Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    otk_ota

    @otk_ota

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 15

    otk_ota

    ☆quiet follow

    間に合うのかわからん 今日中に完成させて載せる まもいぶ

    間に合うのか!? 膝をついて、頬と床がキスをしそうなほど顔を近づける。ソファの下に白い紙が落ちていて伊吹は腕を伸ばして取った。マモンの部屋のソファの下には時々落とし物がある。
     立ち上がった伊吹は手の中の紙を見た。文字を読んだ。眉間に皺が寄る。
     それはクレジットカードの引き落とし明細書だった。リボ払いの額がかなり大きい。革ジャンのみならず、様々な買い物をリボ払いで行なっている。このペースでは五百回のみならず、千回二千回と増えていくだろう。二千回だとしたら百五十年以上支払い続けるのである。その間に増える利子のことを考えると伊吹は頭が痛くなってきた。
    「マモン、こっちきて」
     衣装コーナーの片付けをしているマモンに声をかける。衣類を引っ張り出してファッションショーを開いていた彼は彼女の呼びかけですぐに中断し、お気に入りの服はきちんとハンガーにかけてどうでもいいものは床に落として伊吹のそばに駆け寄った。
    「なんだよ」
    「これ」
     マモンの目の前に明細書を突きつける伊吹。
    「近すぎて読めねえ」
    「クレカの明細書。なにこれ。革ジャンのみならず、バッグもネックレスもブーツもリボ払いなの」
    「おう」
     マモンは照れ臭そうに顎を掻いた。
    「このバカ。大バカ。スカポンタン。こんなんじゃ死ぬまでリボ払い。住宅ローンでもこんなに長く支払わないよ」
    「俺は気にしてない。つか、スカポンタンってなんだよ」
    「私が気にするの。スカタンとアンポンタンの組掛け算。バカの二乗ってこと」
     鬼の形相をした伊吹がマモンに詰め寄る。この男に何としてでもリボ払いをやめさせなければならない。今すぐにでも一括で支払いをさせたい。そのためにはどうすればいいのか、彼女は知っていた。
    「マモンって本当に私のことが好きなの」
     全く同じ言葉を伊吹はマモンに使ったことがある。まだマモンと思いを通じ合わせたばかりの頃。彼女は彼の愛に背中を預けていなかった。愛され続ける自信がなかったのである。そんなときに些細な言い合いをして、この言葉を投げつけた。そうするとマモンの目が大きく見開かれた後に据わった。鋭い眼差しだった。マモンに腕を掴まれた伊吹は車に連れ込まれ、シートベルトをつけられて、気がついたら道路を走っていた。運転席にいるマモンは何も話さない。まっすぐ前を見ている。いつもは魔界FMラジオがかかっているのだが、今の車内は無音だった。伊吹は息を凝らしてマモンと同じように進行方向を見るしかなかった。
     着いた場所はカジノだった。慣れた足取りで中に入ったマモンはスロット台の前に伊吹を座らせた。ポケットから一枚のコインを取り出して彼女の手に握らせる。
    「やれ」
     伊吹が戸惑っていると、「いいからやれよ」と冷たい声が後ろから投げられた。しぶしぶコインを入れ、適当にボタンを押す。スロットが止まると、画面に表示されている金額が三倍になった。当たったようだ。ひとまず指示通りの動きを終わらせた伊吹はマモンを見上げた。彼の目が回し続けろと語っていた。再びスロット台と向き合う。
     そこから彼女は一時間ボタンを押し続けた。金額はどんどん膨れ上がり、終わりが見えない。飽きてきた頃にもう一度振り返ってマモンを見つめると、無言で首を横に振られた。半泣きでボタンを押す伊吹。横一直線に同じ絵柄が並んで画面が七色に光った。
     伊吹がもうやりたくないと駄々をこねて涙を流してもマモンは全く動かなかった。彼女の真後ろに立ち、ボタンを押せと冷たい声で命令する。押す。当たり。押す。当たり。押す。ジャックスポット。大当たり。
     カジノに着いてから七時間が経過した。伊吹は朦朧とする意識の中、ライン工場で働いていると錯覚しながら機械的に手を動かしていた。ふと、マモンの気配が近くなる。
    「わかったか」
     伊吹は何度も首を縦に振った。必死に頷いた。マモンがどれだけ自分を好いているのか十分に理解したのだ。マモンのお気に入りは、金銭的に豊かになる。彼に愛されている伊吹はカジノに入ると幸運の女神になる。
    「換金して全部おまえのモンにしていいからな」
     マモンは優しく優しく伊吹の頭を撫でた。
     と、こういうことがあったのである。伊吹のトラウマだ。
     そのために私のこと好きなの、という質問は彼の地雷を踏むことを伊吹は十分に理解していた。分かっていてわざとやった。案の定、マモンの目がスッと冷たくなる。
    「おまえ、まだわかってねえのか」
    「私のことが好きなら、ちゃんと証明して」
     伊吹は唇の端を持ち上げた。不敵な笑みだ。
    「どうするンだよ」
    「私がマモンに一回だけ賭けるから、二十倍に増やして大勝ちして。そのお金でリボ払いは全部ナシにして」
    「どこで」
    「それはね──」
     あの時スロットで儲けた百万グリムを大切に保管していた伊吹はマモンの耳に顔を寄せて囁いた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works