kiss me, darling さまとき、と普段より舌足らずな声で名前を呼ぶ。ソファに座ったまま両手を広げて「ん」とだけ言えば、キッチンに立っていた男は一瞬だけ目を丸くして、それから呆れたようなため息を吐いた。ぽす、ぽす、とスリッパがのんびり音を立てながら近づいてくる。目の前に立った男はこちらを見下ろしながら、わざとらしく再びため息を零した。
「この酔っ払いが」
広げていた両手で腰の辺りに抱きついてみる。大きな手のひらが乱暴に髪を撫でた。犬のような扱いも今は心地よくて、身を任せながら鳩尾の辺りにぐりぐり頭を擦りつける。へらへらしている自覚はあった。
ソファの前のテーブルに散らかっている、二本の空き缶。多少のつまみと口直しのアイスも全部食べ終えて、そこに残っているのはただのゴミだ。
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