文舵 練習問題① 問2:一段落くらいで、動きのある出来事をひとつ、もしくは強烈な感情(喜び・恐れ・悲しみなど)を抱いている人物をひとり
キバナの視線の先で、深く息を吐いたダンデがビリヤードテーブルの淵に身を伏せた。ラシャに這わせた手指の上をなめらかに滑るキューの先。腕の動きに合わせてベストの背で揺れるひとつに束ねた菫の髪。息を詰めて手球に神経を注ぐ様子は、獲物を前にした獣のそれだ。構えるように腕を引き——一閃。キューの鋭い一撞きと同時に、飛び出した白球が直線上のカラーボールを捉える。カツン、と衝突を受けたボールは脇目も振らずコーナーポケットへ。その重い落下音を背後に聞きながら、角度をつけて跳ね返った白球は、くるくるとゆるい回転と共にプレイヤーの手前へと戻ってきて、そして次のボールの手を優しく取ってサイドポケットの前へと導いた。再び静止が訪れるまで、その間わずか五秒。
次もチャンスボールじゃねえか。
その手並みのあまりの鮮やかさに呆れていると、ダンデがこちらを振り返って軽くウインクをよこした。このチャンピオンときたら、何度かレクチャーをしてやっただけでそれなり以上にこなして見せるのだから恐れ入る。この様子では、キバナの手番が回ってくるのもしばらく先になりそうだ。