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    shimotukeno

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    ※母が曾祖父から聞いたという寝物語をもとに書いたお話を童話として再構成した(ものをさらに日本語訳した)というていの五部のお話  8 ベイビィ編

    ##ジョジョと結晶の王国

    8 ばらしてくみたて ブルーノたちは、食堂車で倒れていたミシェレと合流すると足早に線路から離れ、街道に出て、食堂車で放置されていたミシェレはしばらくブー垂れていましたが、それより深刻だったのはブルーノとトリシアでした。トリシアはブルーノが何も話してくれないので大変な不機嫌でした。ミシェレのようにぶーぶー言うならずいぶんマシで、黙りこくったまま、明らかにブルーノから目をそらしてじっと座っているのです。何か声をかけようにも、どこに爆弾のスイッチが埋まっているのかわかりません。ブルーノもブルーノで、トリシアに何か声をかけるでもなく黙ったままです。まるで、家庭内で互いに互いを無視している、『離婚していないだけ』の夫婦のような、そしてそんな夫婦となぜか同席しているような気まずい雰囲気でした。例えの意味ががよく分からない方は、そのままで結構です。周囲の大人の方にきくのは、あまりおすすめしませんからね。
     ともかく、亀の部屋の空気は妙にひりついていたので、フラゴラも、アバティーノも、何も起こらないことを祈りながら遠巻きに見守っていました。
     先ほどの戦いのせいで鉄道を使うのは難しくなってしまいましたので、一行は駅馬車や荷運びのオートモービル(トレーラ)で地道にウェネトゥスに向かうことにしました。ナープラのような大きな街ではオートモービルが走るようになりましたが、大きな街と街の間や、当分鉄道が通りそうにない地域では、馬車を使う人が多かったのです。幸運にも、ミシェレが北に向かう商人のトレーラを見つけてくれたので、一行は荷台にこっそりと亀をしのばせました。
    「ところで」と、ジョジョが切り出しました。
    「今まで戦った敵の目的を知りたいと思うんです」
    「何言いだすかと思えば。そりゃ、王様に反乱を起こして、自分たちがなりかわるためだろう?」アバティーノが呆れた様子で言いました。
    「イタチや、ネコや、子猿が、ですか?」
     ジョジョが言うと、亀の部屋は水を打ったように静かになりました。
     言われてみればおかしなことです。イタチや、ネコや、子猿が人間と同じように喋ると言うへんな状態に、みんなすっかり慣れてきてしまっていましたが、そもそも動物が役人だなんて、ブルーノすら聞いたことのない話でした。
    「彼らはただの喋れるだけの動物とは思えません。頭もすごくいい。そんな彼らが、動物が王様になれると思ってるんでしょうか」
    「人間様がえらそうにふんぞりかえってるから、頭のいい精霊使いの動物さんが反乱してるとかじゃあねーの?」ミシェレが気のない様子で言いました。
    「人間全体に対する反乱であれば、まず身近なところから始めそうなものです。農民たちが飼っている動物や、荷運びをする馬たちを一斉に逃してしまうとかでも人間は大損害です」
    「ジョジョ、何が言いたいんだ?」フラゴラがおそるおそる聞きました。そう聞きながらも、賢いフラゴラは、ジョジョの言わんとすることをほとんど察しているのでした。
    「僕は、王様から聞かせられた彼らの目的は、半分『まちがい』なんじゃあないかと思っています」
     ジョジョの言葉に、みんなは息をのみました。そして、慌ててあたりを見渡します。王様に間違いがあるなんて、堂々と言ったところを聞かれたら、逮捕されてしまいます。
    「ジョジョ、お前は新人だから知らないかもしれないが、そういうことはあまり言わない方がいいよ」
    フラゴラは言いました。
    「ごめんなさい。でも、王様も人間です。『そう思い込まされる』こともあるんじゃあないかと思って。彼らの目的が王様を倒すことで、そのためにトリシアを手に入れようとしているのは間違いないでしょう。問題はその後です。王様を倒すと、彼らは何かを得られるのではないでしょうか。彼らが王様を倒した先に、何か最終的な目的があるような気がするんです」
    「確かに、戦うからには奴らのことを知っておく必要もあるな。そういえば、名誉とか誇りとか言ってたが、それが関係あるんだろうか?」ブルーノがポツリと言いました。
    「そんじゃあ、やっぱり王様になりたいんだよ! 王様になること以上の名誉ってある?」オランチアは言いました。
    「その話は終わったろ。それより、あいつらの後ろに、王様になりたい別の誰かがいるんじゃあないかな。そいつに、『俺が王様になったら、お前らを貴族にして、名前を歴史書に刻んでやるぞ!』とか言われたんだよ」と、ミシェレはまるっきり思いつきで口走りましたが、みんなはおお、と息をつきました。これまで出てきた中では一番説得力があります。ミシェレは照れくさそうに頬をかきました。
     いきなり、亀の外が騒がしくなりました。何事かと思えば、荷台のガチョウたちが騒いでいるのです。亀の存在に気がついたのかもしれません。
     トレーラが止まり、外から人が近づいてくる気配がしました。荷台を確かめにくるつもりのようです。
    「おい、まずいんじゃあねえか」アバティーノが言いました。
     外から声がします。運転手のようでした。運転手は荷台に乗り込んだ泥棒がいないか確認しにきたのです。泥棒はいませんでしたが、運転手は見覚えのない生き物に気がつきました。
    「おや? こんなところに亀がいるぞ? 変な亀だなあ、甲羅に、宝石のついた鍵みたいなのがはまっている。しかも、宝石の中に妙なものが見えるような……」
     みんなは顔を見合わせます。すると、ミシェレが天井に向かって拳を突き上げました。
    「うげ!」
     亀の中から拳だけを出したミシェレが運転手の顎を思いっきり打ったので、運転手は目を回して倒れてしまいました。
     ですが、一難去ってまた一難というかなんというか、せっかく拾ったトレーラが使えなくなってしまったのです。
     六人はすっかり暗くなった街道を、亀を持ってかわるがわる歩くことにしました。この調子ではウェネトゥスまで何日かかるかわかったものじゃありません。鉄道が使えないというのは、なかなか大変なものですねえ。
     すると、少し先に停車場がありました。オートモービルが何十台と置いてあります。このあたりはひと昔前まで、ロマティヌスに向かう駅馬車がたくさん走っていました。そのため、今でも大きな宿が多いのです。
    「よし、オートモービルを借りると言うのはどうだ?」
     と、ミシェレが言いましたが、一体、誰が貸してくれるでしょうか? みんな反逆者たちと戦ってボロボロです。そんな血まみれ傷だらけの怪しい若者たち――一応役人ではありますが――に「オートモービルを貸してくれ」と言われて「よろしゅうございますよ」と大事なオートモービルを貸す奇特な人なんて、ガラスのハンマーを使う鍛冶屋くらいに珍しいもので、「傷だらけの妙な若者にオートモービルを脅し取られた」と憲兵に訴え出られるのが関の山です。ナープラならともかく、ここではブルーノの顔も効かないのですから。
    「じゃあ、盗む?」とオランチアが言いました。
     しかしこれも「ナシ」です。ここはロマティヌスに通じる街道沿いです。このあたりにオートモービルを停めている人は、すぐにでも乗る予定がある人ばかりということですから、盗まれたことにすぐに気づき、憲兵に訴え出るでしょう。反逆者と憲兵、両方に追いかけられるのは厄介だからやめよう、ということになりました。いえ、なりかけました。
    「いや、盗みましょう」
     ジョジョは言いました。
    「なんだって? お前今の話聞いていたか?」とアバティーノが言いました。しかし、ジョジョは平然として、
    「王様の命令をやり遂げるためには仕方ありません。王様によく事情を話せば、きっと補償をしてくれるでしょう。それに、一台だけ盗むから目立つんです。一度に十台、百台盗まれたなら、僕らがどのオートモービルに乗って行ったかをすぐに特定するのは困難です」
     と、言いますから、みんな呆れと感心の入り混じった顔で見ていました。
    「それで、どうやってそんなにたくさん盗むんだい?」
     フラゴラは聞きました。ジョジョはにっこり笑って自身の精霊を出すと、停車場じゅうのオートモービルに触れます。オートモービルは、あっという間にカエルになり、四方八方にぴょこぴょこと跳んでいってしまいました。これで、どの車に乗っていったか、すぐにバレることはありません。
    「よし、ブルーノに知らせろ。オートモービルが手に入りそうだってな。オランチア、リル・ボマーで近づく者がないか警戒するんだ」
     アバティーノに言われると、ジョジョは亀を隠した物陰に向かいました。
     フラゴラはジョジョをじっと見つめています。あれから、フラゴラはずっと考えていました。フラゴラも、あの反逆者たちの目的は、本当に王様の地位なのだろうかと疑問に思っていました。フラゴラが直接会った敵は黒猫だけですし、みんなも敵と直接と戦ったのはそれぞれまだ一回だけです。ですが、ずっと変な感じがしていたのです。
     相手が王位や財宝といった、俗っぽいもののために戦っている感じがしないのです。自分以外の『誰か』のために戦っているような、気高さがあるように思えました。俗っぽいもののために、みんなしてあんな風な命の張り方はしません。だって、地位も財宝も命がないとどうにもならないものです。団結して、自分の命が無くなろうとも、誰かのために繋ごうとはなかなかできないものです。ただの利益の繋がりだけではできないことなのです。
     フラゴラの頭に、あの石になった黒猫の死体がよぎりました。フラゴラにはある仮説がありましたが、それは途方もない仮説で、これといった根拠がありません。
     フラゴラは根拠の弱いことを言って、みんなに受け入れられず、仲間外れにされるのがとても怖かったのです。
     それにはこんなわけがありました。
     フラゴラは、ナープラの郊外にある裕福な家の一人息子でした。両親は一人息子に大きな期待をかけ、言葉を話す前からペンを握らせ、勉強漬けにしました。勉強の時間以外は、複雑な社交界のマナーを厳しくしつけたり、乗馬や、楽器の演奏や、剣術や、ダンスなど、とにかくたくさんの家庭教師をつけて、自由な時間をこれっぽっちも与えませんでした。眠る前に読む本すら決められていましたし、同じ年頃の友達とは話もさせてもらえませんでした。フラゴラは思いました。
    「僕だって、他の子供みたいに遊んだり、楽しくおしゃべりをしたいよ!」
     それでも、フラゴラは我慢して両親の期待に応え続けました。
     そして、十三歳の時、フラゴラは見事大学に合格したのです。周囲の人はみんなフラゴラよりも両親を褒めました。両親でなければ、家庭教師たちを褒めました。大人たちは満足げな顔で、褒め言葉を自分だけのものにしてしまいました。フラゴラが褒められる番はついに回ってきませんでした。フラゴラは思いました。
    「僕だって、努力したのに! みんなの期待に応え続けたのに!」
     それでも、フラゴラは我慢しました。
     大学に入ると、フラゴラはそこでも優秀さを見せました。ですが、大きな事件が起こったのです。フラゴラが発表した研究が、教授から盗んだ上、捏造したものとされたのです。
     ですが、真実はその逆でした。教授の方がフラゴラの研究をこっそり盗んで、内容を書き換え、自分は正しい内容をすばやく発表した上で、フラゴラが盗んだと告発したのです。
     フラゴラは必死に「もともと自分が研究していたものだ」と主張しました。でも、誰も信じてくれません。同級生も信じてくれません。悲しみに暮れるフラゴラに、研究を盗んだ教授が身の毛もよだつような声で囁きました。
    「僕の恋人になってくれれば、帳消しにしてあげるよ」
     フラゴラはもう我慢できませんでした。
     気がつけば、重さ四キロの百科事典でめったうちにされた顔が三倍にふくれ、歯の数が三分の一になった教授が倒れていました。
     フラゴラは全てを失いました。どんなに本当のことを言っても、フラゴラを庇う人はいませんでした。穢らわしいものを見るように追い出され、両親もフラゴラを『いなかったもの』としてしまったのです。
     ですから、フラゴラは自分の言葉を誰も信じてもらえないことに強い恐怖を覚えるようになったのです。ブルーノのもとで働くようになった今も、いえ、居場所を持った今だからこそ、余計に怖くてたまらないのです。
    「もし……、もしも僕の仮説が正しいとしたら……」
    「フラゴラ、どうかした? 腹でも痛いの?」
     顔をしかめながらブツブツと呟くフラゴラに、オランチアがききました。
    「なあ、オランチア。もし、もしもだよ。自分だけがある事実に気がついたとして、他の皆にも知ってもらおうと話しているのに、誰も信じてくれなかったら、どう思う?」
     唐突な問いに、オランチアはぽかんと口を開けます。しかし、今がフラゴラに年上らしいところを見せる絶好の機会だと気づいたオランチアは、胸を反らせて言いました。
    「信じてもらうまで話すしかないんじゃあないかなあー。あとは、信じてもらえるように行動で示す! とかじゃない?」
    「そうか。そう、だよね……」
     フラゴラは曖昧な笑みを浮かべました。
     停車場の隅では、ミシェレとアバティーノが残りの手頃なオートモービルを弄り始めています。元憲兵であるアバティーノはこうした盗みの手口は逆に詳しいのです。彼にとっては皮肉なことですけれどね。
    「これは、少し時間がかかりそうだ」アバティーノは額の汗を拭いました。「ジョジョのヤツはなんか言ってるか?」
     ミシェレがジョジョのいる方を見ると、ジョジョはゆっくりと手を振っています。
    「んー、手え振ってる。早くしろって催促してるんじゃあないのかな」
     ミシェレはのんびりと答えました。

     ジョジョが手を振っていたのは、催促ではありませんでした。声が出せない中で、助けを求めていたのです!
     というのも、亀の元に行ったジョジョは、車が手に入りそうなことをブルーノに伝えた直後、いつのまにか傍に珍しいモトが停まっていることに気がつきました。最新型なのか、それとも試作品なのか、ジョジョも見たことがないものでした。なのに不用心にもエンジンはまだかかっていて、持ち主は見当たりません。周囲を警戒しているオランチアのレーダーにも引っかかっていないようなので、明らかに不審です。
    「ブルーノ。不審なモトが停まっています。用心してください――」
     しかし、亀の中には誰も居ません。でも、そんなはずはないのです。ジョジョは今まで亀を手で持っていました。ほんの数秒目を離したとはいえ、誰かが出入りすれば必ず気がつきます。
    「ブルーノ!? トリシア!? どこに行ったんだ!?」
     ジョジョは注意深く亀の中を見ますが、空っぽです。すでに敵の攻撃が始まっている! ジョジョは考えました。
    「ゴールデン・ウィンド! 二人を探せ! どこかに隠されているはずだ!」
     ジョジョはゴールデン・ウィンドを亀の中に送り込み、キャビネットの中を調べさせます。けれど、中は空っぽです。
    「家具の中ではないのか! では、二人は一体どこに……」
     その時、聞き慣れない声がキャビネットから聞こえてきました。
    「いいや、家具で合っている」
    「なんだって!」
     ジョジョののどぶえのあたりを冷たい風が通り抜けたかと思うと、血が噴き出ました。息ができません。どんなに深く息を吸おうとしても、のどぶえから息がすべて漏れ出していくかのようです。ジョジョは何者かによってのどぶえの部分を抜き取られてしまったのでした。
    (敵の攻撃だ! みんな、敵がもう来ているぞ!)
     と、叫ぼうにも声が出ません。ジョジョは手を振って危険を知らせようとしましたが、みんながその意味に気づくことはありませんでした。
     ジョジョは考えました。どんなに隠れ潜むのが上手な精霊でも、まったく姿を見せずに攻撃を行うことはできません。見えなかったのでしょうか?
     ジョジョは声がしたキャビネットをゴールデン・ウィンドで破壊しました。すると、今度は右足に冷たい風を感じたかと思うと、足の先やくるぶしを削り取られてしまいます。
     キャビネットが「当たり」なのに、キャビネットを破壊しても姿が見えず、その上攻撃を続けてくるとはどういうことでしょうか。そして、削り取られたのどや、足はどこに言ったのでしょうか?
    (そうか! 削り取ったというのなら……)
     その時、ジョジョの右目のあたりにまたあの嫌な冷たい風が通り抜けました。
    (今だ!)
     ジョジョは亀の甲羅についている鍵を取り外しました。亀は背中のくぼみに鍵をはめこむことで部屋を作ります。その鍵をとると、部屋の中の「生きているもの」は外に出てしまうのです。
     敵はジョジョの『右目』を削り取りました。右目は生きているので、敵は取り込もうとした右目に引っ張られ、部屋の外に出てくるということです。
     果たして、ジョジョの予想通りに、壊れたキャビネットが外に出てきました。
     キャビネットは賽の目状の細かなブロックに分かれると、鳥の大群のようにうねりながら、石ころに変身しました。
    「なるほど。見えなかったんじゃあなく、はじめから見えていたんだ。こいつの能力はこうやってバラバラに分解して、形も大きさも違う『モノ』に組み立て直すってところだな。ブルーノも、トリシアも、亀の部屋にある家具のどれかに変身させられているんだ」
     敵の能力はわかりましたが、ジョジョの危機的状況はちっとも改善していません。なにしろ、さっきから呼吸が出来ていないのです。敵にしてみれば、自動調理器に食材を入れてスイッチを入れて、あとはできあがりを待つだけの状態でした。ただ、ジョジョとしても黙って料理されるわけにはいきません。
    「ゴールデン・ウィンド!」
     ジョジョはいま出せるだけの力で石ころを攻撃しますが、石ころは拳が当たる前に小さくわかれてしまい、かすりもしません。その上、小さくわかれた部品がジョジョにあの冷たい風を吹き付けてこようとします。闇雲に近づけば、また削り取られるのは必至です。冷たい風を避けるのに、ただでさえ尽きかけた体力が削られていきました。
     敵はまたひとかたまりの石ころになって、ジョジョの頭めがけてとんできました。
    「そこだ!」
     ジョジョは最後の力を振り絞り、ゴールデン・ウィンドで石を真っ二つにたたき割ります。やっと手応えがありました。
    「いや。今のは、本物の石さ!」
     ジョジョがもたれていた壁に賽の目の切れ目が入ると、首を冷たい風が通り抜けました。決定的な一撃で、ジョジョの意識は薄れていきます。そしてついに、がくりと地面に倒れ伏してしまいました。
     それを見た敵は、壁から姿を現してニタリと笑いました。子供くらいの大きさの精霊ですが、頭からは角が生えていますし、口にはサメのような歯がまばらに生えていて、なんとも不気味な姿をしています。精霊は亀を拾ってモトにまたがると、こう呟きました。
    「邪魔をしてきた新入りをやっつけました、メーロ。いまからトリシアを連れて、あなたの元に帰ります」
     エンジンをかけたとき、精霊は奇妙な足音に気がつきました。後ろを振り向くと、そこにはやっつけたはずのジョジョが立っていたのです!
     『やっつけた』と思っても、ちゃんと確認しておかないと、こういうことになるのですよ。テストでもなんでも、「なんだかあっけなかったな」と思うことほどあとできちんと確認や見直しをなさることを、皆さんにもおすすめいたします。
    「人間を組み替えて物質にする君の能力に学ばせてもらったよ。君の能力と僕のゴールデン・ウィンドの能力は『何かを作る』という点でよく似ているからね。君が僕を死ぬ程までに追い詰めてくれたおかげで、僕は成長できた!」
     ジョジョはしっかりと二本の足で立ち、ゆっくりと、深く呼吸をしています。そして、服についていた飾りボタンをちぎり取ると、命を与えて『右目』にしました。そして、先ほど敵の精霊に削り取られた部分にはめこんだのです。ジョジョは『ゴールデン・ウィンド』の生命を生み出す能力を応用して、足の先や、のどぶえなど、生きている身体の一部を作って傷を補ったのです!
     敵の精霊はその様子を逐一『メーロ』という人物に報告していました。いちいち報告しているということは、『メーロ』という名の敵は見えない場所にいるのでしょう。敵の精霊は『メーロ』に報告し、その指示を受けて戦っているわけですから、本体がその場の状況を見て瞬間的に判断し、精霊を動かすことはできないわけです。これはジョジョがほんのちょっぴり優位な点でした。
     ジョジョは敵に一気に詰め寄りました。そしてモトに命を与えると、モトから植物の根が生えて、敵精霊の足に強く絡みつかせます。敵精霊はたまらず足を捨てて亀も手放すと、また細かいバラバラのブロックに分かれ、地面と同化して消えてしまいました。
    「また小石に化けたな!」
     ジョジョは周囲を見回します。周囲に転がっているのはただの石ころばかりです。敵の精霊は物質そのものに化けられますから、この中から見分けるのは不可能でした。ジョジョはまずブルーノとトリシアが捕らわれている亀を確保することを優先しました。ジョジョは素早く、しかし慎重に亀に駆け寄ると、とびつくようにして拾い上げました。
     ジョジョは周囲を見回し、敵の攻撃に備えますが、敵はジョジョの死角に入った瞬間に攻撃をしてくるでしょう。ジョジョは感覚を研ぎ澄ませます。攻撃を受けずに亀を拾えたということは、敵がジョジョに亀を拾わせたということでもありますから、拾った瞬間を狙ってくるのは間違いありません。そして、案の定敵は襲いかかってきました。
    「くらえッ!」
     敵精霊は物陰から、いえ、影そのものから現れると、とっさに防御しようとしたゴールデン・ウィンドの右腕を弾き飛ばし、勝ち誇ったようにニタリと笑いました。
    「とった! 手こずらせやがって! これで確実にお前を始末してやるぞ!」
     ですが、ジョジョはちっとも慌てることもなく、むしろ落ち着き払って言いました。
    「人間を『部品』にする君の能力から学ばせてもらったって言っただろう? 君のおかげで成長できたんだ。さっきの右腕は僕があえて切り離したんだよ。部品のようにね」
     敵はハッとしてジョジョの右手を見ました。ジョジョの右手はまだあります。攻撃を受けて弾き飛ばされたわけではなく、ゴールデン・ウィンドの右腕だけを切り離したのです。そして切り離された右腕は、周りのどこにも落ちていません。
    「な、ないぞ! 右腕はどこにいったんだ!」
     慌てる敵に、ジョジョは言いました。
    「切り離した右腕は、既に別の生き物となってお前の体内に侵入した!」
     敵の左腕の中で何かがうごめきはじめたかと思うと、どんどんと大きくなりながら肘へ、肩へと遡っていきます!
    「うぎゃああああ!」
     そして、背中から凶暴なピラニアが皮膚を食い破ってとびでてきたのです! 背中から頭にかけて大穴を開けた精霊はのたうちまわりました。逆に言えば、これだけの傷を受けても死なずにのたうちまわれているということです。ポリープスの精霊のことを皆さんはまだ覚えていますか? ポリープスの精霊は、たとえ精霊がやっつけられても一時的に消えるだけで本体はちっとも気がつかない、そういった種類の精霊でしたね。この精霊もそれと似た種類だったのです。
     精霊はわなわなと震えて立ち上がりました。顔には亀のしたフンがついていて、顔にフンをつけられたことをひどく怒っているようでした。
    「よくもオレの顔にこんなクソを……この心の痛みは、テメエの死で償わせてやる! うるせえぞメーロ! お前の半端な指示でこんな目に遭ったんだ! オレはオレの好きなように戦わせてもらうぜ!」
     精霊は『メーロ』と何やら喧嘩をしているようでした。ともかく、この精霊を完全に倒さないと、ブルーノもトリシアも元に戻りませんから、逃げ隠れせずに戦う意志を見せてくれるのはある意味ジョジョにとって都合がいいことでした。ジョジョは挑発して言いました。
    「来い。こちらとしても君は絶対に倒さなくちゃあいけないからな!」
    「なんだと? 惨めに倒されるのはお前の方だぜ!」
     挑発に乗った精霊は走って向かってきます。しかし、これまで受けた攻撃で、相手の間合いはもう覚えています。振り上げた拳を、ジョジョはひらりと躱そうとしました。その時、突然敵の腕がぐーん! と伸び、ジョジョは肩に傷を受けてしまいました。
    「なんだこいつ、一瞬で大きくなったぞ!」
     子供くらいのの背丈だったのが、一瞬でジョジョと変わらないくらいに大きくなったのです。体つきも一気に大人になり、顔つきはより凶暴になりました。
    「やはりオレのやりたいようにやらせてもらう! こいつはここでぶっ殺してやるぜ!」
     敵の精霊は再びジョジョの方に迫ってきます。ジョジョもまた、ゴールデン・ウィンドの右手を元に戻し、敵の精霊の横っ面に拳を叩き込ませました。
    「よし! こいつの頭部を破壊しろ!」
     しかし、敵の精霊の頭部と手が一瞬にして入れ替わり、ゴールデン・ウィンドの右手はもがれて吸収されてしまいます。
    「バカめ! 貰ったッ!」
     敵の精霊はジョジョの頭部に拳を食らわせようとしますが、突然、後ろにすっころびました。
    「う、腕が、重いぞ!」
     精霊は突然重くなった左腕をおさえて悲鳴を上げます。左腕からは、機械の部品が生えてきました。ハンドルや、メーター、タイヤも身体の内部から、食い破るように出てきています。そして、その傷口からは何かオイルのようなものが血液であるかのように溢れ出てきました。
    「お前の乗ってきたモトに生命を与え、一時的にゴールデン・ウィンドの右手にしたんだ。お前はそれを飲み込んでしまった。ガソリンも、点火プラグもあるモトをな! あとはわかるな?」
     チカッと火花が光ると、モトが大爆発し、精霊もろとも大きな火柱を上げて燃えさかり始めました。真っ黒な消し炭になった精霊を見下ろして、ジョジョは言いました。
    「やりたいようにやったところで『無駄』だったね」
     亀の中では、元に戻ったブルーノとトリシアが、不思議そうに自分の手を見ていました。ジョジョが助けてくれたことに気がつくと、亀の中から彼に手を振るのでした。
    「ジョジョ、何かあったのか!?」
     爆発に驚いたミシェレやオランチアやフラゴラも駆け寄ってきました。ジョジョは冗談めかして、
    「『何かあったのか』じゃあないですよ! 大変だったんですから、もう!」
     と笑うのでした。そして、先ほどの精霊との戦いをみんなに話して聞かせました。一人でブルーノとトリシアを守り切ったジョジョはちょっとしたヒーローになりました。
    「でも、ジョジョの話だと、敵は何度も同じ精霊を出せるんだろう? 用心しないといけなくなるな」
     フラゴラは心配して言いました。
    「それなら、もう手は打ってあります」
    「なんだって?」
    「精霊の残骸に生命を与え、毒蜂の群れに変えました。誰かの持ち物から生み出したモノは持ち主のもとに戻ろうとしますから、蜂たちは敵本体のところに向かっています。一つ一つは小さな毒針でも、何度も刺されたら無事じゃ済まないでしょうね」
     さて、蜂たちはどうしたかといいますと、王都ロマティヌスの駅へぶんぶんうなりながら飛んでゆき、そこで一匹のアナグマを襲って刺し殺してしまいました。アナグマの首には、やっぱり宝石のついた首輪がついていました。ついでに書いておきますが、役目を終えた毒蜂たちは、またもとの残骸に戻ったそうなので、ご心配はいりませんよ。
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