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    shimotukeno

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    ※※母が曾祖父から聞いたという寝物語をもとに書いたお話を童話として再構成した(ものをさらに日本語訳した)というていの5部のお話 その2 ポルポ編

    ##ジョジョと結晶の王国

    2 ポリープスの試練二 ポリープスの試練

     しばらくたって、ジョジョがブルーノに連れられてやってきたのは、丘の上にあるお城でした。お城と言っても、雪のように白い壁や、とんがり屋根の細長い塔がいくつも空に伸びた、童話のお姫様が暮らしているようなあんな素敵なお城ではありません。うす茶色の石の壁が垂直に切り立った、いわば要塞です。つまり、戦いのために作られた、なんともいかめしいお城なのです。でも、戦いのためのお城として使われていたのももうずうっと昔のことで、今では牢屋として使われています。どっちにしても、おっかないですね。でも、今は牢屋の役目も終えて誰でも遊びに行くことができるようになったそうです。もしナープラを訪ねた際には、是非一番上までのぼってごらんなさい。そこからの景色は、たいそう素晴らしいそうですから。
     さて、お城の前にやってきた二人は、大体のひとがそうするように、切り立った壁を見上げました。ブルーノはお城を指さして、
    「この城の一番奥に、ポリープスがいる」と、言いました。
    「ここは牢屋って聞いていますけれど。ポリープスは本当にここに?」ジョジョは聞きました。
     ポリープスの名前は、ジョジョも知っていました。ナープラの役人代表です。つまり、ブルーノやリュッカたちに命令をする、街でいちばんえらい役人ということです。ですが、ポリープスがこんな牢屋にいることは知りませんでした。
    「そうだ。そのわけは、会ってみればわかる。今からポリープスとの『面接試験』が行われる。お前のことを推薦はしたが、採用するかを決定するのはポリープスだからな。だからこの面接試験がお前の夢の一歩となる。ポリープスは油断のならない男だ。気をつけていってこい」
    「わかりました。ところで、あなたの他にも、精霊を持つ人はいるんですか?」
    「ポリープスに会えばわかるさ」と、意味ありげにブルーノは言いました。
     ジョジョは城の中に入っていきました。中に入ると、役人がポリープスの部屋まで案内してくれました。城の中は薄暗く、無骨な石の廊下が続いています。もうずいぶん階段を下りた後、役人は大きなドアの前で足を止めました。
    「さあ、この奥だ。ここからは一人で行ってこい」
     ジョジョが中に入ると、すぐ目の前は大きなガラスの壁になっていました。ガラスの向こうには別世界のように綺麗な部屋が見えます。壁は真っ白な漆喰で塗られ、豪華な額縁に納められた絵画作品が飾ってあります。高い天井には神々の素晴らしい絵が描かれ、細かく装飾された大きなクローゼットや、金の飾りのついた暖炉もありました。子供が十人も飛び跳ねられそうな、大きな大きなベッドまであります。どうやら、この部屋は王族や貴族といった高貴な人を閉じ込めておく部屋のようでした。
     ですが、肝心のポリープスが見当たりません。ジョジョが部屋の中を見回していると、
    「君がブルーノの言っていたジョルジョーネ君だね?」という声がしました。
     それから、ベッドが動いたかと思うと、大きな大きな影が、ジョジョの視界をおおいました。さっきベッドだと思って見ていたのは、ポリープスの寝転んだ身体だったのです。ポリープスの顔もおなかもまんまるで、大きいタコとそれより二回り小さいタコの頭を雪だるまみたいに積み重ねたような、そんな体型をしていました。走るどころか、歩くのだって苦労しそうな身体です。それと同時に、ジョジョはなぜ、ポリープスがすき好んで牢屋なんかに暮らしているのか納得しました。牢屋は内も外も大変頑丈に出来ていますから、ろくに動けないポリープスにとってこれほど安全な場所はありませんし、欲しいものがあれば、みんな部下の役人に持ってこさせればよいというわけですね。
     ポリープスは大きな身体を傾けて手を伸ばし、クローゼットを開けました。クローゼットの中にはたくさんのものが見えました。バナナやリンゴもあれば、本、オルゴール、それから拳銃もあります。ポリープスは大きな手で何かを取ったようでしたが、それが何かはジョジョにはよく見えませんでした。
    「ではさっそく『面接試験』を始めるとしよう」ポリープスはもったいぶって言いました。「ジョルジョーネ君、人が人をえらぶにあたって、一番大切なことは何だと思う?」
    「何が出来るか、ですか?」
     ジョジョが答えると、ポリープスは肩をすくめました。
    「それも大切なことではあるがね――一番大切なのは『信頼』だよ。これから君が信頼できる人間かどうかを試す『テスト』を行う」
     すると、ポリープスは手に持っていたライターに火をつけ、部屋の隅にある、差し入れ用の小さな窓に置きました。
    「そのライターの炎を消さずに、丸一日持っていてくれたまえ! それが出来たなら、君は信頼に足る人間と言うことが証明される。だが、うっかり吹き消したり、水中に落として消したりしたなら、君は信頼できない! ……ということになる。君が注意深く、努力して炎を守れるか? それを試すための試験ということだ」
    「わかりました」
     ジョジョは小窓からライターを受け取りました。炎は赤く、蛇の舌のようにちらちらと揺らめいています。
    「明日のこの時間にまた会えることを楽しみにしているよ」
     ポリープスは意味ありげな表情を浮かべて言うのでした。
     さて、ジョジョは片手で風から炎をかばうようにして、注意深く家に向かいました。とにもかくにも、この炎を一日守り切ることがジョジョの壮大な夢の第一歩目です。やがてジョジョの部屋のあるアパートメントが見えてきました。しかしあと少しで家に着くという時に、なんと、ジョジョは手元に水をかぶってしまったのです!
    「おう、これはすまんのう! でも、頭にかからなくてよかったよかった」
     物陰から、道に水を撒いていたおじいさんが申し訳なさそうに出てきながら言いました。ああ、手でなくて頭であれば、むしろどれほど良かったことでしょう! ジョジョは恐る恐るライターを見てみると、まことに残念なことに、ライターの炎は消えてしまっていたのでした。
     まずいことになりました。一日どころか、日が沈んでもいません。これでは役人になることはできないでしょう。ジョジョの夢の第一歩は、大きく後退してしまいました。
     そんなジョジョの様子を見たおじいさんは、心配そうにききました。
    「まさか、そのライターを壊してしまったかな? わしに見せておくれ」
     おじいさんはライターを手に取って調べ始めました。そして、ライターの点火ボタンを押すと、小さな柱のような炎が噴き上がりました。ジョジョは目を見張りました。まさか、こんなに簡単に再点火できるとは思っていなかったからです。炎を守らなくっちゃあいけない試練なのに、簡単に再点火できるだなんて、試練の意味がありません。皆さんも、暗記のテストを受ける時に、黒板に答えをみんな書いてくれる先生なんて聞いたことがないでしょう。それと同じことです。
    「いやあ、壊れていないようで、よかったよかった」
     おじいさんはジョジョにライターを返してくれました。ジョジョは「まさか、これは絶対におかしい」とつぶやきながら、ライターを手に取りました。その時です。ジョジョの視界に、黒衣の怪しい影が入り込み、一瞬のうちに消えたかと思うと、おじいさんが苦しげなうめき声をあげました。ジョジョがおじいさんの方に振り返ると、黒衣を着た男――いいえ、それは精霊でした! 精霊がおじいさんから魂を引きずり出し、蛇のように顔の横まで裂けた大きな口を開けています。
    「お前、いったい何をしているんだ!」ジョジョはさけびました。
    「チャンスをやろう……向かうべき、『二つの道』を!」
     精霊はジョジョの声に答えることなく言いました。すると、精霊の口の中で何かがキラリと光りました。矢のようです。そして弓から放たれたかのように、勢いよく、おじいさんの魂を貫いたのです!
    「この魂、選ばれるべき者ではなかった!」
     そう言うと、精霊はおじいさんの魂をゴミ同然に投げ捨て、それと同時におじいさんの肉体は、糸の切れた人形のようにガックリとくずおれました。
    「おじいさん!」
     ジョジョはおじいさんを抱き上げましたが、おじいさんはすでに息絶えていました。
    「お前も再点火したな?」
     精霊はぞっとするような声で言いました。この黒衣の精霊は、ポリープスのものに違いありません。おそらく、『再点火』をしたことで現れたのでしょう。そして、人間の魂を引きずり出し、口から出てきた矢で選別しているに違いありません。刺されて死なない者は、何かに選ばれるのです。でも、何に選ばれるのでしょう? ジョジョがお城に入る前、他にも精霊を持つ人がいるかどうか、ブルーノに聞いたのを覚えている人もいるでしょう。ジョジョも今まさに、そのことを思い出しました。
    「そうか、精霊を持つ者の才能を、あの矢で引き出しているんだ!」
     黒衣の精霊はジョジョの身体を掴もうと手を伸ばしてきましたが、ジョジョはひらりと身をかわします。しかし黒衣の精霊は、ジョジョの影からゴールド・エクスペリエンスを引きずり出したのです。黒衣の精霊の力はとても強く、振りほどくのは困難でした。そして先ほどと同じようにぱかりと大きな口を開け、矢を刺そうとしてきます。もし、既に精霊がいるのに矢を刺されたら――きっと無事ではすまない、ジョジョにはそんな予感がありました。
     精霊が矢を放とうとする瞬間、ジョジョはゴールド・エクスペリエンスで矢じりを掴みました。すると、ゴールド・エクスペリエンスの手が傷つくと同時にジョジョの手にも鋭い痛みが走り、血が吹き出ました。精霊が傷を負うと、その主も同じ傷を負うのです。ともかく掴んだだけでこんなに負傷するのです。まともに刺されたら間違いなく死んでしまうでしょう。ジョジョは覚悟を決めました。
     この黒衣の精霊の主はポリープスです。しかし、ジョジョの夢をはばみ、その上善良で無関係なおじいさんをゴミクズのように殺すような人間なら、容赦できません。ジョジョはゴールド・エクスペリエンスで精霊の顎を力一杯、何発も殴りつけました。これには精霊もかなわず、吹っ飛び――吹っ飛んだ先で、ふっと消えてしまいました。
    「どこに消えたんだ? また、アイツの矢で狙われたら……」
    「見つけたぞ! 何をしているんだ!」
     声がした方を振り向くと同時に、黒衣の精霊が影から襲いかかろうとするのに気がつきました。ジョジョは素早くかわして、精霊から距離を取ります。しかし、黒衣の精霊はジョジョを見つめたまま、ぬぼーっと佇んで、それ以上動こうとはしません。
    「これは、どういうことだ?」
     先ほどの声の主が近づいてきました。彼は昼前に出会った、『コースケ』という名のニポネの観光客です。ジョジョが彼の『忘れ物』をうっぱらったので、怒ってジョジョを探していたのです。実を言うと忘れ物でもなんでもないのですが、まあ、今はその話はよしましょう。なにしろ緊急事態ですから。悠長にそんな話をしている暇はありませんからね。
    「あの精霊に襲われているのか? あそこで倒れているおじいさんは?」コースケはせめたてるようにききました。
    「君にも精霊がいるのか? いや、それより、君の言う通り、あの精霊に襲われているんだ。そしてあのおじいさんは、あの精霊によって殺されてしまった。でも、僕が巻き込んだようなものでもある。とても嫌な気分だ」
     ジョジョは、コースケにこれまでの出来事を話しました。そして、口から出てくる矢のことを話すと、コースケはさっと顔色をかえました。それというのも、コースケは昔、自分の故郷で黒衣の精霊が持つ矢と同じもので精霊を持つようになったからでした。そして彼は、故郷の友人と共にさまざまな精霊と関わったというのですが――彼らの冒険譚はまたどこかでお話しする機会もあるかもしれません――あの黒衣の精霊と似たような精霊の話をコースケはしてくれました。なんでも、主から離れて目的を達成するまで自動的に動きつづけるというのです。しかし、パワーは強い代わりに、単純な、機械的な動きしかできません。一番手っ取り早いのは、精霊の主を倒すことですが、あの牢屋の城の一番奥にいるポリープスをやっつけるのは不可能な話です。ですから、今ここで、あの黒衣の精霊をやっつけるしかありません。
     二人が話している間も、黒衣の精霊は動こうとはしません。そこでジョジョに一つの考えが浮かびました。あの精霊は、『影の中』でした動けないのではないか、と。今はちょうど、ジョジョもコースケもだだっ広い空き地の日なたにいます。死んでしまったおじいさんはあの時日陰にいましたし、さっき刺されそうになったときも日陰でした。光の中に引きずり出せば、日なたの石の上に放り出されたミミズのように弱るに違いありません。
     しかし、弱点がわかったからといってのんびりとはできません。太陽はどんどん傾いていきます。影が伸びればそれだけ黒衣の精霊の活動範囲が広がりますし、夜になってしまったらもう目も当てられません。
    「あそこに誘い込もう」
     ジョジョはモト自動二輪車のことを指さしました。モトの影に誘い込んで、モトを取り除いてしまえば、つまり、影を取り除いてしまえば、黒衣の精霊は日光にさらされるというわけです。二人は一緒に走り出しました。頭上をカラスが鳴きながら飛び交っています。カラスも家に帰る時間になっていました。コースケはふと背後にいるはずの黒衣の精霊を見ました――しかし、すでにいなくなっていたのです!
    「ジョジョ、あの精霊がいないよ!」
     コースケが叫んだとき、ジョジョは近くの街路樹の影を踏んでいました。そして、その影の中から、黒衣の精霊が飛び出て、ゴールド・エクスペリエンスの足首を掴みます。ジョジョはその場に転びました。精霊は、さっき飛んでいたカラスの影に忍び込んで木の影まで移動してきたのです。あとちょっとのところで、文字通り足を取られてしまいました。黒衣の精霊はがっしりと足を掴んで、決して離してくれそうにありません。
    「エコーズ、食らわせろ!」
     コースケの身体から精霊が飛び出すと、黒衣の精霊にパンチを食らわせました。すると、黒衣の精霊の両手が地面に強く叩きつけられます。手を上にあげようともできません。それどころか、石畳に穴が開くほど強い力でどんどん地面にめりこんでいます。
    「僕の精霊は、ものを『重くする』ことができる! これでそいつは、指一本あげられない。そのうち、手をひらかざるをえなくなるぞ!」
     しかし、自動的に動くだけの精霊にも、意地はあるのでしょう。ますます強く足首を握り込んで、ジョジョの足首がミシミシと音を立てています。むしろ、精霊の重くなった手の重さがジョジョの足にもかかっているわけですから、このままでは、足首が粉々になってしまいます。
    『重くする』のを解除しなくては、とコースケが思ったその時でした。
    「コースケ君、解除はしなくていい! この重いのがいいんじゃあないか!」
     そしてバキ! と乾いたものが砕ける音がしました。コースケはしまった! と思いましたが、音は少し遠くから聞こえてきたのだとすぐわかりました。ジョジョの数メートル後ろの松の木が、――今まさに、黒衣の精霊が潜り込んでいる影をつくっている木が――ものすごい勢いで枯れ始めていたのです。
    「君が作ってくれた石畳の穴を掘って、その下にある木の根を叩いたんだよ!」ジョジョは笑顔で言いました。「ゴールド・エクスペリエンスで生命を与え続ければ、その木は成長を続け、今、一生を終える!」
     ジョジョが言い終わるやいなや、枯れきった松の木が砕け散り、黒衣の精霊を強烈な西日が照らし出しました。黒衣の精霊は、ギャーッとしめられた鶏のような声を上げてのたうちまわります。足首を解放されたジョジョは素早く立ち上がり、もがきながらどうにか影の中に逃げようとする黒衣の精霊に追い打ちをかけます。
    「無駄アアーッ!」
     ゴールド・エクスペリエンスの拳によって空中に打ち上げられた黒衣の精霊は、存分に日光浴をするはめになりました。そしてウギャーッとひときわ大きな叫び声を上げると、砂糖のかたまりが砕けるようにして消えてしまいました。
    「しかし、やっつけたはいいものの……無事に役人になれるのだろうか? ポリープスの精霊をやっつけてしまったとすると、ポリープスは……」
     ジョジョがぼやくと、コースケは答えました。
    「ポリープスという男なら、無事だ。ああいう種類の精霊は、一時的にやっつけられても、『攻撃するのをやめた』ってだけで、条件が満たされたら何度でも精霊を出すことが出来るし、主の方は君と戦ったことすらわからないんだ」
    「戦ったことすら?」
    「そう言ってるじゃないか」コースケはすねたように答えました。
     ジョジョはおじいさんのなきがらに近づき、驚いたように見開かれたままの目を閉じてやりました。ポリープスがジョジョたちと戦ったことすらわからない、ということは、この罪もない、無関係なおじいさんをゴミ同然に殺したこともわかっていないのです。これまでポリープスの試験を受けた人は何人、いえ何十人もいるでしょう。その時巻き添えをくらって奪われた命が、このおじいさん一人だけとはとても考えられません。自分達が守るはずの街の人々が何人死のうと、まったく気にもとめず、自分は安全と贅沢をむさぼっている男だと言うことが、これではっきりわかりました。ジョジョの胸に、怒りの炎が燃え上がります。それは、ジョジョの夢をいっそう輝かせる、正義の怒りの炎だったのです。
     翌日、ジョジョは昨日と同じ時間にポリープスの部屋を訪ねました。ポリープスはしっかり灯ったライターを見て、満足げに笑いました。
    「おめでとう! 晴れて君も今日から役人だ。まずはブルーノのもとで、経験をつみたまえ!」
     ポリープスはそういうと、クローゼットを開けて、ワインとグラスを取り出しました。ボトル一本分が軽く入りそうな、ばかに大きいグラスにワインを注ぎながらポリープスはいいました。
    「……と、その前に役人としての心構えを君に伝えておこう。昨日一番大切なことは『信頼』と言ったね? では一番にくむべき事柄は、何かというと、『侮辱』することだ。名誉や信頼を侮辱された人間は、それを晴らすために命をかけるし、殺人だって許されると考える。そのことを忘れないように」
    「よくわかりました。ありがとうございます」
    「さあ、役人の証のバッジを受け取りたまえ」
     ポリープスは小窓にバッジを投げると、ワインを一気にあおりました。ジョジョはバッジを受け取りながら、その視線を、壁の一点――クローゼットに注いでいました。その瞳に燃える炎の色に、ポリープスが気づくことはありません。
     ポリープスがワインを飲み終えた時には、ジョジョの姿はもうありませんでした。ポリープスはほくそ笑みました。そして、ジョジョは精霊使いになったのか、それともバカ正直に一日炎を守ったのかふと考えましたが、ポリープスにとってはどうでもいいことでした。ジョジョのような若くて素直で、何も知らない少年というのは彼にとって都合のいい存在だったのです。真っ白な紙ほど、自分の好きなように書き込めるものですから。
     しかし、何も知らないのは、むしろポリープスの方でした。
     ジョジョが自分に会う前からすでに精霊を使えるということも、ジョジョの精霊と、自分の精霊が戦ったこともしりません。罪のない、無関係なおじいさんを殺したことも知りません。ジョジョの心に、どんなに強い正義の心が燃え立っているかも、どんな輝く夢を秘めているかも、知りません。もっとも憎むべきはずの『侮辱』というおこないを、罪のないおじいさんの『命』に対して行ったことも、この先自分に待ち受ける運命も、何一つ、ポリープスは知りませんでした。
     城から出たジョジョは、冷徹な目で振り返りました。そして、心の中でこのように呟きました。
    「ポリープス、お前は、あのおじいさんの『命』を侮辱した。『侮辱』という行為には、殺人も許される、だって? よくわかったよ。これでお前も、よくわかるだろうさ」
     さっきポリープスがワインを飲んでいる隙に、ゴールド・エクスペリエンスでクローゼットの中の銃を一本のバナナに変えておいたのです。
    「最後の食事、よく味わって食べるといいぜ」
     ――その翌日。ポリープスは、自分の銃を口にくわえて、頭を撃って死んでいるところを発見されました。誰かに銃殺されたと考える者はいませんでした。その銃が誰のものかとか、自分の指で引き金を引いたかとかは、調べればちゃんとわかるものなのですよ。でも、ポリープスがバナナを食べるつもりで銃をくわえたなんてことは、調べたってわかるものじゃありませんけどね。
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