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    SmokinEmptyRoom

    絵もたまにかきます

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    SmokinEmptyRoom

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    オメガバ
    ‪α‬夏×β→Ω虎
    呪いのない世界
    冒頭部分の書きたい所だけ

    カフェ・モンタージュ0.イントロダクション

    「いらっしゃいませ!」
    元気な声が、柔らかな朝の光が差し込む店内に響く。隅々まで綺麗に掃除され、パンの焼ける香りとコーヒーの香り漂うそこは、間違いなく気持ちの良い朝を迎えられるだろう。
    「………うーん!今日も俺ひとり!さびしーね!」
    ──とんでもない急勾配の上にさえなければ、の話である。
    少年は今日も、誰も居ない店内に元気よく挨拶をし、自分のために作ったチーズトーストを皿に乗せ、自分のために淹れたコーヒーをカップに注いで朝ご飯を食べる。
    勾配15度。この静かで特に目立ったものがないベッドタウンの数少ない名物である「心臓破りの坂」。その長い長い坂道と階段の頂上──山ではないのだが『頂上』と呼ばれて久しい──に、その喫茶店はある。
    「あー…ちょっと端焦げてんじゃん。これじゃお客さんには出せねーなあ、気ー抜けてら」
    いつお客さん来るか分かんねーんだから、と反省しながら端の焦げをナイフでちょっと削り、ひとり、朝食を食べる。
    「いやでも…こんな坂の上でも気にせず来てくれるよーな、ジョーブで元気な人なんて…ホントにいんのかな…」
    とはいえこの喫茶店を継いで欲しい、というのは亡き祖父からの数少ない頼み事のひとつでもある。簡単に放り出すのも違うというもの。
    「どーしたもんかなあ…」
    コーヒーに沸かしたミルクを注いでカフェラテにしてコクコクと飲みながら、もう何度目になるか分からない悩みに青年はひとり、頭を悩ませていた。


    1.方程式

    これは小学校の保健体育でも習う、本当の本当に基本的なこと。それは、
    ──この世界は、おおまかにふたつとみっつの組み合わせでできている。
    ふたつの方は、男と女。
    みっつのほうは、アルファとオメガ、そしてベータだ。
    だいたいのひとたち…具体的には人口の七割はベータ。あとの三割がアルファやオメガ…と、言われている。
    つまりクラス40人いたら13.4人くらいはアルファかオメガ、学年3クラスあったら1クラス分位の人数がどちらかであるとされているし、そう考えると意外と身近なものなのだ。少なくともそこらのスマホゲーの最高レアや、パチンコの大当たりよりは。
    ただ、アルファ性やオメガ性の目覚めというのは男女のそれと違って小学生の時分にわかりやすく訪れることはまずないので、習った頃は皆そうなんだーすごいねー、もしかして俺ってそうかも?まさかあ、くらいのリアクションだ。
    アルファ性特有のカリスマ性や身体能力、オメガ性から来る体調不良や庇護性などは早くて中学、遅くて高校で表れ始める。
    「ま、俺はベータだったし特になんもなかったな…」
    ただ青年──虎杖はベータの中でも身体能力がひときわ高い方で、学校で突然発情期(ヒート)がおこった同級生を保健室に担ぎこんだりすることもあったし、それにあてられ気の昂ったアルファととっ組み合って頭突きをかまし落ち着かせたりしていた側だった。
    「うーん、基本平和だったし、トキメキとか、恋とかもなんもなかったけど…」
    坂の上でひとり、思う。
    「…」
    ──なんでもアルファとオメガには、番、というモノがあるらしい。
    ──中には『運命』とも呼ばれるような、強烈なものまで。
    「まあ、俺は…フツーの、ただのベータで。こーんな山の上のサ店の跡継ぎだかんなー」
    考えごとヤメヤメ、今日も一日頑張るぞ!と振り切るように独り言を打ち切って。
    青年は今日も、独りきりの朝食を終えた。


    2.ワードローブ

    ──小さい頃から、リレーの選手やクラスのまとめ役ばかりやっている。
    そういう子は学年に一クラス分くらいはいて、その中でもひとりか二人は特に、毎年リレーの選手に選ばれるくらい足が速かったり、皆の憧れになるような子どもがいる。
    夏油と五条は、そのひとりか二人の方──つまり、上位のアルファだった。ガキ大将とも言う。
    高校で初めて顔を合わせたふたりは始めこそ反目しあったもののすぐに打ち解けて、今や唯一無二の親友同士。悩み事もふたりで解決してきた。
    そういうわけで。
    「やっほ〜、今日もモテモテだったな傑クン」
    「気づいてたんなら助けてくれないかい、持つものは分け与えるべきだろう。悟。」
    必修の語学。どうしてこういう講義に限って一限に割り振られているのだろう。夏油はゲッソリした顔で五条の隣に陣取り、朝飯代わりのゼリードリンクを吸う。
    「どーよ、いい子いた」
    「そんな余裕ある訳ないだろ、朝から歩くのも億劫な程群がられて…あしらうだけで精一杯だよ。なんで皆あんなに元気なんだ…」
    「お前と違って髪もメイクもばっちりキメてるかわい子ちゃんたちは朝型人間なんだよ。つかゼリーじゃなくてちゃんとしたもん食えよ、余計辛くね?」
    「いいんだよ、授業終わったら食べるから…。ああ、アルファとかどうでもいいから朝型人間に生まれたかった…」
    「お前ずーっとそれ言ってんな」
    「そういう悟はどうなんだい…君だって同じくらいモテてるだろ」
    「ほら、俺は『すまない、じいやが…』って言えば大抵のやつは下がって、いてて!」
    「この旧家の坊ちゃんが。というかじいやは居ないだろ、君の家ほとんどばあやだろうが!」
    こうやって、授業前にワイワイ言い合うのも日常茶飯事。
    「ほらセンセ来っぞ!俺今日課題やってねーの!せめてキョーカショパラ見くらいさせろって!」
    「自業自得だね、当てられたらその場でやんな。」

    3.Freezing Heart

    「つか飯、どこで食うか決めてんの」
    「いや…まあ適当に、学食の盛り蕎麦辺りで…」
    「お前また蕎麦かよ、好きなのは知ってっけどそのうち体が学食の蕎麦になっちまうぞ?怪奇・前髪蕎麦太郎!たまには別のモン食いに行こーぜ?」
    「外、ね…」
    夏油は確かにモテるが、意外と外歩きや外出が嫌い…有り体に言えばインドア派、さらに言えば引きこもりだった。より正確に言えば、大学に入って引きこもりに『なった』。
    犬も歩けば棒に当たる、とまではいかないものの、夏油も五条もとにかく声をかけられる。高校時代に食事して参考書を買い、軽く散歩でもして帰ろう、くらいだったはずなのに、帰りにはクラス単位の大集団になっていたのを覚えている。
    もちろん夏油も好意とともに声をかけられるのが全て、嫌なわけではない。大学に入るまでは大人数で一緒に遊ぶのも楽しかったし、いい思い出として記憶している。
    ただ、最近…とみに大学に入ってから、明らかに「そういう関係」だったり、「その先」を目的にしているものがいるのに、気づいてしまった。
    ──ああ、この人間共は『夏油傑』ではなく、『上位アルファ個体』としか、興味を持っていないのか。
    ──私の中身などはどうでもいいのだ。私の遺伝子、私の『上位アルファ』というブランドだけが欲しいわけだ。
    夏油が寄ってくる人間を避け、サークルにも入らず、五条とだけ話しているのはそれからである。
    五条は良家の跡取りという所もあり、そういう話は家が厳しく、夏油が出会う前から人間関係に関しては冷めているタイプだ。ただ、それはあくまで五条が選びとった今現在の価値観であって。
    大学に入る前、どんなサークルがあるんだろうか、色んな勉強が出来る、今まで会えなかった人とも交流が出来るだろうね、楽しみだね悟、と笑顔で話していた親友が深窓の御令嬢の如く籠りがちになるのを望んでいた訳では断じてなかった。
    それだけに、確かに自分とは楽しそうにはしているものの、今の夏油はあまりいい方向ではないよな…とも、思っていて。
    「んー…ヒトがいないトコがいいよな」
    「少なくとも人に群がられない所がいいな。なおかつ、…美味しい朝飯がゆっくり食べられる、静かな所」
    そんな都合のいい、楽園みたいな場所なんてないだろう、というような口ぶり。エンセーテキって言うんだっけなーと一般教養の眠たい講義を思い出しながら五条は片っ端から詳しそうな友人や女子や情報通に連絡を飛ばす。
    そうして返事をいくつかピックアップしていくと、
    「…傑、電車ふた駅徒歩五分、坂の上。超ー穴場、客が入っている所を見たことがない。トーストがうまい。」
    「…」
    たっぷり十秒。
    「…、わかった。わかった、行くから。そんな捨てられた犬みたいな顔しないでくれ…」
    パアッと太陽が差したような笑顔に戻り、よし行こうさあ行こう、と親友は今にもスキップしだしそうな軽い足取りで歩き出す。
    「お店、誰から聞いたんだい?」
    「教養のヤガセン。あの人ここの卒業生らしくてさ、この周りのいい感じのお店とかよく知ってんだよ」
    「夜蛾先生と個人的にやり取りしてる君も結構凄いよ…」
    「あ、徒歩五分って書いてあるけど体力使うんだって、お前らなら余裕だろうけど気をつけろってさ。」
    体力を使う徒歩五分、一体どんな所なんだろうか。

    ◇◇ ◇◇

    「徒歩五分は…、改めた方がいいんじゃないか」
    夏油は三回目の苦言を呈した。
    「ま。…俺らなら余裕だけどな」
    五条は三回目の返事を返す。
    「そもそもなんで…こんな、山の上に…」
    「だーから『穴場』なんだろ?…ふ、誰もこんな坂の上にカフェあるなんて知らねーし、知ってても…、ウッてなっちまうよ」
    それはそうだな、夏油は思う。
    駅から下りて改札を出、住宅街のほうに歩いていくと勾配のおかしい坂が見えて。
    「ほら、もー着くぜ」
    「…これで閉まってたりしないだろうな」
    「年中無休、夜20時までだってよ。すげーよな」
    穴場のカフェ、そんなに熱心に誰を待っているのだろうか。
    こういう好事家を待っているのかもしれない。
    「着いたぜ」


    4.あの坂を登れば

    ──夢じゃないかと、思った。

    「………、っ!いらっしゃいませ!」
    思わず、椅子を跳ね上げた。
    自分がこの坂の上のカフェで営業を再開してから一度も来なかったお客さんが、来た。しかも一気にふたり。
    「ふたり」
    「…」
    「ど、どうぞ!お好きな席へ」
    「お冷と、おしぼりです」
    ──いいか悠仁、こんな辺鄙な山のテッペン登って来てくれる人は大なり小なり疲れてんだ。お冷とおしぼりは座って貰ったらすぐ渡せるように準備しとけ。
    祖父から叩き込まれた接客のイロハを思い出しながら、席に着いたふたりへ渡す。
    「ハー…生き返る〜。俺ブレンドコーヒーにしよっかな。傑、お前何にする?朝メシ食うんだろ」
    「…」
    黒髪長髪は黙ってトーストのセットを指した。無口なタイプらしい。
    「はい、お飲み物は」
    コーヒーに指を滑らせる。
    「かしこまりました。ブレンドコーヒーがお一つに、トーストセット、飲み物はホットコーヒー。ただいまご用意いたします!」
    初めてのお客さん相手で間違うことなく復唱に成功し内心でガッツポーズをする。これも毎日孤独にカフェメニューをここで食べていたおかげだ。
    青年は澄ました顔をしているつもりで用意をし始めた。

    ◇◇ ◇◇

    アルファ性の大きな特徴として、【施し欲】と俗称されるものがある。
    プレゼントや金銭、己の労働力、頭脳力など個人によって様々だが、気に入ったものに『おくりもの』をする。これが【施し欲】の正体とされているものだ。
    主にオメガ性…すなわち自らより弱いものへの庇護欲とセットにもなるこれは、自分の力の顕示のみならず、見せつけた力により「自分はこれだけの力でお前たちを守ることが可能なのだ、安心していいぞ」と本能レベルで語りかける。そして同時にライバルであるアルファへの牽制にもなるため、アルファ性は気に入った相手にものや金銭のみならず気持ちや行動諸々をあげたがるのではないか、と研究者は見ている。
    それはオメガ性のネスティング(巣作り)と対になっているのではないか、という専門家の意見や最新研究も出てきてはいるが、バースに関しては未だ不明瞭な点や、『運命の番』を初めとした個々人間での特殊ケースがあまりに多く、遅遅として進んでいないのが現状といった所である。───

    ──毎術新聞 20xx年Xx月yy日「国際バース理解デー制定 自分と友だちを知ろう」

    ◇◇ ◇◇

    店内には、コーヒーの豆を挽く香りとトーストの焼ける香りが広がっていく。
    「………………。」
    「お前高校ん時からドンピシャハマった途端喋らなくなんのマジでどーにかなんねーの?せめて自分の注文くらいはしろよ、怪しい奴じゃん」
    ならない、ありえない、時間をくれ、頭を冷やす。と水を飲む黒髪。即空になり、五条は青年が置いていってくれた水差しで呆れたように親友に追い水する。
    「何、お前好みは割とストレート寄りだったしここんとこ一目惚れとかマジでご無沙汰だったじゃん。突然どーした。」
    「わ……っかんない。」
    まあ俺は久しぶりにそんなおかしくなってるお前見れておもしれーけどさ、と水を飲む。
    「人の恋路をそうやって面白がるのは良くないよ悟、こっちは真剣なんだから」
    「マジでどしたよ、ウケんね〜。つか高二の秋頃にもそんなんなって隣のクラスのコと真剣に付き合って真剣に三日で別れたじゃんお前、忘れてねえかんな俺」
    ポン、と膝を打つ。
    「あー…確か胸のおっきかった、………サトウさん?」
    「そんだけ溜めといて違うとか一流のクズは違うね〜、隣の胸デカいのはサイトウだろうが、サトウは俺が高二の夏にフッたバレー部のスレンダー元気っ子」
    私が言ってんだからサトウさんの方が良いんだもんなどと嘯く最低男を親友は白い目で見る。
    「つーかこんな内容、こんな素敵なカフェで話してていーのか…いきなり出禁にならねえかな…」
    「勧誘やらをしているわけではないし、大丈」
    「お待たせしましたっ!」
    親友は石のように固まった。
    「トーストセットと、ブレンドコーヒーです!」
    ミルクとお砂糖はこちらからどーぞっ!と満面の笑み。
    「………、」
    「あ、あの…?」
    「あーなんだその、コイツ腹が減ってると動けなくなんだよ、低血糖のすげー版みてーなやつ。それに元から無口だからさ、あんま気にしないで」
    さく、さく…と黙りこくって頷きながらトーストをかじる黒髪。
    「」

    ◇◇ ◇◇

    ありがとーございましたーっ!と元気に手を振ってくれる店員に見送られ、ふたりは山を下っていく。
    「悟。私、ここ通うよ…毎日トーストセット食べる…きっと朝型人間になれる…」
    「へーへー。もっといいセット食って貢献しろな」
    「人もいなくていいなここ…」

    ◇◇ ◇◇





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