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    shimotukeno

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    童話5部 20 黄金の風(最終回)
    くぅ疲w 曾孫お前……曾孫!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

    ##ジョジョと結晶の王国

    20 黄金の風 思いも寄らない光景に、結晶の間にいた全員があっけにとられます。未来を予知するティラブロスですらも、予想外のことでした。彼には、自分が矢を手にする瞬間までしか見えていなかったのです。
     これから一体何が始まり、どうなるのか――それは誰にも予想できません。
     エンペラー・クリムゾンは、何かに抵抗するようにもがいています。
    「馬鹿な……! 私が矢を手にしたのだ! この私がこの世の頂点なのだ!」エンペラー・クリムゾンは叫びました。「やめろ! お前だって知っているだろう! お前だって散々いい思いをしてきたはずだ!」
    「ふざけるな! 味わわされたのは散々な思いだけだ!」
     ネイサスは吐き捨てるように叫びました。
     ティラブロスに取り憑かれたネイサスは、身体の自由を奪われながらも、十五年間の全てを観測し続けていました。
     王殺しも。悪魔のような結晶を作ったことも。後継者の甥を殺したことも。リベリウスたちに首輪の呪いをかけたことも。殺し、あざむき、もてあそび、穢し、自分のためにいたずらに命や尊厳を費やしたことも。そのうえ、片割れの人格・トレッポに暗示をかけ、悪事の片棒を担がせたことも。
     何よりも耐えがたかったのは、自分の身体で、手で――幸せにするべきだった女性の、――そして自分の――たったひとりの娘を、深く傷つけたことでした。
     エンペラー・クリムゾンの身体が、ネイサスの身体から弾かれて、放たれた矢のように勢いよく飛んでゆきます。これはネイサスに目覚めた精霊の力によるものでした。ネイサスはエンペラー・クリムゾンによく似た見た目の精霊を出すと、その手でブルーノの傷口に触れます。すると、ブルーノは激しく咳き込んで、口から血のかたまりを吐きました。
    「ブルーノ!」
     と、トリシアはうろたえましたが、ブルーノはすっきりとした顔でほほえみ返しました。顔色もとてもよくなって、中毒を起こしていたのがまるで嘘のように元気になりました。
    「トリシア、大丈夫だ。もうなんともなくなった。彼の精霊のおかげだろう」
    「薬の悪い成分を『分離』させたのだ。私はずっとあいつから離れたかった。だからそのような力に目覚めたらしい」
     ネイサスは元の優しそうな顔で言いました。トリシアはなんだか奇妙な感じを覚えながらも、ブルーノを連れてみんなの元に戻りました。
     エンペラー・クリムゾンは、本体もなしに立っています。精霊は精神の力をエネルギー源として動いていますので、その点でいえば、ティラブロスの精神の力は強大でした。なにしろ、二千年もの間棺の中で精神を保ち続けるほどです。ネイサスの身体と引き離されても、せいぜい不便に思う程度のもので、戦いには支障ありませんし、王として活動する時にまた誰かに取り憑けばいいだけです。
     しかし、肉体の有無を遙かに超える大問題がありました。
    『予知』が使えないのです!
     予知の映像を映すあの水晶のレンズは、ネイサスの肉体についていました。先ほど身体から弾き飛ばされたときに、『予知』の能力もエンペラー・クリムゾンから分離させられてしまったのです。
     結局、元のように予知をしながら戦うには、再びネイサスの肉体を手に入れるしかないというわけです。
     しかし、ネイサスの肉体を取り戻す以外にも打開できそうな方法があります。『矢』です。むしろ、改めて矢でエンペラー・クリムゾンを貫けば、予知を失った分を補填して、さらにおつりまでくるでしょう。
     矢は、ネイサスの足元に落ちていました。
     そのことは、ネイサスだけではなく、ブルーノもジョジョも気づいています。これまで以上の妨害と抵抗が待っているでしょう。ですがティラブロスには奥の手がありました。十数年の間、ずっと育ててきた奥の手です。

     ◆   ◆   ◆
     
     ティラブロスが矢を諦めていないだろうことは、ジョジョ達もわかっていました。むしろ、ティラブロスがネイサスの肉体に取り憑いていたおかげで、先ほどの矢はエンペラー・クリムゾンを進化させることがなかったのです。ですが、今は正真正銘エンペラー・クリムゾンのみの状態ですから、矢を使えば今度こそエンペラー・クリムゾンが進化してしまうことは火を見るより明らかです。
     しかし、ティラブロスはなかなか動こうとしません。ジョジョはオランチアとミシェレに目配せをすると、二人の弾丸がティラブロスに吸い込まれるように飛んでゆきます。
     その時でした。
     ティラブロスの背後の壁が、爆発して吹き飛んだのです!
     リル・ボマーやシックス・バレッツも爆発に巻き込まれ、反対側の壁に叩きつけられます。オランチアとミシェレの身にもその衝撃が返って、二人は血を流してひっくり返りました。
     辺り一面、真っ白な煙に包まれます。爆破の衝撃で、壁の結晶が粉々に砕けたのです。
    「みんな、この煙を吸うな!」
     手で口を押さえながらブルーノが叫びました。一方、ネイサスはいち早く矢を拾い白煙の中に身を隠します。この視界では、ティラブロスの方もこちらの動きを把握できません。ネイサスはそのことをよく知っていました。そして、ティラブロスの本当の目的にもすぐに気がつきました。
     また反対側の壁にも穴が空いて、室内を風が通り抜けると、次第に視界が晴れてきました。白煙が、外に吸い出されたのです。硬いはずの結晶は、風に触れるとまるで砂の城のようにさらさらと崩れてゆきます。細かな細かな粉になって、外に飛んでゆきます。
     ジョジョもティラブロスの本当の目的に気がつきました。
    「まさか、煙幕じゃあなく、街中に薬をばらまくために穴をあけたのか!?」

     ◆   ◆   ◆

     日はすっかり傾いて、西空の雲は金糸で縁取られたように、きらきらと輝いています。金色の太陽がトゥルレウムや神殿の白い壁や、穏やかな川面や、街の甍を金色に染めていました。しかし、王都の長い永い一日は、まだ終わりそうにもなく、トゥルレウムを中心にあちこちで剣やピストルの音ががちゃがちゃと響き、街の人々は頑丈な建物に閉じこもるよりほかにありません。
     あの土塊の兵士達は、ついに街の中にも出現しました。ティラブロスはブルーノやジョジョ達と戦っているはずなのに、一体いつ術を使っているのでしょう? 兵士の数は減るどころか、どんどん増えているのです。
     ふと、リベリウスは遠くで何かが爆発する音を聞き、狼のようにするどく振り向きました。
     王宮の塔から、白い煙が上がっています。
    「何だ、あの煙は……」
     なんだかとても嫌な予感がします。すると、ゴブリンが言いました。
    「メーロから伝言です。白い煙は『あの薬』です! 吸ってはいけません!」
    「あの白い煙、全部がかよ!?」アバティーノはあんぐりと口を開けました。
     ゴブリンは葉っぱを分解して即席の防毒マスクに組み替えました。
    「助かったぞ、ゴブリン。ギアシウス、ゴブリンを連れてラジオ放送所に行き、あの煙のことを伝えるんだ」
    「ああ、いいぜ」ギアシウスはいいました。「だがよ――あの薬の煙が原因かはわからねえが、兵士の数がまた増えてきている。俺も急ぐが、戻ってくるまでやられるんじゃあねーぞ」
    「心配はいらない。私たちがそんなヤワじゃあないことはわかっているだろう?」
     リベリウスがマスク越しにニヤリと笑うと、ギアシウスも笑顔で返し、吹雪のように鋭い動きで兵士の間を縫ってゆきました。

     ◆   ◆   ◆

     トゥルレウムの近くにある病院では、入り口を堅く閉ざし、誰もが息をひそめていました。扉のすぐ外では、不気味な古代兵が憲兵達と戦っています。元気な大人は、武器になりそうなものを手にして扉をにらみ付けています。お医者さんや看護師さんは、カビによってできた傷を処置したり、不安で震える患者や子供達をなぐさめ、励まし続けています。お父さんやお母さんは我が子を抱きしめ、年老いた夫婦は互いに肩を抱き、沈黙しています。病の老親の手を握る若者がいれば、自分より小さな子供の手を握る少女もいます。
     殺人カビに続き、今度は不気味な古代兵です。次は火の雨でも降るのでしょうか。一体どうしてこうなってしまったのでしょう? 何もわからないまま、突如として、平穏な日々は奪い去られてしまいました。
    「王様は……王様のお言葉はないのかしら?」おばさんは不安そうにいいました。
    「王様はもう十何年も公の場にお出になっていないからなあ。でも、このようなときくらい……」と、おじさんがいいました。
    「でも、ペリラスさまのところの若いのがラジオで発表してくださってるよ」と、おじいさんがいいました。
    「そうだけれど、それにしても、どうして王様じゃあないんだろうね」おじさんはいいました。
    「王様なんていなくたって」足に包帯を巻いた坊やがいいました。「強くて優しいお兄ちゃん達が助けてくれるよ。さっき僕を助けてくれたみたいに」
     坊やは窓から王宮を見ました。坊やは王宮にブルーノ達がいるだなんてことは知りません。けれど、自然と白い煙の上がる王宮の塔を見ていました。
     人知れず、王都に白い粉の雨が降り注ぎます。

     ◆   ◆   ◆      

    「お前――お前は何がしたいんだ!」
     ブルーノは顔を赤くして叫びました。
     煙は晴れました。部屋を覆っていた結晶は、どんどん削れて小さくなっていきます。白い粉となって、風に乗り、王都中に降り注ぎます。いえ、王都だけでは済まないでしょう。近くの街や村、へたをすればナープラ、いえ、もっと遠くまで飛んで行くことでしょう。
    「なんでこんな薬を作った! 何のために!?」
     別に、ティラブロスの気持ちなんて理解できませんし、したいとも思いません。けれど、叫ばずにはいられませんでした。
     エンペラー・クリムゾン、もといティラブロスは冷たい笑みを浮かべたまま、黙っています。
     すると、部屋全体が細かく振動を始めました。地面全体が揺れているというよりは、部屋だけが揺れています。
    「地震か!?」イルーリヤが言いました。
    「いや、揺れているのはこの結晶です!」フラゴラがいいます。壁の穴から見える建物や木々が揺れている様子はありません。結晶だけが身震いするように震えています。
    「お、お前この手の魔術知ってるんじゃあないのかよ!? なんなんだよこれ! この後どうなるんだ!?」と、イルーリヤが金切り声をあげると、フラゴラは首を振ります。
    「こんな結晶のことなんて、僕だって読んだことありませんよ! いや、もしかすると――」フラゴラは注意深く結晶を観察します。「この結晶、大きくなって……成長している?」
     やがて結晶が大きく震えたかと思うと、下から押し出されるようにしてぐーんと伸び、先ほどよりも大きな結晶になりました。壁に空いた穴から這うように外壁を浸食していき、塔の上部をすっかり覆わんとしています。
    「な、なぜ急に成長を始めたんだ?」ブルーノは困惑しました。
    「せっかくだから教えてやろう、ブルーノ」ティラブロスはいいました。「これは馬鹿どもの苦痛や心の闇を糧に育つのだ。しかし砕いて飲めば、貴様らも知るとおり、天国を味わわせる薬となる。それを下等な民どもに下賜してやっているのだ」
    「ふざけるな!」ブルーノは拳をぎゅっと握って声を震わせました。「その天国とやらの後には苦しみと悲しみを味わうことになるんだ! 悲しみが悲しみを呼ぶんだ!」
    「何がいけない?」ティラブロスは悪びれずにいいました。「一生底辺を這いずるだけのクズどもが、いっとき王様気分を味わえるのだ。我ながら慈悲深いと思うがな」
    「そんな殊勝な理由とはとても思えないな」ジョジョはきっぱりといいました。「この結晶が、人々の苦痛や心の闇の結晶だというのなら、恨みと怒りと昏い復讐心を糧に二千年生き延びたお前の魂とは、さぞかし相性がいいのだろうな。精神の力は大きなエネルギーだ。この結晶も、結局のところは精神エネルギーの結晶なんだろう。この結晶から薬をつくってばらまき、苦しみを回収してまた大きくする。永久機関ってやつかな。自分のためだけに、大勢の無辜の民を利用しているんだ。最初から最後まで、お前は自分一人のことしか考えていない」
     ティラブロスは眉をひそめます。ジョジョの言葉は、ティラブロスにとって愚問もいいところでした。
    「考えてやる価値のあるものなどいないではないか。だがこうして、結果的に幸福を味わえているのだ。それの何が問題なのだ?」
     ジョジョも、ブルーノも、他のみんなも、これ以上会話しても無駄だと思いました。結局のところティラブロスは、何か『理想』や『夢』があって頂点に立ちたいわけではないのです。自分だけに価値があり、頂点の資格があるから頂点に立つのが当然というだけなのです。他の人々を虐げることで自身の地位を確認しているのです。
     結晶は雨後のたけのこのようにニョキニョキと生えてきます。エンペラー・クリムゾンはその結晶に触れると、気持ちよさそうに目を細めます。エンペラー・クリムゾンの身体が真紅に光り、身体の周りには赤い稲妻のような火花がばちばちときらめいています。結晶の持つエネルギーを吸い上げたのです。
    「食らわせろ、ジッパー・マン!」
     ブルーノはジッパー・マンの拳でエンペラー・クリムゾンを力一杯打ちます。エンペラー・クリムゾンは腕で拳を受け止めますが、腕には小さなジッパーしかつきません。普通なら、この強さで拳を打ち込まれたら腕なんて切り離されていたでしょう。結晶から吸い上げたエネルギーによって、攻撃が効きにくくなっているのです。
    「くそ、これでは……!」
    「いいえ、ブルーノ。まったく効いていないわけではありません」
     唇を噛んで悔しがるブルーノに、ジョジョはいいました。
    「あいつはたった一人。僕たち全員で間断なく攻撃すれば、道が開けるはずです」
    「そういうことならよォー、俺に任せとけ!」
     二人の間を、リル・ボマーの銀色の翼が通り抜けていきました。リル・ボマーの機銃が、エンペラー・クリムゾンに銃弾の雨を降らせます。
    「無駄だ! 貴様らの弾なんぞ、豆鉄砲同然よ!」
     オランチアの弾は、エンペラー・クリムゾンの身体を滑るように弾かれていきます。
    「それならこっちだ!」
     今度は、ミシェレのピストルから弾が流星のように飛んでいきます。エンペラー・クリムゾンの足元に着弾すると、すぐさま太い蔓になってエンペラー・クリムゾンに巻き付こうとします。オランチアが銃撃している隙に、ジョジョが弾に生命を与えていたのです。
    「こっちよ!」
     トリシアはスパイシー・レディの力で作った即席のスリングショットで結晶の欠片を撃ち込みます。すでに柔らかくなっている欠片は、エンペラー・クリムゾンの身体に当たると柔らかく伸びて、まとわりつきます。
     ティラブロスの視界で、何かがきらりと光りました。イルーリヤの持つ鏡です。さらに別の方向からは、メーロのゴブリン達の気配があります。
    「無駄だというのが、まだわからないか!」
     ティラブロスは、その時を消し飛ばす能力を発動させました。

     ◆

     ティラブロスは、消し飛ばされた時の中を自由に、悠々と動きながら、他の人たちの動く軌跡を見ることができます。イルーリヤの鏡に映らない場所に移動し、ゴブリン達の射程外に出ることだって、なんてことありません。どんなに連携しようと、エンペラー・クリムゾンがひとたび時を消し飛ばしてしまえば全て無駄になるのです。
     はじめからティラブロスの標的はネイサスただ一人でした。ネイサスの肉体も、肉体にくっついている予知のレンズも、ネイサスが持っているあの矢も奪うことができます。そうなれば、正真正銘、完全なる力を手に入れ、目障りな連中を絶望に叩き込むことができます。
     ネイサスに十分近づいたところで、ティラブロスはニヤリとほくそ笑み、能力を解除します。
     ネイサスの背中から既に『糸』が伸びていることに気がついたのは、解除した瞬間でした。
    「何ッ!?」
     時が再始動すると、ネイサスの身体は後ろに引っ張られ、一瞬にしてエンペラー・クリムゾンの間合いの外に出てしまいます。
     糸の先を見ると、二人の青年が立っていました。塔の上に駆けつけてきたプロシュガードとピスキスです。
     ですが、強く引っ張られた反動で、ネイサスの手から矢がこぼれ落ちてしまいました。矢はそのまま、結晶の床に転がり落ちます。
    「馬鹿め、貰ったぞ!」
    「させないわ!」
     ティラブロスとトリシアが叫ぶのは、ほとんど一緒でした。トリシアも、いえ、他の誰もがティラブロスの狙いがはじめからネイサス一点だということはわかっていました。ティラブロスの能力の恐ろしいところは、時を消し飛ばした後の不意打ちです。間断なく攻撃を浴びせ続けたのは、不自然な時間の跳躍に誰もが気づけるようにするためです。ジョジョもブルーノもティラブロスの方に向かっています。ミシェレも既に弾丸を発射させています。時間が飛んだと認識した瞬間に、すぐさまネイサスの方に動けるよう備えていたのです。
     しかし、エンペラー・クリムゾンの手が一瞬早く矢に伸びます。
    「くそ、間に合え――!」
     ブルーノが唇を噛んだその時でした。
     壁の穴から、強烈な西日が差し込み、トリシアが胸元に飾るペンダント――ベルティナから貰った『証』のペンダントの宝石が、光を乱反射させて小さな太陽のように輝き、エンペラー・クリムゾンの目をくらませます。
     ほんの一瞬――しかし、その一瞬が、ティラブロスの運命を決定づけたのです。
     ティラブロスが目をくらませたその瞬間、床の結晶が弾けるように大きく成長し、矢を高く跳ね上げました。
     ティラブロスは矢を見失い、はっと気がついた時には、ジョジョが矢を手にしていました。
    「ジョジョ、使って! 今が『その時』なんだわ!」トリシアが叫びます。
    「使え、ジョジョ! お前が決めるんだ!」ブルーノも叫びます。
     ティラブロス以外の誰もが同じことを考えていました。矢がジョジョを選んだのだと。
    ジョジョは矢を自分の胸に突き刺します。
     しかし、ジョジョとゴールデン・ウィンドは、胸から血を噴き出させます。矢はカランと乾いた音をたてて床に落ちました。
    「そ……そんな……。どうして……」
     オランチアが絶望しきったうめき声をあげました。
     みんなは言葉も顔色も失ってしまいました。
     ティラブロスはただ一人、大声を上げて笑いました。
    「ジョルジョーネ、この未熟な小僧め。お前は矢に拒絶されたのだ。この矢はやはり私のものだ! とどめだ、食らえ!」
     ティラブロスは、エンペラー・クリムゾンの拳でゴールデン・ウィンドの頭をかち割ると、勝ち誇った顔で宣言しました。
    「帝王はこの私だ! この世の頂点は私ただ一人よ!」
     ですが勝利宣言は早すぎたのです。
     ゴールデン・ウィンドの割られた頭から、何か光るものが覗いています。
     それは、目でした。明け星をいくつも溶かし込んだようにきらきらと光る目です。 
    ジョジョは矢に拒絶されてなどいませんでした。床に落ちた矢はひとりでに動いてゴールデン・ウィンドの手に吸い付き、生き物のように腕を遡っていきます。
    「馬鹿な! 今度こそとどめだ!」
     エンペラー・クリムゾンはゴールデン・ウィンドに一撃を食らわせますが、手応えがありません。ゴールデン・ウィンドは既に抜け殻でした。
     矢を完全に我が物としたゴールデン・ウィンドは、『その先』の姿に羽化したのです。
    「ジョジョは矢に拒絶されてなんかない! それどころか、あの矢は永遠にジョジョのものだわ!」
     トリシアが歓喜に満ちた叫びを上げました。
     そこには、光り輝く黄金の精霊がいました。額には鏃のような模様が浮き出ていて、牡鹿のような角が生えています。神々しさすら覚える姿でした。
    「ば――馬鹿な! こんなもの、真実ではない!」
     ティラブロスが叫ぶやいなや、ゴールデン・ウィンドは素早く動き、拳を繰り出します。しかし、ティラブロスの判断も速いもので、即座に時間を消し飛ばす能力を発動させました。
     ティラブロスは悠々とゴールデン・ウィンドの間合いから離れます。ゴールデン・ウィンドの拳は空しく床を叩きました。その間にティラブロスはジョジョの背後に回って能力を解除します。完全に背後を取りました。
    「フン、我が力の前ではどうってことなかったな!」
     エンペラー・クリムゾンの拳を振り上げると、しかし、その動きを読んでいたポルレルトの精霊、シルバー・チャリオッツの剣に阻まれます。
    「無駄なことを!」
     エンペラー・クリムゾンの拳がポルレルトに向かったその時、またしても部屋が激しく揺れました。ですが、結晶が大きくなるときの震えではありません。結晶を創造したティラブロスすら知らない動きでした。
    「何だ!?」
     床に打ち付けられたゴールデン・ウィンドの拳から、金色の光が波紋のように広がっていきます。やがて、ゴールデン・ウィンドに命を与えられた結晶は枝となり、幹となり、ほのかに薄紅色を含んだ、透き通るような花びらをいっぱいにつけた花樹になりました。
    「僕の狙いははじめからこの結晶だ」
     ジョジョは落ち着き払った表情でいいました。
     部屋の結晶は、すべて美しい花になりました。枝は柳のようにしなやかに揺れ、透明な花びらは、風のまにまに散ってゆきます。ひらひら、はらはらと、春風の妖精のように。
     やがて、階上で大きな鐘の音が響きました。
     結晶によって固定されていた鐘が、再び動き出したのです。

     ◆   ◆   ◆

     王都の人々は、まき散らされた薬のせいでぐったりとしていましたが、鐘の音を聞いてだるい身体を起こしました。鐘の音の意味を知る大人や老人達は、どこか希望を持って塔を見ました。鐘の音を聴いたことのない子供達は、何だろうと思って音のする方を見ました。そして、誰も彼もが感嘆の声を上げ、喜びで手を叩きました。感嘆と喜びの声に気がついて、窓から離れて震えていた人も窓に駆け寄り、また感嘆の声を上げました。若者は病の老親のためにカーテンをいっぱいに開けてやり、自分よりも小さな子供を抱っこして窓の外の景色を見せてあげる少女もいました。喜びが喜びを呼び、美しい波紋のように王都に溢れていきます。
     人々は『黄金の風』を見たのです。
     王宮の塔から舞い散る無数の花びらは、西日に反射して金色に輝きながら空を覆い、通りに吹き渡ります。水晶にそっと薄紅色を差したような美しい花びらが、家々や、道や、公園や、避難する人や、戦う人や、恐怖に震える人の上にやさしくふりかかります。
     うつむき、目を伏せたくなるようなひどい一日でした。ですが、夕暮れ時のそれはそれはすばらしい光景に、みんなが顔を上げました。絶望や嘆きの涙が、『美しいもの』を見た時の、あたたかくやさしい涙に変わりました。恐怖に震えていた人は、美しさに心を震わせました。部屋の隅で肩を寄せ合っていた子供達は、手に手を取って外に出て、降り注ぐ花びらをつかまえようと競うように走り回ります。
     花びらは、ただ美しいだけではありませんでした。
     街で暴れていたあの土人形たちは、花びらに触れるとたちどころに土塊に戻っていきました。あちこちで起きていた火事が、鎮まっていきました。汚れた水は透き通り、踏み散らかされた花々や焼けた木々は蘇りました。薬による症状は消え、土人形に負わされた傷は何もなかったかのように治ってゆきます。ですが、何よりも――人々の心に、希望が生まれたのです。それは、明日への希望でした。よりよい未来を生きるための希望でした。
    「すげえや……」王宮の塔を見ながら、ギアシウスは呟きました。「リベリウス、こいつは……」
    「ああ、あいつらだ」リベリウスはほほえみました。
    「ジョジョめ、やってくれたな」そう言いながらも、アバティーノは嬉しそうに笑いました。
     喜びの波が、希望の輪が王都中に広がっていきます。ラティニア神話において豊穣と恵みをもたらす『黄金の風』が吹き渡り、それを言祝ぐように、鐘が鳴り響いているのですから――

     ◆   ◆   ◆

     さて、塔の上では、ティラブロスが居心地悪そうに街を見下ろしていました。王都に希望と喜びが溢れているのです。無価値な人間達が、まるで自分達の命に希望や価値があるかのように喜んでいるのが気持ち悪くて仕方ありませんでした。そしてそれ以上に、ジョジョが『矢に選ばれた』ことが信じられなかったのです。いえ、許せないといった方が正しいでしょう。
     ジョジョはそんなティラブロスの心を見透かしたようにいいました。
    「僕が矢に選ばれたんじゃあない。仲間や、僕が関わった全ての人々が僕に繋いでくれたんだ。勇気と信頼と友愛――お前が見下して棄て、そして踏みにじってきたすべての心が導いたんだ」
     ティラブロスは、眉をつり上げて答えました。
    「ふん、いい気になって知った風なことをいいおって! 貴様には死んだことを後悔する時間すら与えん!」
     ティラブロスは時間を消し飛ばす能力を発動させます。
     ジョジョのゴールデン・ウィンドの姿が変わったことや、一撃で全ての結晶を花に変えたことには正直驚きましたが、結局はそれだけだとティラブロスは思いました。能力が多少パワーアップしただけでは、エンペラー・クリムゾンには勝てないだろうと、そう踏んでいました。
     しかし、何も起こっていませんでした。
     時間を消し飛ばせていないのです。
    「な、何ッ!?」
     異変に気がついた時には、すでにゴールデン・ウィンドの拳が眼前に迫っていました。
    「無駄ァーッ!」
     痛恨の一撃を食らったエンペラー・クリムゾンの身体は、壁まで吹き飛びました。
     何故かはわかりませんが、時を消し飛ばせない以上、今は非常に分が悪いと判断したティラブロスは、一度撤退して体勢を立て直すことにしました。それは、非常に屈辱的な決断でしたが、一度姿をくらませてしまえば、各個撃破するのは簡単なことです。この屈辱はその時に返せばよいのです。
     しかし、ティラブロスが一歩引いたとき、足元からジッパー・マンの手が現れ、足を掴まれます。
    「お前は――決して逃がさない!」
     怒りのこもった、万力のような力で掴まれて、その場からピクリとも動けません。かつて、――二千年前にも――向けられたことのある、そういう類いの力でした。
     そこに示し合わせたようにジョジョが飛びかかってきて、何発、何十発もの拳を浴びせます。
    「無駄無駄無駄ァーッ!」
     エンペラー・クリムゾンの身体は吹き飛び、壁をぶち破り、塔から飛び出て王宮のそばを流れる川に落ちてゆきました。
    「や、やった! ついにヤツを倒したんだ! ヤツのエンペラー・クリムゾンは、矢で進化したゴールデン・ウィンドの前じゃ無力だった!」
     ミシェレは興奮していいました。
     トリシアとネイサスは壁に空いた穴から、ティラブロスが落ちていった川を見下ろします。川は滔々と流れ、水面は何事もなかったかのように金色に輝いています。
    「あいつはどこかに浮かんできている? それとも消滅したの? 確かめなきゃ!」
    「ヤツはまだ死んではいない!」ネイサスがいいました。「だが、妙な感じだ――」
     
     ◆   ◆   ◆

     さて、ジョジョに吹き飛ばされ、川に落ちたティラブロスはどうなったかといいますと、死んではいませんでした。
     ティラブロスは水の中でほくそえみます。
    「残念だったな! 私は死んではいない! 貴様が吹き飛ばしてくれたおかげで、復讐する道ができたぞ! 全員一人ずつ殺してやる!」
     ティラブロスはエンペラー・クリムゾンの身体を動かし水面に上がろうとしますが、奇妙なことに、どれほど手足を動かしても一向に浮かび上がらないのです。それどころか、無数の冷たい手に掴まれて、底へ底へと引きずり込まれてゆきます。
    「な、なんだ!? どうなっている!?」
     気がつけば、そこは真っ暗な川の中でした。どうみても王都の川ではありません。こんなに昏いはずも、深いはずもありません。底のない、冥界の川でした。
    「くそ、どうにかして上がらなくては!」
     ティラブロスが上を見上げると、水面に光が灯っていました。灯火のような、やわらかな赤い光です。ティラブロスは、無限の闇にたった一つ灯るその光を求めて手を伸ばしますが、手を伸ばせば伸ばすほど、上に行こうとすればするほど光は遠ざかってしまいます。
     やがて、声が聞こえてきました。
    「この光は炉辺の炎。人の歴史のはじめより、人の輪の中心にあったものだ。お前が踏みにじってきたあまたの光だ。なのにどうして今になってほしがるの?」
     哀れみを帯びた女性の声でした。
    「この境界の川をどこまでも沈んでいくがいい。お前はもう、どこへもいけない」
     手を伸ばせど、手を伸ばすほど、光は遠ざかっていきます。ならばと思い、手を下ろせば光は近づいて来ますが、近づいてくると、今度は手を伸ばさずにはいられないのです。光には永遠に届きません。水面には永遠に届きません。
     闇が深ければ深いほど、光を欲してしまいます。欲しがらずにはいられません。やがて、ティラブロスの怒りや憎しみは、どうしようもない寂しさに塗りつぶされていきました。
     哀れな男の亡霊は、小さな光を手に入れられないまま、真っ暗で底のない闇の中へと沈んでゆきました。

     ◆   ◆   ◆

    「オランチア、どう? 反応はない?」
     トリシアの問いに、オランチアは首を振りました。川には、小さな生き物の反応しかありません。
    「大丈夫、トリシア」ジョジョはトリシアにやさしくいいました。「感じるんです。あいつはもう、どこにもいけない。蘇ることも、いえ、怒りや憎しみも持つことすらできなくなったとね」
     すると、ポルレルトが顎をさすりながらいいました。
    「ふむ。ある意味で、ティラブロスの魂を鎮めた、と言えるだろうね。やつの魂を反映した『エンペラー・クリムゾン』の能力すら鎮めてみせたんだからな。ならば、進化した君のゴールデン・ウィンドは、『ゴールデン・ウィンド・レクイエム』と呼ぶことにするのはどうかな? 同じ名前では何かと不便だろう」
    「ゴールデン・ウィンド・レクイエム……。ええ、確かにしっくりきます。ありがとうございます、ポルレルトさん」
     ジョジョはゴールデン・ウィンド・レクイエムを見ていいました。ゴールデン・ウィンド・レクイエムは、超然とした表情でジョジョを見つめ返しました。
    「よーし、トゥルレウムにいるアバティーノ達のところに帰ろうぜ!」と、ミシェレがいいました。
    「そうだな。リベリウス達に、俺たちの口から報告してやらなくちゃな」プロシュガードが言いました。
    「それなら、みんな亀の中に入るといいぜ」
     と、メーロが亀から出て言いました。安全な亀の中とは言え、三カ所の状況を把握し、ゴブリン達に指示をし続けていたせいで、メーロは心なしかげっそりとしていました。
    「亀をゴブリンに持たせて、トゥルレウムまでひとっ飛びすればいいんだからさ」
     ブルーノたちにとってはたった数日間の――しかし激動の旅の末に。リベリウスたちにとっては数年越しの屈辱の果てに。今ここに、全員の力でティラブロスを打ち倒したのです。彼らがどれほどの高揚感と安堵感を感じたかといえば、私には表現しきれないほどです。
    「やりましたな」ポルレルトは、ネイサスにいいました。ネイサスは、若者達の輪から離れて、どこかしんみりとした表情をしていました。
    「ええ。……ですが、全ての発端は私です。私があの墓を開けなければ……。どのような罰でも受ける覚悟です」
    「何をおっしゃるか。あの墓は、いずれ誰かが見つけていたでしょう。アイツはいつか蘇る運命だった。ですが、今こうして打ち倒したのです。あなたを含めた全員の力でね。あなたは、あなたの人生を取り戻されるといい。そうすべきだ」
    「私の人生か……」
     ネイサスは、トリシアの横顔を見つめました。
     さて、みんなが喜びをわかちあっている時に、オランチアはためらいがちに手を上げていいました。
    「あ、あのさあ……俺ちょっと思ったんだけど。一応アイツが王様だったわけだけど……次の王様って、どうなるの?」
    「ああ、それなんだがな――」
     ブルーノがいいました。


     ◆   ◆   ◆


     その日、ブルーノたちは一ヶ月ぶりにナープラの街に帰ってきました。ティラブロスを倒してからというもの、王都でやることが山ほどあったのです。
     久しぶりのナープラの街は見違えるように活気づいていました。
     偽物の王に代わって即位した新しい若い王様は、戴冠式を済ませるとすぐに若者の『病気』を治す医者を派遣し、腐敗役人たちを一掃し、貧しい人には安心して暮らせる家や、真っ当な仕事を与えると発表しました。
     子供や若者はあの奇妙な『病気』から救われます。それはつまり、『未来』が救われるということです。それにもう役人に賄賂を渡したり、したくもない悪いことをしたりして、心をすり減らす必要もなくなったのです。一生懸命に働き、人に優しくしていればよりよい明日が訪れるのだと誰もが明るく受け止めました。
     宝箱のように美しいナープラの街は、希望という光を得て、本来の輝きを取り戻しはじめていたのです。
     ブルーノは街の高台からラピスラズリのように真っ青な海を眺めます。初夏の日差しに照らされて、揺れる水面や、行き来する白い小舟がきらきらと輝いています。緑色の風が髪を撫で、ブルーノは背後を振り返りました。
    「一国の王様が、供もつけずにこんなところをほっつき歩いていていいのか?」
     と、ブルーノは笑っていいました。
    「あなたこそ。あなたに何かあったら、僕もみんなも困ってしまいます。でも、この街ではきっと心配いらないでしょうね」
     と、ジョジョがいいました。ジョジョは植物の刺繍が入った上等なウエストコートを着て、肩にはジャケットを引っかけています。すっかり見違えるような、高貴な出で立ちでした。
    「お前と初めて会ったとき」ブルーノは言いました。「この丘でお前の夢と覚悟を聞き、俺はすっかりその気になったものだが、まさかこんなに早く叶えるとは思ってもみなかったな。お前に出会えてよかった。お前に出会えなかったら、俺の心はきっと死んでいただろう」
    「僕の方こそ、あの時ブルーノに会えてよかったと心から思っています。でも、僕の夢は始まったばかりですよ」
    「ああ、そうだとも。この街の――いや、この国の人々みんなが、黄金のような夢を抱けるようにしなくてはな」
     そこへ、オランチアのリル・ボマーが羽ばたきながら飛んできました。続いて、バタバタという数人の足音が近づいてくるのが聞こえてきました。
    「おや、はやくも見つかったようだな」ブルーノがいいました。
    「せっかくです。一緒に怒られてくれませんか?」
     ジョジョがおどけて言うと、ブルーノは肩をすくめ、それから、海風のような爽やかな声で笑いました。
    「よし、ならば一緒に行こうか」
     

     ◆   ◆   ◆

     さて、みんなはあの後どうしたのか、みなさんも気になるところでしょうから、ここに簡潔に書き記しておきます。
     ジョジョは彼の抱いた夢の通り王様になり、亡きペリラスの同僚の補佐を受けながら、よい政治をしました。平民出身の王様は、ラティニア中興の祖として、歴代の偉大な王の中にその名を連ねました。
     ブルーノは、ジョジョを助けながらも、彼自身の希望でナープラやその周辺地域の長官を続け、その優しい人柄で慕われました。彼がいよいよ王都に向かうとなったときには、彼を慕う人々で駅が埋め尽くされてしまうほどでした。
     アバティーノは今までと変わらず、ブルーノを補佐し、特にラティニアで起こった事件や事故の解明で大きな功績を挙げました。ちなみに、ジョジョにおしっこを飲ませようとしたことについては、一度も謝らなかったようです。
     ミシェレはジョジョのそばにいることにしました。ミシェレとジョジョの相性の良さは折り紙付きですし、ジョジョのそばで彼を護衛する人が必要だったのです。けれど、一人で街をぶらつく姿がたびたび目撃されたそうです。
     オランチアは父親と和解して、しばらくの間、ナープラの学校に通い直すことになりました。年下の同級生と机を並べること二年、ついに三桁かける二桁のかけ算を完璧に習得し、ブルーノの元に凱旋しました。
     フラゴラは、ジョジョとブルーノの間を行き来して二人をよく助け、優秀な補佐官として名を上げました。しかし数年後、フラゴラは三カ所を行き来することになりました。なぜって、さる年上の女性と結婚したからです。
     トリシアは、ネイサスと共にかつてお母さんと住んでいた家に戻りました。大学に入り、上級役人――にはならず、おしゃれで、動きやすい服をたくさんつくりました。トリシアが作った服は、百貨店の一番よい場所で売られるようになりました。
     ネイサスは精霊の力を使って、薬の後遺症や病気に苦しむ人々を救いました。けれどネイサスの仕事で最も評判を呼んだのは、汚れやサビをきれいさっぱり落とすことでした。
     リベリウスは故郷シセルリア島を治めることになりました。遠くの島に行くというのでチームの解散を宣言しましたが、うまくいきませんでした。みんなリベリウスをリーダーとして慕っていたので、ついていきたがったのです。リベリウスは小さな畑つきの家を買い、そこでレモンを育てました。
     ホルマティウスはシセルリア島で猫を飼い始めました。けれど、何が猫の気に食わないのか、毎日引っかかれてばかりで生傷が絶えませんでした。でも、なぜか幸せそうにしていました。
     イルーリヤは、ミラー・マンの能力を求められて、シセルリア島だけではなく、ナープラやロマティヌスでも引っ張りだこでした。でも、満更でもない顔をしていたようです。数年後、年下の青年と結婚して、女の赤ちゃんを産みました。
     プロシュガードはリベリウスのよき右腕として共に働きながら、ピスキスを一人前の役人に育て上げました。特にモデルになったことはないのですが、シセルリア島で作られた彫像や絵画が、一時期プロシュガードそっくりなもので溢れたそうです。
     ピスキスはプロシュガードのもとで役人としての経験を積みながら、休みの日には海釣りに精を出しました。やがて名うての釣り人として名を馳せました。
     メーロはゴブリン達と共に様々な便利な道具や機械を作ったのはいいのですが、どれもこれも当時の技術レベルを逸脱していました。故障したときに修理できる人がメーロしかいなかったので、彼はたいそう苦労したようです。でも、ラティニアの工業のレベルがちょっぴり上がりました。
     ギアシウスはリベリウスと共に働く傍ら、スケートの技術を磨きました。すると、スケート競技の関係者に気に入られ、あれよあれよという間に大会で優勝しました。ギアシウスが競技を引退するまで、彼の記録は誰にも破られることはありませんでした。
     ポルレルトは故郷フラリアに帰り、研究生活に戻りました。ティラブロスとの戦いを経てかつての感覚を取り戻した彼は、昔のように遺跡という遺跡を飛び回っていたそうです。
     ティシアスとスカルピアスは、ペリラスの後を継いで執政官を務めました。王都を救った二人は、ずっと王都の人々の英雄でした。
     飛行船の船長と副船長には、ジョジョから新しい飛行船が贈られました。二人はその飛行船に、亡くなった同僚たちの名前をつけました。その飛行船は、退役するまで一度も事故を起こすことがなかったそうです。
     さて、彼らについて語るのはこれくらいにしておきましょう。とにもかくにも、彼らはそれぞれの道を歩み出したので、とても書ききることはできません。ただ一つ共通したことといえば、彼らの炉辺にはあたたかな火が絶えることがなかったということです。
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