文舵 練習問題① 問1:一段落〜一ページで、声に出して読むための語り(ナラティブ)の文
すかっ、と愛想のない音を鳴らして空気だけを吐き出したシャンプーボトルに、ダンデはあれと首を傾げた。すかっ、すかっ。どれだけポンプを力強く押せども、ダンデの上向きにした手のひらには、シャンプー液の溜まる気配が一向にない。ボトルを振ろうと手を伸ばせば、持ち上げた時点でそれは既に軽いのだった。ダンデは少し思案する。ぽたりと髪先から水滴が落ちる。取れる道は二つに一つだ。このままシャワーだけで済ませるか、それとも——。そこでダンデは棚の隣に並ぶ、細かく英字のプリントされた半透明のボトルに目をやった。よくわからないがおしゃれそうなそのシャンプーは、もちろんダンデのものではない。持ち主はダンデの同居人だ。常に人の目に好ましく映ることを意識するその同居人の髪を、サラサラのツヤツヤたらしめている第一人者がそれだった。その同居人はダンデにとって、生活と人生とその他諸々を共有している相手であり、なので自然、シャンプーの共有もなされてもよい——むしろなされるべきであるように今この瞬間には思われた。あとで断りを入れるつもりで、ダンデはとろりとした液体を手のひらに広げわしゃわしゃと髪を泡立てる。漂うのはベッドの中でよく知る香りだ。髪をざあっと洗い流し、ちゃぷん、と湯船に足先から浸かると、あふれず風呂釜のふちぎりぎりでとどまった水面からも知っている入浴剤のにおいが立ちのぼる。体がじわりと火照るのは、湯加減が熱すぎるからだけではなかった。