流行りにのってみたかった「おっ、ここにいたか」
村の奥、古いのも新しいのもごちゃまぜの墓場。背後から掛かった声に振り向けば、
「なんだ。あんたか」
「向こう山に住んでる天狗に貰った酒、飲むかい?」
紅鼠色の着流しの裾をさっと捌きながら苔むした古い墓石を避けるようにしてやってきた、長身の男。
今朝がた黄上の屋敷で起こった事件、その犯人として首を落とされそうになったこの男を、当主を宥めて命を救ってやった。
その後、男は自分を妖だと言ったのは本当で、こいつの目的とおれの目的を果たすまでの名目で手を組んだのが夕方。
「お、天狗酒とは洒落てんねぇ」
半端に伸びた髪が顔にかかっているせいで、左の眼はほとんど隠れているが、おれは気付いていた。
こいつ、身の丈こそ随分とのっぽだが、顔つきはどこかおれと似ている。
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