禍々しいオーラを放っている。
     首に下げてるもの…あれは、排律の指? ということは火山館の……でもこんな人見たことない。一体この人は……。
     そんな悠長な思考が、私の判断を遅らせた。
    「!! がぁ…ぁ、」
     気付けば私の鳩尾に男の拳が入り、胃の中のものをばしゃっと吐いてしまった。更に膝を付き倒れそうになったところで、追撃の蹴りがガラ空きの脇腹に入って吹っ飛ばされ、完全に地面に伏してしまった。
     本当に私、闘いのセンスがない。最低なことに寒さで鈍ってバリアが一呼吸遅れた。痛くて息ができない。武器も全て遠くに蹴り飛ばされてしまったし、逃げようにも術に集中できない…!
    「ぁ……かは、ハァ……ッ、」
    「あぁ、やっぱり。蛇人の姿がチラついているよ。その姿。ヒヒッ…見覚えがあると思った。そうかこんなところで会えるなんて」
     なんてこと。人の姿も碌に保っていられないとは。こんなところもしパッチさんに見られたら、私は……。
    「会いたかったんだずっと。あの時、君が殺してくれって俺にお願いするから、そうしちゃっただろ? 可哀想だなって思ったけど、この世界は死が救済って価値観なんだから仕方ない。でも勿体なかった。君は可愛かったし、殺す前に楽しんでおけばよかったなって。死体は残ったから遊ぼうと思えばできたんだけど、やっぱり死んじゃったら冷たいものね。ヒヒヒヒ……でもよく考えたら蛇は普段も冷たいのかな…ヒ、ヒヒッ……ヒ、あぁでも生きてる君に会えたから確かめられるね。ありがとう。君がこの世界にいてくれてありがとう。嬉しい。だから俺と遊んでくれよ」
     どうやら狂っているらしく、支離滅裂で何を言っているのか全然わからない。でも確実に関わってはいけない人だってことだけはわかる。
     早く、早く逃げなきゃ──、ッッ!!
    「ぁっ!」
    「なんだよ。化け物のくせに抵抗するの? 俺知っちゃったよ。君みたいなヤツは落とし子? 忌み子? はまた別だっけ? 何だっけ? とにかく生まれちゃいけなかった命なんだろ? そんなだから律とやらにも還れなくて無様な死体も残るんじゃないの。汚い犬みたいに」
     今し方踏まれた太腿より、胸に刺さる言葉が痛い。
     化け物。生まれちゃいけなかった。それは本当にその通りだ。忌むべきものという意味では忌み子でも正解だ。私が穢れた落とし子だなんてあなた以上に知ってる……!
     それなのに他人から言われるとこんなに傷付くとは思わなかった。

     ……そうか。だから真の姿をみだりに見せるなと母様は言ったんだ。
     母の喜びという一方で人間の姿に化ける術を幼い頃から必死に習得させようとしたのは、そもそも今日のような日を迎えないためだったんだ。
    「なあ、蛇にも人間の女と同じアレが付いてんだろ? 身体も敏感なんだよな。俺が具合見てやるから変身を解きなよ。恥ずかしがらなくても知った仲じゃないか」
     男が覆い被さって、私を仰向けに向き直らせ、逃げないように体重をかけてきた。
     涙と一緒に身体中の力が抜けていく。私が普段抑えている死への渇望が膨らんでいく。
     生まれちゃいけない命なりに考えて、もう少しだけ生きてみて、なんとか頑張ってみたつもりだけど、世界は律から外れた命にはこんなにも辛くあたる。自分でそんな風に生まれたかった訳でもないのに。
     もういい。
     もういいじゃない。どうにかなったって。
     これが私の死に時なんだ。汚い命には丁度よかった。
     だって私、どうせ元々殺して欲しかったんだし。もう頑張れないから仕方がない。
     タニス様も英雄様もきっと仕方ないって──
    「泣かなくていいよ。優しくしてあげるから早く変身を、」
     その時、疾風が私の上を通り抜けて、私に覆い被さっていた男が奇妙な声を上げながら剥がれ飛んでいった。
     上体を起こして見ると、いつの間にか帰ってきたパッチさんが私の目の前に壁のように立っていた。
     息が上がっている。走ってきてくれたんだ……。
    「パッチ……さん、」
    「黙っていろ」
     そう短く言ったパッチさんからは、感じたことのない物凄い殺気が放たれていた。
     パッチさんは男が体勢を立て直す前に一足飛びで間合いを詰めて、恐ろしい程素早く正確な槍捌きで斬りつけた。あっという間に男の手足から血が噴き出て、雪原に赤い花が四方に咲いた。
     どうやら腱のみを器用に切ったらしく、男は汚い声を出しながら芋虫のように這いずり回っている。
     パッチさんにしては惨いやり方だと思った。
    「た、助けてくれ…。なぁ、ちょっと殴ったりはしたけどアッチは未遂なんだ。あんたのお得意なノーカウントってことにしてくれねえかな。ヒヒッ…もう関わったりしないからさ」
    「へぇ、そうかい。でもあんた、寛大な俺でも水に流せねえデカい地雷踏んじまったよ。だからワンカウント。一発アウトだ。それにな、あんた誰だよ。と言うわけで全然ダメだ。懺悔しろ。そして死ねよ」
     そう言ってパッチさんはその槍で男の心臓ではなく肺の辺りを刺した。男が苦しみながら確実に命が失われていく様子を憎々しげに観察するパッチさんを、私は座り込んだまま震えて黙って眺めた。
    「あの、パッチさん。私……」
    「お前の『覚悟』の根っこが、そこまで後ろ向きなものだったとはな」
     お礼を言おうと立ち上がろうとしたら、男に向けていたものと匹敵するほどの強い怒気を向けられた
    「な、何を……」
    「頑張る、なんて調子の良いこと言いながら死に直面した時の諦めが妙に早い。今に限った話じゃねえ。いざと言う時にただヤケになる悪癖かと思ったが、どうやら一層タチが悪いらしい。自分で死ぬ度胸がねえから、あわよくば誰かが殺してくれないかと待っているだけだったなんてな。それなりの場面で殺されればメンツが立つ。仕方がねえと言い訳が立つ。そんなことを期待していたんじゃねえのか?」
     心を裸にされたようで言葉が出なかった。
     私が黙っていると、パッチさんから歯を食いしばる忌々しげな音がした
    「……くだらねえぜ。そんなクソみてえな覚悟で俺から生きる術を学びてえなんてよく言えたな。とんだ見込み違いだった。学びてえなら教えてやるよ。俺がこの世で最も嫌いな人種はな、自分のために命を賭ける度胸は無ぇ癖に、世界を漫然と恨みながら平気で命を棄てる機会は待てる、お前みたいな人生の無駄遣いをするクソッたれだよ」
     頭が凍えてしまったかのよう。
     否定も肯定もできない。人はあまりにショックを受けるとこうなってしまうんだと、辛うじてそれだけ考えられた。
    「俺とお前はこれっきりだ。家に帰れ。そのツラ、二度と見せるな」
     冷たくそう吐き捨てて、パッチさんは私を見ずに去っていった。
     気付けば雪が降って来た。
     男の死体も消えてしまって、私だけが真っ白な世界に取り残されてしまったかのようだった。
    「……痛い」
     ゆっくりと立ち上がって咳をすると殴られたお腹とか、蹴られたあちこちが痛んだ。内臓や骨に損傷はないが、色んな意味で満身創痍だ。
     ……いくらなんでも、あそこまで生き方を否定しなくたって。あんまりだ。
     大体、あんな状況でもっと頑張ろうなんて思えないじゃない。パッチさんは強い人だから私の気持ちなんてわからないんだ。だからあんなこと言えるんだ。心も身体も恵まれている人は…──
    「……違う…。ばか。ゾラーヤス…」
     パッチさん…今まで見たことないくらい怒っていた。
     いつも飄々としていたからあんなに苛烈な面があることを知らなかった。
    「さっきみたいな状況、前にも見たのかな……。それとも、……」
     パッチさんの過去に何があったかなんて、考えても答えは出ない。
     でも少なくとも、私より沢山のことを見聞きして、体験している。それは確かだ。
     残酷なものを見てきて、経験してきて、それでも手放したくないものがあるから、あれだけ怒るんだ。
     普段どんな事があっても水に流してしまえるような彼が。
    「………っ」
     思わず奥歯が割れそうな程食いしばった。
     私は何処かでまだ、自分が可哀想な小娘だと信じていた。
     そして心の奥底で、私はあの人を見くびっていた。
     あの人の表面上の軽薄な振る舞いにばかり目が行って、その内面に持つ凄まじいまでの生きる意志と不屈の強さを見誤っていた。
     そもそも、こんな残酷な世界で自我と正気を保ったまま好き勝手に生きることが、一体どれだけ困難なことか。
     そんな事に露ほども思い至らなかった。
    「自分が恥ずかしい……」
     私、なんて浅いんだろう。
     タニス様の娘としてはいよいよ失格だ。

    *

    「パッチさん」
     一頻り反省して小屋に戻ると、パッチさんが背を向けた状態でいつもの体制で座って項垂れていた。
    「二度とツラ見せるなって言ったはずだぜ」
    「…パッチさん」
     背中を向けたまま唸るように拒絶の意を示す彼のそばに二歩、三歩とそっと近付く。
     パッチさんはそれ以上、何も言わなかった。やがて触れ合うほどの距離まで近づいても、彼は微動だにしなかった。
    「……パッチさん、ごめんなさい」
     跪き、振り向いてくれない背中に縋った。
     悴んだ身体には熱いと感じるほど温かかった。
    「ごめんなさい」
     私を跳ね除けず、ただそこに留まるばかり。
     私は何故かこの瞬間を恐ろしいものにも、世界一優しいもののようにも感じた。
    「……冷てえよ。さっさと火に当たれ」
     ややあってようやく言ってくれたその言葉に、急に涙が溢れた。
    「ッッ…私、とても怖かったです……。助けてくれて、ありがとうございます」
    「俺がアイツに究極にムカついただけだ。お前のためじゃねえ」
    「それでもです」
    「……痛むか?」
    「もう平気です」
     外気の影響を容易に受ける蛇の肌は服越しでもきっと本当に冷たいだろうに、引き剥がすこともなく私が離れるのを待っていてくれる。
     やがてパッチさんの体温が移ってきて、私の心と身体の強張りがほぐれていくような気がした。
    (……英雄様……)
     性別も性格も生き方もまるで違うのに、こうしていると厳しくて優しいあの人を思い出す。
     英雄様も、パッチさんも、私をただ生かそうとした。
     同情も打算もなく、自分のために命を燃やす生き方を見せてくれた。
    『生まれてきてはいけなかった』
     さっき浴びた無数の針のようなその言葉は未だに胸の奥に刺さっている。
     それがあまりにも痛くて、この先もう二度と私の本当の姿も名前も誰にも知られずに、私が還るだろう無の領域まで持っていこうって、さっきまではそう思った。
     でも今はこの人になら、打ち明けても良いかもしれないって思う。

     ……ううん、ちがうな。私、打ち明けたい。知って欲しい。
     心が痛い今だからこそ、より一層そう思う。
     こんな気持ちは生まれて初めてだ。
    「パッチさん。貴方にお話があります。どうかこちらを…私を見て」

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