カタツムリ 座敷には心地よい沈黙が流れていた。主は無論、常連の関口も当然、そして久しぶりの非番で京極堂を訪れていた木場も、みなじっと静かに座って本を読んでいた。
しかしその静寂はどすどすと響く足音によってあっという間に破壊された。三人の顔が一様に渋くなる。
スパン、と障子が開いて榎木津が現れた。
「なんだお前たち、ここは図書室か!?」
座敷を睥睨して榎木津が喚く。京極堂と関口がちらりと木場を見た。この狂人の相手はすっかり自分に押しつけられている。深々と溜め息をついて罵声のひとつでも浴びせようとした木場は、彼の姿を見て片眉を上げた。
「なんでぇ、礼二郎。そりゃあ」
榎木津は片手に小さな水槽を抱え、別の手には丸めた模造紙を持っていた。嫌な予感しかしないが、榎木津はふふんと得意げに笑った。
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