無題 孤月が海面で揺れている。静かな夜。甘雨は璃月港の外れでひとり時を紡いでいた。
こんな夜に思うのは、やはり遠い過去。彼女は少女の外見をしているが、三千年以上もの長い時を生きてきた。岩王帝君――岩神モラクスの召喚に応え、彼や仙人たちと璃月の為に戦い続けた。その後も璃月の為に生きてきた。璃月七星の秘書として、ずっと、ずっと。
七つの元素が絡み合うテイワット。人は神の庇護下で慎ましやかに生きてきたが、今は――少し違ってきているように思う。人が人として生きる為に神の存在はどんな国であれ必須だったけれど、今はどうだろう、歴史は人が紡ぐと多くの者が云うかもしれない。それでも甘雨は神の為――岩王帝君との契約を貫き通す。それは絶対的で揺るがぬもの。
「そろそろ、月海亭に戻らないといけませんね」
独り言が落ち、それでも水面の月は揺れる。甘雨は岩王帝君への祈り、忠誠、信頼、敬愛を忘れない。テイワットが変革のときを迎えても、璃月から信仰が奪われたとしても、永久に。