🐯いい鳴今の日🐰 最近、恋人がキスさせてくれへん。
確かにワイの恋人は恥ずかしがりでアマノジャクなところがある。けど、最近はほんまにひどい。明らかにイヤイヤして逃げんねん。せやから、今日は絶対理由聞いたろおもてこないに天気の良い日やっちゅうのに、自転車にも乗らんとスカシの部屋におるんや。
「なんで最近チューさせてくれへんねん!」
「やっぱりソレか」
「あんな露骨に逃げよって、ワイやなかったら泣いとるで!」
「……だって、お前最近、唇ガサガサだからキスすると痛え」
「なっ……! 男の唇なんかガサガサなモンやろ!」
「俺は、ちゃんと手入れしてる」
なんや、もっと深刻な理由なんかと思ったら唇が痛いから嫌やったんやって。正直拍子抜けや。男の唇なんかガサガサしとるのが普通やろ、って思っとったんやけど、確かにコイツのは違う。女みたいにぷるぷるしとる訳やないけど、めっちゃ柔らかい。それは夏も冬も変わらずに、いつもそうや。
「リップクリームなんか塗れるか。 男らしないわ」
「ふーん……じゃあ、俺とキスできないな」
ニヤニヤしながら自分の柔らかい唇を中指でつついて見せつけてきよる。アカン、こいつこの状況楽しんどるんか。なんや余裕そうな顔して、ワイがムリヤリできん事をいい事に。まぁ、こいつなら無理やりされたとこでワイのこと投げ飛ばすくらいはするかもしれんけど。
「冬の間、キスさせへんつもりか!?」
「今が12月だから……まだまだ乾燥の時期は続くな」
「くそ……わかったわ。 買うてくる」
「あ、待て。 スースーするやつは嫌だ」
「はぁ!? アレ以外に、どれ買えいうねん!」
「あと、クリームつけたからってすぐには柔らかくならねぇから今日はダメだぞ。 ふふ、さぁどうする? なるこ」
「どうしょうもないやんけ」
あー腹立ってきたほんまに……もうエエかな。ガーッと押し倒してグワーっとチュウして、まぁそのあと投げ飛ばされるならそれも本望かもしれへん。それでええか。よし、いったれ、こうなったらいっちょとびきり濃いぃやつかましたろ。……と、決意を固めたところで目の前の恋人が笑った。手に持っているのはなんや、小さい瓶みたいなもんやった。
「ふっ、すげえ顔……ま、いいか。 ちょっと動くなよ……」
「ん!?」
「はい、あと五分の辛抱な」
「なんやコレ」
「動くな。 喋るのもダメだ」
なにかを唇に塗られた。けど、クリームみたいなもんやなかった。クリームやないどころか、むしろザラザラする。なんやこれめっちゃ取りたい。
「シュガースクラブ。 もう少し馴染むまで待て」
「ん〜……」
「すげぇ嫌そうだな。 おもしろ」
「んんー!」
「これ我慢したら、ちゃんとさせてやるよ。 乱暴なのは御免だけどな」
シュガースクラブ、やと。そういえば甘い匂いがする。そんな、女が使うようなモン使っとんのかスカシは。五分って言ったか、長ぁい五分やなぁ。カップラーメンの三分も待ちきれんのに五分とか。
「俺も、昨日シたばっかりだ。 結構イイやつなんだぞ、それ」
「……」
言い方エロいし、絶対わざと言うとる。後でワイの好きなようにさせてもらうし、もう今だけは我慢したる。目ぇ閉じて頭の中でレースのイメトレしとれば五分くらい、なんとかなるやろ。
しばらく悶々とした時間を過ごして体温上がってきたころ、砂糖が溶けてきて、ガサガサした唇がすこしふやけてきた気がする。そう思っとったら、確かめるようにスカシはワイの唇に指を滑らせた。
「うん、そろそろいいな。 じゃあ後は水で流して、仕上げにクリーム塗ったら……」
「ん」
「そしたら……キスして、なるこ」
あとは水で流して……あたりまではちゃんと聞いとったんやけどなぁ。ちゅっ、と音をたてて砂糖のついた指を舐めたのを見た瞬間、あぁコレ、口に入れてもエエんやなって思ったと同時に自分の舌で唇に残った砂糖を舐め取ってから、押し倒して、そのまま噛みつくように唇を貪った。
「んんっ! ん、ちょ、待っ……んん~っ!」
「はぁっ……あっま」
「ん、ん……や、ざらざらする……んぅっ」
「もうええやん、なんでも……」
柔らかい唇をつかまえて、舐めて、吸って、舌いれて、かき回す。噛まれても蹴られてもエエわー思たけど、健気に目ぇ閉じて受けてくれるん、ほんまこういうとこ、ずるいわ。散々舐め回して口吸って、砂糖の味が何もしなくなった頃、やっと開放してやれた。
「ん、ふ……はぁっ……おまえ、ころすきか」
「はぁっ……おまえの肺活量なら、このくらいへーきやろ……」
「久しぶりだったのに、がっつくし」
「スカシがメッチャ煽るからやん」
「ふっ……まぁ、俺のことで必死になるとこ見るのは悪くない」
「お前も、メッチャきもちよさそうな顔しとったで」
やっと普段の会話のテンポが戻ってきた。いつもの感じやとまぁここまでやな、って体をおこそうとしたら、胸ぐらを掴まれた。噛まれも蹴られもせんかったけど、殴られるんか〜と思っとったら、ほっぺ真っ赤にさせながら睨んできよった。なんやそれ、全然こわない。寧ろ、そそるわ。
「そう見えたんなら、もっとしろ」
「どっ……どうしたん!? 珍しいな……何やヘンなもんでも食うたんか!」
「うるせーな、でかい声だすんじゃねーよ。 俺がもっと、って言ってんだから、黙ってもっとすりゃあ……いいんだよ」
「それは、随分可愛いワガママやな」
胸ぐら掴んだ手はそのままワイの頭へ回ったのに、睨みながら喧嘩腰にオネダリするとか意味わからん。でも、それが可愛くてしゃあない。ニヤけてまうわ。
「だって、またいつ元に戻るかわかんねぇだろ。 ガサガサの間はしたくない」
「そないにキスするの、好きやったっけ」
「お前が教えたんだろ。 キ……これは、二人いないとできねぇじゃねぇか」
「ワイ、やっぱリップクリーム買うわ……」
「スースーしないやつな」
「そこ、こだわるんやな」
それから、いままでできなかったぶんを取り返そうと言わんばかりに、何度も何度も口をあわせて舐めあった。その日の帰り道、ちゃんとメンソールが入っとらんリップクリームを買うて、毎日唇が切れない程度にこまめに塗った。男らしない思たけど、またお預けされたら敵わんわ。マメに自分手入れしとる男も、大人っぽくてええやろ。知らんけど。
冬が終わるまで、このリップクリームとことん使ったるから、スカシには覚悟してもらわな。まぁ、アイツの事やから、望むところだ、って笑うんやろうけどな。