丁呂介の家に三人が泊まった朝トントン……と軽快な音が、緑土邸の台所から聞こえてくる。
たすきがけをして前掛けをつけて、肘まであらわにした丁呂介が朝食を準備していた。
まな板の上の油揚げや玉ねぎが、丁呂介の包丁で切られていく。軽やかで手際のいい音だ。
そのまな板の隣には、火にかけられた鍋がある。煮干しがお湯の中でくるくると回っている。湯気にまじって良い出汁の香りが、ほのかに台所に漂う。
もう一方のガス台には炊飯器があり、ご飯がもうすぐ炊きあがりそうなフツフツとした音がし始めていた。
丁呂介はまな板を持って、鍋の上へ傾けて油揚げと玉ねぎを落とした。ふぅ……と丁呂介は息を吐いて、前髪を横へ流した。額には薄く汗をかいていた。火のそばは、意外と暑かった。
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