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    kaoi_aki

    画像に収まりきらないちょっと長めの話を格納しています。

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    kaoi_aki

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    ユが女の子たちに化粧される話。しおらしい村娘ユとどぎまぎするキ↓のユ目線です。
    https://twitter.com/kaoi_aki/status/1517819483263406080?s=21&t=a-EQ0Vju-9GMuPvqVsow8w

    ビビディ・バビディ・ブー「オレンジ系とパープル系だったらどっちがいいと思う?」
    「うーん、ユージオさんは肌が白いから……」
    「アリス、私たちはこっちの化粧品に詳しくないから、ちょっと教えてほしいんだけど」
    「ええ、何でしょう」
     頭上でさまざまに取り交わされる会話はまるでレシピを相談する料理人たちのようだ。ユージオは下ごしらえ前の食材の気分で、天幕の中の椅子にちっちゃくなって座っていた。抵抗とか提案とかいうことはとうに試み、失敗に終わっている。俎上の魚としては調理がすみやかに終わることを祈るのみ。
    「着るのはアレでしょ、青いワンピース」
    「やっぱりカワイイ路線で行くならピンクじゃないですか?」
    「うん、ユージオくん似合いそう」
     話がついたようで、ユージオの座る椅子の背もたれに手をかけ、アスナが横合いからのぞき込んできた。柔らかな微笑みは普段通りのようにも見えるが、彼女がとても上機嫌であることは言うまでもない。ユージオは逃げ場がなくなったように感じた。さっきまでも別段あったわけではないのだが。
    「それじゃあお化粧、していくね」
     大人しく受け入れるにはどうしても……ユージオ的に抵抗があったので、最後と思ってもう一度訴えてみる。
    「……これ本当にしないとだめかい? アスナ……」
    「実は前から友達にお化粧してあげるのやってみたかったんだ。大丈夫、ユージオくんなら絶対にかわいくなれるよ」
     それは喜んだ方が良いのだろうか。
    「せっかくかわいい服があるんだから、やるなら徹底的にやらないと。お兄ちゃんびっくりしますよ!」
     がたごと鏡台を引いてきたリーファのちょっぴりいたずらっぽいにこにこ笑顔が眩しくて目をすがめる。鏡越しに背後で化粧箱を広げているアリスが申し訳なさと好奇心が一対一のまなざしを向けてきたのが見えて、なんか、もう、どうにでもなれという気持ちである。
     ユージオが口を閉じるとそれを了承ととった彼女たちがそれぞれ動き出した。シノンの手が伸びてきて顔にかかる髪を手早くピンでとめてしまう。
     正面に回り込んだアスナが真剣な榛色の瞳でユージオの顔立ちをとっくりと観察し、化粧道具を見比べ、そのうちの一つの蓋を開けた。
     これほど間近で見つめられるとどうにも居心地が悪いが、彼女が見ているのはユージオ自身というより頭の中にあるこの先の作業の設計図だ。化粧に疎いユージオと言えどもそれはわかっていたので、なるべく心を無にして身動きせず、仕事がしやすいように努める。
    「目を閉じてくれるかな」
     柔らかな声の指示に従って目を閉じて、そこから先は何が起きているのかほとんどわからない。
     顔中を指先や何かで触れられ、ほのかに花のような良い香りのするものを塗りたくられる。ときどきアスナやアリスの声に従って目を開けたり、下方を見たり、また目を閉じたり。瞼のふちや睫毛、唇などあらぬところを筆でなぞられて腰の後ろがむずむずするような感覚に耐えながら、それが終わると髪を止めていたピンが外されてなにやら横髪をいじられる。
     こんな工程を日々こなしている人たちへの畏敬の念にユージオの思考が流れることしばらく。
    「……はい、終わったよ。目を開けて」
     やりきった! という感情がにじみ出たアスナの言葉にゆっくり瞼を持ち上げると、この一連の企みに携わった少女たちがそろってユージオを取り囲んでいた。ずっと目の前にあった鏡台は横にずらされている。
     注がれる四対の視線にユージオがちょっと怯えた顔をすると、安心してと言うように彼女たちは揃ってほわっと笑った。微笑みつつも妙に熱意のこもったきらきらしたまなざしがユージオの上から外されないので、ちょっとこわいのだが。
    「すごいですね、これは」
    「うん。すごく綺麗」
    「我ながらいい仕事したなーって思う」
    「見立て通り十分アリだったわね」
    「え……と、その、鏡を見てもいい?」
     嘆息混じりで口々に呟く彼女たちに恐る恐る申し出てみる。一応自分がどんな様相になったのか見届けるぐらいはしておきたい。何かを塗られたためか、視界に入る自分の睫毛が邪魔だと思うなんて、人生で初めてだ。
     腰を浮かしかけたユージオと鏡台の間にリーファがあわてて割り込み、両手を広げて立ちふさがる。
    「あっ、まって、まだだめです! 先に衣装着ちゃってください。そしたら大きい姿見あるので」
    「はいじゃあユージオ。立って、こっち来て」
     あれよという間にシノンに先導されて青いワンピースの方へ連れていかれる。驚くべき手際の良さだった。
     衝立の陰に用意されているシンプルな女物の衣装は、見るたびちょっとげんなりした顔になってしまうのだが、事ここに至れば腹をくくって受け入れるほかない。さしものユージオもそろそろヤケになりつつある。
    「手伝いはいる?」
    「さすがにいらないよ……」
     この上着替えまで女の子たちの手によるものになれば色々と折れそうだ。心とか。衝立に軽く寄り掛かったシノンは猫のようににこっと笑った。
    「冗談よ。わからないことがあったら呼んでちょうだいね。化粧が服につかないように気を付けて」
    「わかった」
     ひらりと片手を振って衝立の向こうに彼女の姿が消えたのを見送って、ユージオはそうっと布地に手を伸ばした。
     さらりとしたやわらかいブラウスの生地は、日頃着ている騎士服とは比べ物にならないほど薄くなよやかで心もとない。戦闘にも耐えるこの服装と違ってこちらは日常に着る服なのだから当然だ。
     白いブラウスのボタンをはずして袖を通す。幸い服はどれも前あきで、化粧や髪形が崩れる心配はなさそうだった。ボタンを留めながら先ほどいじられていた右側の髪をそっと押さえてみると、耳の後ろのひと房が編み込まれてリボンか何かでとめられているようだ。
    「…………」
     徹底的にかわいらしく仕立て上げられた事実に何とも言えない気持ちを噛みしめながらワンピースを着て、最後にリボンタイを結ぶ。脚に布のこすれる感覚が慣れない。たよりない青い布地に包まれた膝のあたりをじっと見下ろし、諦め混じりにひとつ深呼吸をして、視線を遮ってくれる衝立の裏から出た。
    「えっと……着てみたよ」
     いたたまれなくて顔があげられず、彼女たちがどんな顔をしているのかもわからない。にぎやかにおしゃべりしていた声が止まった。天幕内がしんと静まり返ったので、びくりとユージオは肩を震わせ、肺を絞り上げられるような緊張にさいなまれて息を止めた。
    「かわいい!!」
     しかしそれもつかの間、わっと爆発するような歓声が耳の両側からうちよせた。見たことないぐらい瞳を輝かせた四人の女の子たちに囲まれてユージオは目を白黒させる。
    「ユージオくん、すごい。とってもかわいいよ」
    「ちょっとめちゃくちゃ似合うじゃない。ばっちりよ」
    「えーっ私このユージオさんと街で会ったらぜったい見とれちゃいます」
    「驚きました。ユージオ、今のあなたはとても愛らしい。誰であれ振り向くでしょう」
    「え、あ」
     それは喜んで良いんだろうか。こんな風に全身に誉め言葉を浴びせられたことなんて初めてで、ユージオはただ溺れるように言葉を詰まらせ、ぎゅっとスカートを握り締めてうつむいた。
     そうして果実が色づくように赤面した様子はドキドキするほどいじらしく、腕の良い魔法使いたちは自らの手で変身させたシンデレラを口々にかわいいと言い寄せた。
    「そうだ、鏡! 今持ってくるわね」
     シノンが天幕の隅で布を掛けられていた姿見を持ってくる。躊躇うユージオが心の準備をする間もなくアスナに背中を押されて鏡の前に立たされ、布を取り去られた鏡面にたたずんでいたのはひとりの可憐な少女だった。
    (な、だ、誰これ)
     誰もなにも、まさしく今のユージオの外見だということは頭ではわかっているのだが。そのぐらい、目を疑うほど、様変わりしている。
     清楚だが少女らしい魅力を引き出すためにデザインされたワンピース。きれいに編み込まれ、櫛梳られたふわふわのハニーブラウンの髪。自然な化粧を施された唇は咲き初めた桜の花びらのようで、じわりと目元に羞恥のなごりの薄紅がのぼっているのがいっそう無垢な印象を強める。やさしげで麗しく、ほのかな色気を感じさせる淡く色づいた瞼と、けぶるような長い睫毛。守ってあげたくなるような潤んだ大きな緑の瞳と目が合ってユージオが思わず目を泳がせると、鏡の中の少女も気まずげに視線をそらした。
     髪や瞳の色のような持っている要素は自分と同じなのに、印象がまるで変わっている。男の姿をしているときよりまろやかで、やわらかく、ずっと甘い。確かにもともと穏やかな面差しをしてはいたけれど、ここまでユージオを変身させた女の子たちの技術と見立てはひたすら見事だ。
    「どう? 素敵でしょ。付き合ってくれてありがとう、ユージオくん」
     ユージオの両肩に手をのせたアスナが鏡越しに微笑む。どことなく自慢げだ。たしかに敬服に値するけど、でもそれはそれとして、
    「……やっぱりはずかしいよ……それに、キリトが見たらなんて言うかな」
     ユージオは真っ赤になって顔を伏せた。男として盛装をしたときも改まった格好はちょっと気恥ずかしかったし、親友が茶化してくるものだからそれも照れくさかった。そもそも村にいたころは清潔を保つ以上に身だしなみに気を遣うということからは縁遠かったし、今でも気後れするような思いはある。ましてや女装なんて。
    「大丈夫ですよ。私が保証します。もしキリトが不届きな言動をしたら思い知らせてやりますから安心してください」
    「そうですよ! それにお兄ちゃんも今のユージオさんを見たらかわいいって言ってくれるんじゃないかな。それじゃあお披露目しに行きましょう!」
    「わ、リーファ、あんまり押さないで」
     ……この感じ、ユージオが弱音を吐いても多少強引に推し進めようという取り決めが彼女たちの間でなされていたような気もする。実際そうでなければユージオはいつまでも逡巡していただろうから、ありがたくはあるけれど。
     ともかく案外力の強いリーファにぐいぐい背中を押され、アリスに手を引かれ、ユージオは天幕の外に連れ出された。まるでお姫様になった気分を味わえる完璧に紳士的なアリスのエスコートにちょっと心の中のいろんなものが崩れそうになったが、なんとか外には出た。
    「キリトくんお待たせ! ユージオくん完成したよ」
     天幕のすぐ外で待っていたらしい黒ずくめの親友が呼びかけられてぱっと弾かれたように顔を上げ、それからこっちを見て目と口をまんまるにするのがわかった。ユージオは途中でいたたまれなくて目をそらしてしまったけれど、黒い視線が頭のてっぺんからつま先までじっと全身をなぞっていくのが、ぴりぴりあわだつ肌に感じられる。
     早くなにか言ってほしい。恥ずかしい。こんな風に、服の下まで見透かすような視線にさらされては。
    「ユージオ……それ」
     茫然とした声はその先が続かず、キリトはまだユージオにつよくまっすぐな視線を注ぎ続けている。耐え切れなくなってユージオは呻いて深く俯いた。顔から火が出そうだ。化粧までしているなんて言ったら、キリトはなんて言うだろう。
    「……変、だろ」
    「いや! ぜんぜん! 変だなんて」
     慌てたような足音が近づいて、うつむいた視界にキリトの黒いブーツの足先が入り込む。それを見届けたかのようにアリスとリーファの手がすっとさりげなく離れていった。
     もう一歩、キリトが歩み寄って、もう触れあいそうなほど間近に体温があった。心臓の音がうるさい。持ち上げられたキリトの右手が所在なく泳いでユージオの背中の方に下ろされる。多分いつもみたいに頭を撫でようとして気を遣ったのだろう。
     それだけの些細な仕草に、さっきまでのアリスのエスコートと同じ種類の心の動きがにじみ出ていて、ぐら、と自分の中で器のようなものが揺らぐのを感じた。
     いつまでも顔を伏せているのもよくないかと思ってそろりと視線を持ち上げる。ぱち、とキリトの黒い瞳とユージオの碧眼がぶつかって、同時に親友がふ、と笑った。
    「ユージオくんがあんまりかわいい格好してるから、ちょっとびっくりしただけだよ」
    「……ぅあ、」
     励ますように微笑したキリトの目を見たままその言葉を聞いたことをユージオは激しく後悔した。
     息が止まる。自分の耳に熱が集まっていくのがわかる。器がこわいぐらいにキリトの方へ傾いたのがわかってしまった。
     その声とまなざしが。
     普段僕に向けるよりわずかに低くて、かすれて、こちらをリードするような声色と、礼儀正しく距離を取りながら、相手を受け入れるだけの隙を十分に湛えて手を差し伸べるような甘くゆるんだまなざしが。
     ――キリトに、女の子扱いされてる。
     お兄ちゃんもかわいいって言ってくれるんじゃないかな、リーファの言葉がよみがえった。多分キリトは自分の仕草の変化には無自覚で、無意識にやっているのだから、なお性質が悪い。ひどい。ずるい。
    「かわ、っ、……そう」
     ぎゅうっと青いスカートの布を握り締めた。傾いた器から正体のわからない感情がこぼれてしまわないように押さえているので精いっぱいだった。肩を抱き寄せられでもしたらひとたまりもなく何もかもあふれさせてしまっていただろう。
     肌が触れ合うような距離なんていつもと変わらないはずなのに、なにもかもが違う。
     ひどく恥じ入って動揺した様子のユージオに、戸惑いつつ心配そうにキリトが顔を覗き込もうとする。いまはもう勘弁してほしい。
    「ユージオ、その、大丈夫か?」
    「……だいじょうぶ」
     ぜんぜん大丈夫じゃない。かけられた魔法をちょっとだけ恨みながら、ユージオはどうにか震える声で返事をした。
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