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    はねみな

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    はねみな

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    🐉🔥
    「ひらいて〜」を応援するつもりがダメダメだったのでここで供養しておきます。

    はじめてのイベント 出演依頼をもらったとき、「随分珍しい組み合わせだな」と思った。それはよくあるステージイベントで、司会の人の進行に沿って受け答えをしたり、会場に来てくれたファンの皆さんと交流をする――握手やサインなど――が主な内容だ。珍しいのは一緒に出演するもう一人のジムリーダーくんで、多分、恐らく、確実に彼のおかげでイベントのチケットは即日完売だったらしい。
     イベントのお仕事で一緒になるのは初めてなので少なからず緊張する。頻繁にテレビや雑誌に出ている彼とは違い、ぼくはそういった華やかな場所に慣れていないし、そもそもジムリーダーに復帰してまだ一ヶ月くらいだ。昔とはきっと勝手が違う。粗相をしないように、迷惑をかけないように気をつけなければ。
     控室でユニフォームに着替え、よし、とお腹に力を入れる。彼はスタジアム内に設置されたステージで打合せをしているらしい。壁のモニターにまだお客さんの入っていないスタジアムの様子が映し出されている。スタッフさんらしき人と笑い合う彼の顔を見ながら、ぼくはもう一度、よし、と小声で呟いた。
    「おはようございます!」
     少し遠いところから挨拶をすると、ステージ周辺にいた人たちが弾かれたようにこちらを向いた。しまった。声が大きすぎた。もう少し近くに行ってから挨拶をすれば良かった。最初から失敗してしまったぼくに、こちらを向いた人たちは笑顔で挨拶を返してくれた。ほっとしつつ、一人一人に頭を下げながら、スタジアム中央のステージへ向かう。と、一際目立つ長身が目に入った。今日の主役の彼だ。
    「おはようございます、カブです。今日はよろしくお願いします」
     台本を見ているのか、ぼくに気づいていない背中に声をかけ、頭を下げる。
    「あっ、えと、ハイ」
     なんだか歯切れの悪い返事だ。頭を上げてもぼくの目には彼の背中しか映らない。不思議に思う前に少し胸が痛む。なるほど、あまり乗り気ではないようだ。確かに珍しい組み合わせだとは思ったけど、彼の預かり知らないところで上の人たちが強引に決めた出演だったのかもしれない。もしそうだったら申し訳ないことをしてしまった。なおさら粗相のないように、迷惑をかけないように頑張らないと。
     よし、と今日三度目になる気合いを入れ、
    「こういったイベントはキバナ選手の方が慣れているでしょうから、ご迷惑をかけないように努めます。ぼくが何か余計なことを言いそうになったら足でも蹴飛ばして教えてください」
     至極真面目にお願いをすると、
    「は!?」
     ものすごい速さで彼がこちらを振り返った。首が折れてしまわないか心配になるくらいの勢いに目が丸くなり、
    「け、蹴る!? オレが!? カブさんを!? ななな何言って、いや、ありえないですから! オレが蹴るくらいならオレのこと蹴ってください!」
     捲し立てるような声と言葉とぐいぐい詰められる距離に、思わず背が仰け反ってしまう。上から覆い被さるように、前のめりになってぼくの顔を覗き込んでくる彼と目を合わせたまま瞬きしかできない。
    「ご、ごめんなさい……」
     勢いに圧倒され、わけもわからず謝ると、
    「ぎゃあっ! すみません!」
     奇声を上げながら飛び退き、今度は彼が頭を下げる。すみませんすみませんと何度も謝られ、なだめようにもタイミングがつかめない。助けを求めようと周りにいるスタッフさんに視線を投げると、みんな小刻みに肩をふるわせている。どうも笑いを堪えているらしい。
     困った。どうすればいいんだろう。
    「あの、カブさ……じゃない、カブ選手」
    「は、はい」
     助け船が出されることはなく、ぼくはおずおずと顔を上げた彼と目を合わせる。
    「その、握手、してもらっていい、デスカ……」
     差し出されたのはぼくよりも大きな手で、
    「会えるの、すごく楽しみにしてて、や、あの、して、ました……」
     緊張を隠さない、隠せない、揺れる視線と真っ直ぐに結ばれた口。微かに震える指先。ぼくよりもずっと大きな身体がなんだかとても可愛らしく見えてしまって、
    「ありがとう」
     心の底からほっとして、その手を両手で包む。
    「今日はよろしくお願いします」
     不慣れながら、精一杯の笑顔で改めて挨拶をすると、
    「ひゃいぃ……」
     彼は泣きそうな声を出し、その場にへたり込んでしまった。
    「だ、大丈夫かい!?」
    「全然大丈夫です……死にそうです……」
     何だかよくわからないけれど、どうも今日はぼくが頑張らないと駄目らしいことだけは理解した。涙目で見上げてくる彼の手を握り、
    「こういうの慣れてないけど頑張るからね、ぼくに任せて」
     目いっぱいお腹に力を込めて、そう言った。
     
      * * *
     
     ――あの時はカブさんに抱かれても良いと思いました。
     雑誌のインタビュー記事があちこちで話題になるのは、まだちょっと先のお話。
    「実際はオレさまが抱いてるんですけどねー」
     雑誌を見ているぼくを抱え込みながら、えへへ、と笑うキバナくんのほっぺたをつねるのも、まだちょっと先のお話。
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    先導する暁さんがポケットから取り出した鍵を差し、扉を開けて中に入る。
    ベッドや机、冷蔵庫、調理器具、洗濯機など。人間が生活するために必要最低限の家具は全て揃っている1LDKの間取りの部屋。
    しかし、そこに誰かが生活している気配はなかった。

    「ここ、誰かの部屋?」
    「ああ。今日から吾郎が住む部屋だ」
    「…え?」

    あまりにも当たり前のように言うから、聞き流しそうになった。

    「どういうこと?引っ越すの?それにしては…」

    狭すぎる。
    初めて会った日、彼は僕が自分と同じくらいの高さまで背が伸びると言っていた。実際に今の身長は暁さんと大差ない。そんな180cm間近の男二人が暮らす部屋にしてはこの間取はあまりにも無理がある。
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