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    oyoy0211

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    oyoy0211

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    プロポーズ五乙。モブ補助監督が出ます。

    バラを投げたらワルツを踊ろう「あーもしもし伊地知いる?憂太が帰ってくる日に合わせて花束用意してくんない?もちろんバラね」
    そんじゃよろしく、と一方的に締められた電話は決して留守電では無い。運転していた伊地知に変わってスマホをスピーカーに切り替えていた若い補助監督は伊地知の顔を伺う。
    「明後日、ですよね?乙骨術師」
    分かります、気持ち、よく分かります。怪訝な顔をした補助監督に伊地知は心の底から共感したかったが、如何せん業務中である。ごほん、とひとつだけ咳払いをするに留める。
    「ええ、五条さん毎回乙骨くんを迎えに行く時に必ずバラの花束持っていきますから、明日五条さん迎えに行く途中でお店に取りに行きましょう」
    「あっはい、そうなんですね!気をつけます!」
    そう言って補助監督はボールペンを取り出す。五条術師、バラの花束、乙骨術師の迎えに毎回。信号機の前で一瞬見えたメモ用紙には、赤く照らされ同化したマルが生真面目にも添えて書かれていた。
    最も私用も私用過ぎるこの頼み事。五条悟に対する伊地知潔高という男の信頼と学生時代の上下関係で成り立っているので今後生かされることはないだろう。いや、ない方がいい。
    元気があって素直でハキハキとした性格である彼女は、呪術界よりも一般社会の方が向いているのでは無いかとは伊地知は思ってはいた。しかしそれは杞憂で、特に何も、同行した術師がどれだけ酷く、惨たらしく亡くなっても変わらず、彼女は無事2年目を迎えようとしている。
    つまるところ同期の中でも優秀な彼女はたった2年目にして特級の担当を任せる為に今こうして伊地知に同行していた。
    メンタル面に関しては自分より向いているのではないかと正直伊地知は思っている。どこに出しても恥ずかしくない自慢の後輩だ。
    「あの、そういえば五条さんバラの本数って言ってなかったですよね?大丈夫ですか?」
    「さあ……どうでしょうね、いつもあんな感じなのでこっちもお店に任せてましたね」
    そういえば最初にバラの花束を頼んだ時に本数で意味合いが変わってくるんですよと言われたのを思い出す。
    その時は乙骨の驚いて、それから困った顔でへにゃりと受け取るのを見るのが五条悟の目的であろうと考え、海外から帰ってくる人を驚かせたくて、と言って見繕ってもらった大きさを毎回頼んでいた。
    なのでバラの本数までは本人でさえ数えていないだろう。
    「24本とか?24時間あなたの事を思ってましたーって、ピッタリですよね」
    「あーその倍は多分ありますね」
    「48時間……?」
    「ふふ、愛ですね」
    信号が青に変わりそこから左へと曲がる。そこからしばらく道なりに行けば呪術高専に着く。
    「それにしても五条悟に花束ですかあ」
    すっごい目立つでしょうねえ、と彼女は呟いた。
    それはその通りで、海外帰りの乙骨を到着口で待ち構えていたのはバラの花束を抱えた大変見目の美しい男とドラマの撮影かなんだの囁きながら遠巻きに見守っていた人達だった。
    更に遠巻きにその様子見ていた伊地知でさえ、沢山の人に囲まれ固まっていた乙骨に五条が恭しく花束を渡す瞬間は何かのワンシーンかと思うくらいなのだから、それそれはもう誰が見ても様になっていた。
    「ええ、なので人が集まらないように夜に着くようにしてますが……」
    「あっ伊地知さんすみません、五条さんからです」
    話を遮る様に伊地知のスマホが鳴り出す。即座に補助監督が着信に出るとはい、はい、と相槌を打ったと思ったら次第にえ?などそこに困惑が混じっていく。任務中に何かあったか、はたまたこちらがミスをしたか。
    出来ることならスピーカーにして欲しいが、代わる様に言ってこないということは大した用事では無いだろうと願いつつひたすら道路を進んでいく。
    はい、分かりました、聞いてみますと補助監督は電話を切ると。
    「あの伊地知さん」
    最後まで困惑が消えないまま彼女は言う。
    「バラの花100本って明後日までに準備できるんでしょうか?」


    結果的には間に合った。まず予定通り花束を受け取り、その足で窓が営んでいる小さな花屋で無理を言ってその店のバラ全てを買い占め、そのまま束にしなおして貰った。
    最悪都内中を回ることも想定したが昨日が仕入れ日だったことも重なり何とか百本揃えられて余裕を持って渡せたが、その花束は今、宙を舞っている。
    ブーケトスよろしく受け止めようとする補助監督を伊地知は腕を掴み止めた。二リットルペットボトルくらいの重さのそれをあの高さから受け取るのはよろしくない。投げられた花束は重力に従い空港の床に落ちる。
    「悟、さん?」
    身軽になった五条は真っ先に帰ってきた乙骨を抱きしめていた。その間にも落ちた花束を拾う補助監督やそこに駆け寄る伊地知のこと、そして疎らにいる一般人達でさえも全てを無視してシーンは進んでいく。
    「憂太、寂しくなっちゃった、結婚しよ」
    ぎゅうぎゅうと抱きしめる力を強める五条の顔はまるでおいてけぼりにされた犬の様だった。
    伊地知は思い出す。いつもより乙骨の出張が長引いたこと。そして今年は戦争や災害。なにより最近だと大規模な飛行機事故で社会としての平穏が乱れているのか、例年と比べ呪霊が多くなっていた。
    恋人のそんな情けない顔を見た乙骨はどんな花束を受け取った時よりも驚いた顔をして、そして五条の背中に手を回す。
    「どうしたんですか急に」
    「だって憂太に何かあった時に内縁の妻ですって言いたくない」
    「親戚ですって言えばいいじゃないですか」
    「やだよ、親戚なんていっぱいいるし」
    「僕は悟さんひとりですから」
    ね、と五条の背中をぽんぽんと乙骨は叩いて慰める。
    「憂太僕ね、憂太の家族と同じくらいちゃんと憂太の大切な人になりたいよ」
    「そうなったら寂しくなくなる?」
    「絶対……いや多分」
    「どっちですか」
    ふふ、と情けない恋人をぎゅうと改めて抱きしめ乙骨は微笑む。
    「僕も悟さんの大事な人になりたいですし、それに悟さんに応えたいですから」
    「ですから?」
    「結婚しましょう」
    「……本当?」
    腕を離すと五条は正面から顔を見合わせる。放った言葉とは裏腹に五条の顔は次にくる言葉に対する期待が滲んでいた。それを見た乙骨は苦笑する。
    「本当です」
    「やった」
    勢いよくまた五条が抱きしめるので乙骨の足元がふらついた。まるでステップを踏んでいるかのように見えるのは二人がこの中で楽しそうに笑い声をあげているからだ。
    「嬉しい?」
    「嬉しくて気が狂いそう」
    劇的な、現実味を帯びないプロポーズを見せられ、ただバラの花束を持って見守ることしかできない。エキストラの一人になりかけていた伊地知の横で補助監督が呟く。
    「なんか人間……なんですね、五条さんも」
    「……はい、ええ、まあ」
    「今までこんなに笑ってるの見たことなくて」
    補助監督はそう言う。が、伊地知は知っている。
    人の成長を喜べる人。自分を生かしてくれた人。何かあれば恋人が事故に巻き込まれないか不安になって、プロポーズが上手く行けば嬉しくて周りが見えなくなる人。
    「少なくとも五条さんはちゃんと幸せになるべき人間です、もちろん乙骨君も」
    「はい、そうですよね」
    そう言うと補助監督は持っていた紙袋から何かを取り出す。小さな花束。伊地知にすら隠していたのだろう。呆気に取られていると窓の方と相談してたんです、と補助監督は言う。
    「……いつの間に?」
    「100本はいつでも贈れますけど108本はプロポーズにしか送れませんから……伊地知さんそっち持ちます」
    伊地知は腕いっぱいのバラを補助監督に預けると代わりに白いバラの花束を受け取る。腕の中の八本のバラは青い包み紙の中でその白さを際立たせていた。
    「ちなみに八本はあなたの思いやり、励ましに感謝しますだそうです」
    「なんか、ぴったりですね」
    「そうですね、本当に」
    顔を向かい合わせてお互い笑い合うと、伊地知と補助監督はワンシーンの中へと足を踏み出した。それは二人を祝福する為に、そして自分達がどれだけ二人の幸せを願っているのかを知ってもらう為であった。
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