今日こそは 恥ずかしくて、申し訳なくて、ずっと言いそびれてしまっていた。
君がいつも当たり前のようにくれる言葉を、ぼくは一度も返したことがなくて。ありがとうって、それだけしか言えなくて、だから、今日は。今日こそは。
「はい、これカブさんに」
見慣れた笑顔で手渡れたのは小さな紙袋だ。小さいのにとても豪華な紙で、中に入っているものもきっとそれに見合うものに違いない。
「えっと、なんだっけ、ホンメーチョコ? 一番好きな人にあげるやつ、です」
えへへ、と照れくさそうに、嬉しそうに彼は笑う。
「カブさんの口に合うといいんだけど」
それは大丈夫。食べ物の好き嫌いはほとんどない。そんなことより。
「あの、キバナくん」
なあに?と甘い表情を浮かべ、彼は小首を傾げる。こんな顔をする子なんだって知ったのはごく最近だ。こんな顔を見せるのがごく一部の人――ぼくだけだと知ったのは、ほんのついこの間のことだ。
「あの、ぼくね」
「あ、だめだめ、それ以上はやめて」
大きな手のひらをこちらに向けて、「NO」の仕草をする。
「何も言わずにもらっといてください。ほんと、それだけでいいんで」
違うよ、そうじゃなくて。
「なーんにも言わないで。オレ、なーんにも求めてないから。マジで、ほんとに」
じゃあなんでそんな顔をしているの。寂しそうな、困ったような、泣きそうな顔をしているんだい。
「オレのこと、フッたりしないでください。それだけでいいから」
ね、と念を押すように言い、えへへ、と笑う。そう、君がいつもそんな顔で笑うから、ぼくは。
ぼくは、今日こそ。
「キバナくん!」
「わ」
思いのほか大きな声が出てしまい、驚くキバナくんを見上げながら自分でも少しびっくりして、
「ぼくも! 大好きです!」
そのままの勢いで声を張り上げる。
きょとんとした彼はまばたきをするだけで、だからもう一回、
「ぼくも! キバナくんの! ことが!」
「ちょ、ちょちょちょっとタンマ、待って待って待って」
「むぐ」
手のひらで口をふさがれた。
「ぎゃっ! すみません!」
と思ったら弾かれたようにすぐ外され、あわわ、と彼が自分の手のひらとぼくを交互に見つめてはうろたえている。
「フラなければいいんだよね?」
ちょっと意地悪く尋ねると、くしゃ、と顔を歪めて、
「……はい」
消えそうな声で、泣きそうな顔で、キバナくんは頷いた。
「あー、ご存知ないかもしれねえんですが、ここ控室です」
ネズくんに声をかけられ、二人で真っ赤になるのはすぐ後のこと。