なんでも可愛い兄様「兄様、見てください! とても可愛いですね」
そう言って、目をきらきらと輝かせて見つめた弟を見て、百之助は眉をきゅっと寄せた。
水族館の、みやげものを売る一角は、薄暗かった水槽になれた目には、いささかまぶしい。パステル調の壁紙、こどもたちを引きつける、デフォルメされた魚や動物たち。親の袖を引いて、あれが欲しい、これが欲しいとねだるこどもたち、ぬいぐるみをとっかえひっかえして、どれが可愛いだのなんだの言い合う女子高生たち。自分たち、というより、もっぱら自分の場違いさを思い知らされるような気がする。だから、表情が険しくなったのだ。決して、そこに並ぶ何よりも、弟兼恋人の笑顔がまばゆく愛らしいから、緩みそうになった顔を引き締めようとしたわけではない。そうやって自分を納得させながら、抜群の反射神経、頭の回転の速さを無駄遣いして、百之助はすこしばかり不機嫌そうな顔をしてみせた。
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