流行りにのってみたかった「おっ、ここにいたか」
村の奥、古いのも新しいのもごちゃまぜの墓場。背後から掛かった声に振り向けば、
「なんだ。あんたか」
「向こう山に住んでる天狗に貰った酒、飲むかい?」
紅鼠色の着流しの裾をさっと捌きながら苔むした古い墓石を避けるようにしてやってきた、長身の男。
今朝がた黄上の屋敷で起こった事件、その犯人として首を落とされそうになったこの男を、当主を宥めて命を救ってやった。
その後、男は自分を妖だと言ったのは本当で、こいつの目的とおれの目的を果たすまでの名目で手を組んだのが夕方。
「お、天狗酒とは洒落てんねぇ」
半端に伸びた髪が顔にかかっているせいで、左の眼はほとんど隠れているが、おれは気付いていた。
こいつ、身の丈こそ随分とのっぽだが、顔つきはどこかおれと似ている。
「このおれが、人間に酒を分けてやってるなんて知ったら…あいつびっくりすんだろうなぁ」
どうかすれば、ヘヘ、と笑って鼻の下を擦る癖までそっくりだと、弟達なら言うだろう。
「いやぁー、この酒うんっまいねえ」
「だろ?知り合いの烏天狗が、自分の旦那の分をって特別に分けてくれたんだ」
「へ?烏天狗って、女の人もいんの?」
「ハーン、そこはそれ。おれら妖にはそういうのあんま関係ないし」
ぐい飲みを一気に乾し、手酌でどぼどぼと注ぎ足すその横顔。ぼんやりと頬に二刷けの紅が浮かんだ。
「……へえ」
「それに、お前さんたち人間だって……言うほどそれに執着もないんじゃないかねえ」
ニィ……と嗤ったそいつの頭に、艶のある紅色の角が二本。
「なあ、大蔵?お前の探しものだって……」
姿を隠してしまった妻を探している。と言ったその妖に、何もかも見透かされているような心持がして、ぞっとした。