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    maybe_MARRON

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    左馬一
    バレンタインポストでいただいた素敵なネタで、TDD期のバレンタイン

    その気持ちごと 誕生日は、その日付にちなんだ棒型のチョコ。そしてバレンタインは、これまたスーパーで買える定番のチョコ菓子。ビニール袋ごと差し出されたそれを、左馬刻は少しだけ呆れながら受け取った。
    「料理するようになったんじゃなかったのかよ」
     どかりとソファに掛けたまま、ビニール袋の中から取り出した一つをくるくると見回す。陳列しているものをガッと適当に取ったのか、あるいはファミリーパックからバサバサと取り出したのか。個包装の見慣れた菓子が、小さめの袋にたくさん入っている。
     何回見ても、そこにはメッセージの一つすら見当たらなかった。受験シーズンでもあるこの時期、「きっと勝つ」に掛けて、小分けの袋にはご丁寧にメッセージ欄まで用意されているというのに。
    「飯作るのと菓子作るのは全然違うんですって」
     どうせ知ってるんでしょ、と一郎は立ったまま、拗ねたように唇を尖らせて見下ろしてきた。
     その問いには答えなかったが、まあ確かに知ってはいる。ある程度大雑把に作っても大抵の料理はなんとかなるし、味見をしながら自分の好みに整えていけばいい。
     けれど菓子類は別だ。上手く作るにはどうしたってコツが必要で、きちんと計量するだけでは上手く仕上がらないし、物によっては焼き上がるまで味見ができないということもある。自ら積極的に作ることはないが、幼い頃に作った合歓の誕生日ケーキも、合歓がバレンタインに友達にあげるからと言って一緒に作ったトリュフも、普段の料理の何倍も疲れたことは覚えている。
    「……色気ねぇなぁ」
     くつくつと笑う左馬刻に、一郎は相変わらず唇を尖らせたままである。
     ビニール袋のまま差し出されたそれに好意が混ざっていることは、チームメイトが誕生日とバレンタインの両方の意味で大量にもらっていたチョコレートを見ていなかったら気づかなかったかもしれない。ラッピングくらいすればいいものを。それかせめて、ビニール袋から出して寄越せ。
     少なくとも、差し出された時はそう思ったはずだった。けれどその不慣れな様子と、不貞腐れたような表情に似合わない耳まで赤くした姿が、それなりに気持ちの込められたものだということを示していて、どうしたって胸の内はふつふつと柔らかな熱を持つ。
    「でもまあ、一応作ろうとはしたんだな?」
     弟たちと共に暮らせるようになって、ようやく料理を始めたばかりのこいつが、他のタイミングで菓子作りをしたとは思えない。
     ほぼ確信を持って尋ねれば、一郎はギク、とわかりやすく顔を引き攣らせる。揺れるオッドアイに左馬刻はニヤリと口元を歪め、持ってんなら出せ、と手のひらを差し出した。
     観念した男が差し出したのは、少し歪なリボンが結ばれた赤い袋だった。
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