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    せんこ

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    せんこ

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    オガヒカワンドロ参加作品
    お題は「海、朝ごはん、扇子」
    時間オーバーです。

    弟弟子×兄弟子パロなので、こちらに。

    ワンドロ初めてなので欲張ってしまった。。。



    *注意、車は睡眠をよくとってから運転しましょう。

    オガヒカワンドロ お題「海、朝ごはん、扇子」 朝が来るのが怖い。
     助手席に座る、年下の兄弟子がそう漏らしたのは一体いつ頃のことだったか。
     思い出せない記憶を追いやるように、緒方はタバコを灰皿に捨て、信号が青になったのを確認して、アクセルを踏んだ。
    「どこ行くんだよ」
    「朝飯」
     緒方の運転する方向には、少しずつ太陽が顔を出し始めている。眩しそうに顔をしかめた進藤が、「朝ラーメンやってるとこがいい」とリクエストした。何度か訪れたことのある店だ。他県の、漁港のそばにある。
    「分かった」
     地図を頭の中に広げて、緒方は斜線を変更した。
     進藤は時々夜、眠れなくなる。
     別に不眠症と言うわけではない、らしい。ただ、夜が過ぎていくことが、朝が訪れることが怖いのだと。
     別にそういう時の進藤は、成績が悪いとか、誰かに何か吹き込まれたとか、スケジュールがパンパンで疲労困憊だとかそういうわけじゃない。本因坊戦は、先日進藤のタイトル防衛で幕を閉じたし、現在参加している別のタイトルのトーナメント戦も、緒方が見る限り好調だ。ネット等のメディアで失言をしたとか、不当に叩かれていると言う様子もない。
     だからこそ、なのかもしれない。何も問題なく過ぎていく日々に、言葉にできない不安を感じ、進藤の心が悲鳴をあげているのだ。日常は、当たり前の日常を送っているときにこそ崩れるものだと知っているから。
     そんな時、進藤はそっと家を出る。朝が来る前に逃げなければならない。そんな強迫観念でもって。
     何時からだろうか。緒方は進藤にそういった兆候が見られると、進藤の短い家出につきあうようになった。朝食を食べに行く。という名目のドライブだ。
    「眠たければ寝ろよ」
    「眠くない」
     可愛げのない返事に、緒方は溜め息の代わりに運転席の窓を開けた。吹き込んでくる生ぬるい空気に、微かな塩の匂いがまじる。
    「いつも思うんだけど、精次くんは何でオレが家を出るのが分かるの?」
    「勘」
    「勘って、午前4時に何で車で待ってるんだよ。おかしいじゃん。それより精次くんはちゃんと寝てるの」
    「お前が寝てないのが悪い」
     一体、何のためにわざわざ同じマンションに住んでいると思っているんだ。とは、心の中だけに留めておいた。
    「オレの睡眠時間が心配なら、今お前が寝て、帰りは運転を代わってくれ」
    「それって、答えになってないって」
     はあ、と進藤がわざとらしく息をはいて、大人しく背もたれに身体を預け、目蓋を閉じた。それでいい。眠れなくても少しでも休めればそれでいい。
     いつまでたっても幼い進藤の顔をちらりと横目で見て、緒方は早朝のまだ車の少ない道を走った。
     進藤が指定した朝からラーメンの食べられる店、は漁港近くのラーメン屋だ。一仕事終えた漁港の人々が朝からビールを飲んでいたりする店で、進藤はグルメだという指導碁の客に聞いたらしい。貝だしをメインに鰹節や昆布、いりこだしなどが使われている、らしい。夏はスープを冷たくしたラーメンも出していて、進藤はもちろん緒方も気に入っている。


     太陽が水平線からその全貌を現す頃、緒方は食堂の前に車を止めた。進藤が声をかける前にシートベルトを外す。どうやら眠れなかったらしい。
     言葉を交わさないまま、店に入る。「いらっしゃい!」元気な声を出すのは、店長の娘だという若い女性だ。店の中はすでに三分の二ほど椅子が埋まっており、ビールの入ったグラスを傾けている客もいる。
     二人は空いていたカウンターに並んで座る。進藤が醤油ラーメンで緒方が塩ラーメン。ちなみに、醤油にはじっくり煮込んでから炙ったチャーシューが、塩ラーメンには海老ワンタンが入っている。それを一つずつ交換するのが、いつの間にか二人の決まりになっていた。セルフサービスの水をコップに注ぐのは緒方の役目だ。兄弟子と弟弟子の関係に年齢は関係ない。進藤は当たり前のようにコップを受け取り、くちびるを湿らせ、店のテレビに視線をやった。テレビではアナウンサーが熱中症に気をつけるようにと繰り返している。そのうちに、ラーメンどんぶりが二人同時に運ばれて来た。割り箸をとり、いただきますと手を合わせる。箸を割って最初にしたことは、チャーシューとワンタンをそれぞれのどんぶりに入れることだったが、それは二人にとってひどく当たり前のことだった。


    「ゴチソーサマ、進藤サン」
    「はいはい、お粗末さま」
     コップに水を注ぐのが弟弟子の役目なら、食事代を出すのは当然兄弟子の役目だ。
    「緒方先生、汗すごいよ」
     男前が台無し。と笑う進藤の前髪がさらりと潮風に揺れた。こういう時期、簡単に言うと原因不明の不眠症にかかる頃の進藤は、代謝が悪いのかあまり汗をかかない。そういった微かな変化から、緒方は進藤の精神状態を読み取っているのだが、本人に知られると面倒なので黙っておく。
    「ハンカチ忘れちゃったからさ、せめてこれ使ってよ」
     進藤が、広げた扇子を緒方に渡す。真っ白な舞扇。今や進藤のトレードマークであるそれを、緒方は手に持ってじっと睨むように見つめた。進藤は、ハンカチどころか携帯電話も持っていなかった。持ち物は、財布とこの扇子だけ。ある男の形見であることは、緒方もよく知っていた。
    「まだ時間ある?そこの道の駅寄ろうよ」
    「元気だな」
     パタパタと扇子で顔をあおぎながら、緒方は進藤に車の鍵を渡した。道の駅まで運転すれば、進藤も満足するだろう。
    「塩ソフトクリーム食べたい」
    「本当に、元気だな」
    「ラーメン食べて、海見たら調子出てきた」
     慣れた手つきで鍵を開け、「暑い!」と騒ぎながら進藤が運転席に乗り込む。やれやれと続いて助手席に座った緒方が、ふと気になっていたことを口にした。
    「そういえば、お前はいつも海に来たがるけど、そんなに好きなのか?」
    「えー?オレそんなに海に来てるっけ?」
    「来てる」
     朝食を持ちかけるのは緒方の方だが、店を指定するのはいつも進藤だ。今日のラーメン屋に、自家製の干物が売りの食堂、刺身定食の店、珍しいところでは炉端焼きや貝焼きの店もある。共通点はすべてが海に近い所にあるということだ。
     何か思いででもあるのか、と訊ねようとしてやめた。扇子の男との思い出だったら、自分の機嫌が悪くなるだけだ。
     考えなくていいから、車を出せ。そう緒方が言う前に、進藤があ!と声をあげた。
    「海じゃなくて、青が好きなのかも」
    だって、と進藤が緒方の胸元を指差した。緒方のいつもの真っ青なシャツを。
    「精次くんの色じゃん。なんか安心する」
     突然の爆弾発言に、緒方が声を失う。そんな様子を気にもせず、進藤は機嫌よくエンジンをかけた。
    「……なんて心臓に悪い」
     緒方はぽつりと呟き、進藤の扇子を日よけのように顔の上に掲げた。赤くなった顔が、進藤に見えないように。
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    Lemon

    DONE🎏お誕生日おめでとうございます。
    現パロ鯉月の小説。全年齢。

    初めて現パロを書きました。
    いとはじイベント参加記念の小説です。
    どうしても12月23日の早いうちにアップしたかった(🎏ちゃんの誕生日を当日に思いっきり祝いたい)のでイベント前ですがアップします。
    お誕生日おめでとう!!!
    あなたの恋人がSEX以外に考えているたくさんのこと。鯉登音之進さんと月島基さんとが恋人としてお付き合いを始めたのは、夏の終わりのことでした。
    一回りほどある年齢の差、鹿児島と新潟という出身地の違い、暮らしている地域も異なり、バイトをせずに親の仕送りで生活を送っている大学生と、配送業のドライバーで生活を立てている社会人の間に、出会う接点など一つもなさそうなものですが、鯉登さんは月島さんをどこかで見初めたらしく、朝一番の飲食店への配送を終え、トラックを戻して営業所から出てきた月島さんに向かって、こう言い放ちました。


    「好きだ、月島。私と付き合ってほしい。」


    初対面の人間に何を言ってるんだ、と、月島さんの口は呆れたように少し開きました。目の前に立つ青年は、すらりと背が高く、浅黒い肌が健康的で、つややかな黒髪が夏の高い空のてっぺんに昇ったお日様からの日差しを受けて輝いています。その豊かな黒髪がさらりと流れる前髪の下にはびっくりするくらいに美しく整った小さな顔があり、ただ立っているだけでーーたとえ排ガスで煤けた営業所の壁や運動靴とカートのタイヤの跡だらけの地面が背景であってもーーまるで美術館に飾られる一枚の絵のような気品に満ちておりました。姿形が美しいのはもちろん、意志の強そうな瞳が人目を惹きつけ、特徴的な眉毛ですら魅力に変えてしまう青年でした。
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