南国シルメル 押し寄せる白波、吹き抜ける潮風、青い空を翔る鴎たち――初めての南国はメルセデスにとってとても美しく、魅力的で、心を揺さぶるものだった。これほどまでにそのような感情に満たされるのは、彼も一緒だから、だろう。メルセデスはちらりと彼の方を見た。彼――シルヴァンは何やら皆の為にと色鮮やかなジュースの準備をしている。その顔は真剣で、けれど楽しそうで、メルセデスの頬が緩んだ。
「ねえ、シルヴァン」
メルセデスは声をかけた。
「あなたがもし良ければ、だけど、後で少し砂浜を歩いてみない〜?」
大きな椰子の木の下、メルセデスは提案する。シルヴァンとメルセデスは揃って暑さが苦手な為、ベレスやフェリクス、それからイングリットのように海には入らず、木陰でのんびり時間を紡いでいたのだ。
「ああ、君と一緒なら喜んで」
「ふふっ、ありがとう〜、シルヴァン。それにしてもここは綺麗なところね〜」
穏やかな目でメルセデスが言うと、シルヴァンも目を細める。頷く彼も、そんな彼の瞳に映ったメルセデスも、とても幸せそうに笑っている。ここに来られて良かった、同じ思いを胸にふたりは青空を見上げた。