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    月咲ひたき

    FEとか原神とか。推しカプと推しキャラを書いたり描いたりする予定。

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    月咲ひたき

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    原神 鍾離×甘雨(鍾甘)

    仮面 彼女に名を呼ばれる度に、胸の奥に痛みのようなものが走る。鍾離はそれを否定することが出来ない。彼女――甘雨は彼が普通の人間ではないことを知らない。璃月の葬儀屋「往生堂」の客卿。今の彼はそんな仮面を被っている。いつかは話さねばならないことだと、鍾離はちゃんと分かっている。彼女が呼ぶ「鍾離」という名も、立場も、何もかもが仮初めのものであると。
     
    「……鍾離さん?」
    「あ、ああ、甘雨か」
     璃月港の中心部にある、宿の一階。鍾離が椅子に座し、物思いに耽っていると彼女――甘雨が不思議そうに鍾離の方に目を向け、声をかけてきた。鍾離は十五分程前からこの部屋で本のページを捲っていたのだが、いつの間にか考え事の方に集中してしまい、手にした本は殆ど読み進められてはいなかった。甘雨がどのタイミングで下りてきたのかは分からない。
    「どうかなさいましたか?」
    「いや、少し……考え事をしていただけだ」
     嘘ではない。だが、その詳細は語れない。
    「……そうですか」
     甘雨は短く答えて、鍾離の正面にある椅子に腰を下ろす。時計の秒針が進む音が高く響いた。ふたりの間に漂うのはそんな音ばかり。双方の声帯が震えることは無かった。
     そして――そんな空気がどれだけ流れただろう。鍾離は本に手を伸ばしたものの、やはり読書に没頭することは出来ず、彼は本を置いた。それから甘雨の方に目を向けると、彼女はじっと鍾離の方を見ていて、あまりにも容易く視線が絡まり合う。
    「……」
    「……」
     彼女は岩王帝君との契約で「璃月七星」の秘書を務めている。彼女にとって一番の存在であり、絶対的なものでもある岩王帝君――岩神モラクス。それが鍾離の本当の名だと告げれば、彼女はどんな反応を見せるのか。早い段階で伝えておくべきだったのかもしれない、と考えればまたしても鍾離の胸の奥がズキンと痛む。鍾離は半仙の少女「甘雨」の過去を知っているが、甘雨はひとりの人間として振る舞う「鍾離」の過去を知っているわけではない。この痛みから開放された時、甘雨はどんな顔をするのだろう――鍾離はそう考える度、複雑な気持ちになる。もしも甘雨が涙を落とすようなことがあれば、彼女をこの両腕で抱きしめてしまうかもしれない。甘雨に「帝君」と呼ばれれば、きっと、今までの自分ではいられないから。


    ***
    最後のところが書きたかった。いずれまた掘り下げて書きたい。
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