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    higasaniwa

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    higasaniwa

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    蟻凛すけべ小説〜前編〜
    多分続く

    シャワールームの秘密 きっかけはいつだったか。青い監獄で蟻生と出会って程なくーーー二次セレクションの最中に、生ぬるいものではあったが彼と関係を結ぶことになった。理由は酷く単純で、練習後にシャワールームで自慰をしていたところを目撃されてしまったからだ。凛の名誉のためにも断っておくが、決して凛は性欲が旺盛な方ではない。むしろ淡白ですらある。そもそも物心ついてからサッカーばかりに熱中して、年頃になっても色恋沙汰は二の次三の次どころか一瞥もくれなかった。生理的なものも溜まりはするが、フィールドを駆け回っていれば忘れてしまうため、手淫を施すのも余程切羽詰まった時のみ。そのタイミングさえ、殆どは試合で身体が昂ったことが原因なのだから生粋のサッカー狂だ。
     さて、そんな凛が蟻生に自慰行為を見られてしまったのは、本当に運が悪かったとしか言いようがない。その日はチームレッドの面々で2対2のミニゲームを通して実戦的な練習を行った。妙に感覚が冴え渡っていた凛は、針に糸を通すような繊細かつ強烈なシュートで幾度もゴールネットを揺らした。その快感と興奮が性欲と絵の具のように混ぜられたのが良くなかった。収監以降、いよいよ性処理が疎かになっていた身体は簡単に熱を帯びる。重たくなる下腹部が不快で、兎に角人の目がない所にと個室のシャワールームが並ぶ空間に駆け込んだ。大体の人間はきつい練習の疲れを癒すのに大浴場へ向かうので、シャワーで済ます者は少なく、すぐにでも汗を流してしまいたいか、或いは湯船に浸かるのすら億劫な程に消耗している奴しか寄りつかない。予想通り誰もいない場所で、凛は一番奥の個室に滑り込み扉を閉めると細く長い吐息を漏らした。
    蛇口を捻ってお湯が出る前の嫌に冷たく感じる水を浴びる。冷たすぎるくらいが、熱を帯びた身体に気持ちいい。

    「んっ」

     凛は勃ちあがった性器におずおずと手を伸ばした。行為自体に慣れていないせいで、いたずらに力が入る指先。単調に擦りあげることしかできない掌は、雑な刺激を与えるだけで決め手になる快楽にまでは届かない。いつもはどうしていたかと考えても、スマホで適当に使えそうなネタを見繕って適当に終わらせていただけに、いざ身体ばかりが昂って何もないという状態になると手も足も出ない。情事の場面を思い浮かべようにも凛の妄想力は貧弱であったし、自分の手指を女の白魚のような嫋やかなそれと思い込もうとしても、結局節が目立ち始めた自分のものが目に映って満足のいく空想には浸れなかった。

    「くそっ」

     早く済ませてしまいたいと焦るほど余計思うようにはいかないもので、悪態が飛び出してくる。柔らかな場所を痛めそうな力で握っても出す物も出せず、それならばいっそ萎えてくれれば楽なのに、疲労と興奮が綯い交ぜになった身体は一向に落ち着く気配もなく、苛立ちが募った。

    「うぅ……っ、くぅ」
    「……誰かいるのか?」

     右手を動かす度に漏れ落ちる凛の声は喘ぎ声というよりも呻き声に近かった。ハードな練習の後に湯にあたってそのまま上気せる選手が出ることも日常茶飯事な青い監獄においては、凛の苦しげな呼吸も扉一枚挟んだ向こう側からはシャワーを浴びて体調を崩した誰かの呻吟に聞こえたのかもしれない。だから「大丈夫か」と心配を滲ませながら、このシャワールームの常連である蟻生は薄い扉に手をかけていた。

    「凛?」

     何の抵抗もなく開けられた扉と、少し間の抜けた声に、ただでさえ回っていなかった凛の頭は思考を放棄する。お互い全裸で見つめ合うこと10秒。

    「すまない」

     先に我に帰ったのは蟻生だった。独特の美意識に則って行動する彼は、汗をかいたままうろつくことを酷く嫌い、練習後はシャワーで軽く身体を清める。シャワールーム愛用者の数少ない一人だ。ほぼ人がいない場所に珍しく先客がいたと思えば相手は凛で、しかも痛いほど性器を張り詰めさせているのだから、驚きもするだろう。長い髪を翻しながら後ろに一歩下がるが、いつものスマートな仕草は失われ、足を縺れさせては盛大によろめいている。そこでようやく凛は鍵を閉め忘れていたことに気がついた。が、彼も未だ混乱の真っ只中にいた。それを示すように、凛の口からはとんでもない言葉が飛び出した。

    「このままでいい」

     「何がだ?」と言う蟻生の真っ当な疑問は、凛が強い力で個室に引き摺り込んだことで行き場を失った。ガチャンと乱暴な音と共に扉を閉めると、今度は鍵を掛けることも忘れない。硬質な金属音の反響がやめば、途端に二人分の呼吸だけが満ちる密室が完成する。
     凛のこの奇行は改めて考えれば、行き過ぎた羞恥心の中で冷静さを装おうとした結果だった。男同士で同じシャワールームを使うことに何を恥じらう必要がある、無闇に照れたりするから余計に意識することになるのだと、慌てふためいてぼんくらになった頭は言い訳にもならない言い訳を並べる。未だ勃ちっぱなしの性器のことは最早忘却の彼方だ。
     普段澄ましている奴ほど、取り乱した時落ち着くまで時間がかかる。そして、人間は自分よりも混乱している生きものを見ると1周回って頭が冷えるものだ。蟻生と向かい合って硬直している凛と、現状を飲み込んだ蟻生の間に、わずかな温度差が漂い始める。サッカーに関することだけは機転が効くのに、フィールドを離れてしまうと年相応の幼さと思春期の危うさが顔を覗かせる凛と、普段のナルシシズムに溢れた言動のせいで気づかれにくいが大人びた一面を見せる蟻生では、蟻生の方がより上手く切り抜けようとしていた。

    「2人で入るには狭いだろう」
    「……そうか?」

     凛の高いプライドを傷つけないように、個室の狭さを理由にしてこの場を離れようとした蟻生だったが、肝心の相手がその意図を理解していない。その股間のノットオシャなものを片付けろと言っているんだと言う文句を無理矢理飲み込んで、蟻生はまたゆっくりと言葉を選ぶ。直接的に指摘すれば逆鱗に触れるだろうが、婉曲すぎては伝わらない。
    「凛、お前はまだゆっくりシャワーを浴びた方が良いだろう、随分身体が火照っているようだが?」
    蟻生の精一杯の優しさに、ようやく凛は自分がシャワールームに駆け込んだ理由と猛ったままの陰茎に意識が及んだ。

    「っ、あ」

     そこからはもう赤くなったり青くなったりする凛の百面相劇場だ。長い下睫毛は震え、小さな唇はわななくだけで、意味のある言葉は残らない。凛は今日だけで一生分の動揺を摂取したのではないだろか。自分で伝えておきながら、蟻生は凛のことが哀れに思えてきた。クールに見えても年頃の少年だ。痴態を他人に見られて冷静であれという方が難しい。気にすることはないとも、誰にでもあることだとも声をかけようとしたが、いずれにせよ負ったばかりの傷口に塩を塗り込むようなものだと、蟻生は安っぽい慰めを吹き出しの外に捨てる。そのまま後ろ手で静かに個室の鍵を開けて場を去ろうとしたが、ぎゅっと手首を掴まれたために蟻生の脱走計画は叶わなかった。骨が軋む程の力で蟻生の手首を押さえる凛は、長い前髪の隙間から人を殺したような目で蟻生を睨みつけていた。

    「…………待て」
    「まだ何かあるのか」
    「……あ、え」
    「ん?」
    「付き合えって言ってんだよ、お前の耳は飾りか!?」

     恥も外聞も捨て去って開き直ったエゴイストに怖いものはなかった。

    「ここまで見たなら良いだろ、相手しろよ」
    「まさか、俺を抱く気か!?」
    「誰がお前みたいなデカブツ抱くか!!」

     密室の中、折角声を顰めて話していたのが全て水の泡になる大声をあげ、二人揃って気まずい表情を浮かべた。幸いなことに周囲に蟻生と凛を除いて人はおらず、シンとした静寂が流れる。

    「………蟻生、手、貸せ」

     慣れてないから上手くできなかったという言葉は弱々しく、凛の口の中で溶けた。二人っきりのシャワールームでなかったらきっと蟻生の耳には届かなかった。

    「気持ち悪いならとっとと出ていけ、頭冷やして戻る」

     傲慢無礼な十六歳が見せるしゅんとした姿に、思わず蟻生は息を呑んだ。監獄の中で、誰よりも孤高である存在が見せていい顔ではない。伏せられた重い睫毛も、欲の中に屈辱を浮かべた瞳の色も、血が滲むほどに噛み締めた薄紅の唇も。表情を作るパーツひとつひとつにえも言われぬ色を感じ取って、目で追うべきではなかったなという後悔と、普段は押さえ込んでいるような薄暗い欲望が蟻生の中でじわりと垂れ込めた。こんな顔をされて、あっさりと引き下がれる男がいるのか。

    「……いいのか?」
    「うるせぇ、いちいち言わなきゃわかんねぇのかよ、この木偶の坊が」
    「……終わったら、このことは忘れることだ」

     蟻生の手で凛はそっと身体の向きを変えられる。背後から腕をとられ、目の前に備え付けられていた鏡に手をつかされる。鏡の中で首元まで紅潮した自分自身と目があって、凛は堪らずに顔を背けた。
     背中に蟻生の体温を感じる。身体を支えるように左腕が腰に回される。鍛えてあるので、けして貧弱ではない凛の腰回りを抱いてなお遊びのある腕の長さが憎らしい。それに日頃は服で多い隠している場所に他人の体温が触れて少しこそばゆい。不慣れな感覚に身を捩るとそれを咎めるように腕の拘束が強くなった。
     勝気な物言いで蟻生を誘ったものの、いざ肌が触れ合うと凛の身体はしっかり強張ってしまっている。まだまだおぼこい凛だ。僅かにでも緊張を解いてやろうと、蟻生は凛のまるい月のような頭部を軽く撫でるが、それはお気に召さなかったらしく虫でも叩き落とすかのように払いのけられた。

    「余計なことはするんじゃねぇ」
    「これは手厳しい」

     必要以上の接触は不要とばかりの凛に、遠慮もいらないかと判断した蟻生は硬いままの性器に触れる。そう思えばすぐに、肉の薄い骨ばった手指は離れ触れるか触れないかの距離と力加減で凛を焦らす。視覚的にも、大きな手がそこを包み込んでいることに妙に気持ちが掻き立てられた。黒く塗られた爪がチラチラと動くのも扇情的で、一人で女の細い指を夢想した時よりもよっぽど興に乗った。

    「はー……ッ」

     自分の手ではないというだけで、恐怖を覚えるほど神経が快楽を拾う。力任せの単調な自慰しか知らなかった凛には、蟻生のもったいぶる手の動きが耐えられなかった。触れて欲しいと思った場所を掠めた指先はすぐに逃げる。強い刺激を求めればパッと振り解かれる。

    「くそっ、下手くそがッ……!」

     熱っぽく乱れた吐息に未だ強がりを忘れない罵倒がアンバランスな色気を醸す。首をもたげた性器からは先走りが溢れ、泥みたく優しい愛撫を施す蟻生の掌に擦り付けるように凛は腰を振り始める。やはり淫楽には慣れていないらしく、すでに鏡についた腕で身体のバランスをとるのがやっとのようで、体重のほとんどは蟻生の片腕に乗っており、脚はガタガタと震えて今にも崩れ落ちそうだった。
     蟻生が指を滑らす度に、凛が腰を揺らすたびに、くちゃくちゃと厭らしい水音が個室の中に響いた。耳を塞ぎたくなる音に、凛が嫌々と首を振る。いつの間にか蟻生を非難する言葉はなりを潜め、小さくて形のいい唇からは濡れた呼吸だけが行き交っている。先程までイけなくて苛立っていたのが嘘のように、凛は快楽に流されていた。

    「凛」

     もう少しで楽になれると絶頂を期待した瞬間、背後から甘ったるい声で名前を呼ばれた。重く鼓膜を揺さぶる声色に思わず顔を上げれば、鏡越しに蟻生と目が合った。それが良くなかった。どことなく色が滲んだ切れ長の瞳に肌が震えた。

    「っ………あ、うぅ〜ッーーーー!」

     鏡の中の蟻生に見つめられたまま、呆気なく吐精した。途端に荒波が引いていく感覚。息をする毎に熱は冷めていくのに、自分の精で汚れた蟻生の手から目が離せなかった。

    「凛…立てるか」
    「ん」

    一拍置いて、蟻生はゆっくりと腕を解いた。その手でシャワーホースをとり、さっと性の痕跡を流してしまう。そして文字通り2人の関係も水に流れて消える。

    「2人揃って出るのは嫌だろう、落ち着いたら出てきたらいい」

    そう言って蟻生は何事も無かったかのように個室を後にした。残された凛は青いタイルの敷き詰められた床に力なく座り込む。
    忘れろと言われたけれど到底忘れられそうにない感覚に頭を抱えては、溜息が零れた。
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    higasaniwa

    MAIKING蟻凛すけべ小説〜後編①〜
    週末に書ききって楽になりたかったけど終わらなかった。進捗報告。
    シャワールームの秘密 そこからは、ただ雪崩れ込むだけだった。
     蟻生の掌が右頬を滑りながら耳元を掠め、後頭部を包み込む。はらはらと梳かれるように髪の一本一本が指先で掬われる。そのまま襟足まで降りてきた手には力が入っていないのに、身じろぎ一つ満足にできなかった。凛がキスをされると息を止めた瞬間にはもう唇が重なっていた。

    「ん」

     細やかに角度が変えられながら繰り返される口付けに、柄にもなくおずおずと目を閉じてみる。スローモーションで瞼を下ろせば、まるでカメラのシャッターをゆっくりときった時のように、蟻生の重い色をした瞳がぼやけた残像になった。

    「っ、ぅ!?」

     凛が瞼を伏せたのを合図にして、軽やかに啄まれるだけだった口付けが深いものに変わる。無意識のうちに小さく開いていた唇を割って潜り込んできた蟻生の肉厚な舌先が凛の薄いそれを絡めとる。生温かい他人の舌に口内を弄ばれて、喰われると本能的に察した身体が跳ねる。思わず後退りで逃げようとするが、首元を支える蟻生の右手と、腰に回された左手がそれを許さない。半歩分後ろにずれた右足に乗った体重で重心が崩れ背中がしなった。この程度でよろめくヤワな体幹はしていないはずだが、絶え間なく続くキスの感触と上手く継げない呼吸のせいで、凛の身体は今にも倒れてしまいそうだった。強がりで踏ん張っていた足からもいよいよ力が抜ける。ずるりと蟻生の腕から抜け落ちそうになる瞬間、あてどなく宙を彷徨っていた凛の手が、転けることを避けようと反射的に蟻生の首元に縋りついた。それに気をよくしたのか、蟻生は更に奥まで凛の咥内を貪った。あまりの息苦しさに、舌を舌で押し返すというなけなしの抵抗を試みるが、意味を成さずに終わった。むしろ、自らに身体を預けながら僅かばかり逆らってみせるその仕草は、男を一層煽るものだと初心な凛は気づいていない。
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    higasaniwa

    MAIKING蟻凛すけべ小説〜中編〜
    あとで加筆修正するかも。お話はもうちょい続く!
    シャワールームの秘密 それっきりのはずだったのに。
    あの日以降、意識的にシャワールームに近づくことを避けていた。にもかかわらず、トラウマを植えられたと言っても過言ではない場所で、件の男と鉢合わせてしまい、凛は盛大に舌打ちを鳴らした。

    「………何でいるんだよ」

    朝起きて歯を磨くのを忘れたら気持ちが悪いように、昼にスポドリを用意し損ねたら落ち着かないように、日々の中に埋め込まれたルーティンを欠くと妙に気が休まらない。一度や二度抜けてしまっても死にはしないのに、厭にソワソワして注意が散漫になる。気にしない人間はとことん気にしないだろうが、凛のように神経質なまでに己を律する性格ではそれも難しいことだった。
    チームに潔を迎え入れ、海外選抜メンバーとの試合にに臨みーーーー結果は目も当てられない点差になったがーーーー二次セレクションは終わった。今はボールに触ることもなく、選抜通過メンバーが出揃うまで語学の勉強を課せられている。他の有象無象を待っている時間も、中学レベルの英語の問題集を解く時間も、何もかもが惜しい。こんなところで足踏みしている暇はないのにと、凛は酷く焦燥に駆られていた。
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