そんな遠慮があるものか!松野カラ松(2X歳)、とある企業のヒラ社員。
仕事は事務、総務、経理。
ちいさな会社では、なんでもこなさなくてはならない。
仕事は、嫌だ。はたらきたくない。それでも何とか、生きるために出勤している。
そんな彼には、いまとても重大な悩みがあった。
勤労に疲れた体を癒す、神聖なる静寂のひと時。
闇の中、安らかな眠りを妨げる邪悪な存在によって不自然な体勢を強いられているのだ。
首は中途半端に持ち上がり、左肩を巻き込むように下側にして横たえている体。左脚は重くるしい軛によって抑えつけられており、右脚はどうにかバランスのいい場所へ落ち着こうと僅かな時間の間に何度も位置を変えていた。
背中にはずっしりと重くのしかかる、大きな生き物。
その邪悪な生き物は、カラ松の首の下へ己の太い二の腕を強引にねじ込み、背中側から脚を絡めて抱き着き、動きを封じるようにして時々いびきをかきながら寝ているのだ。
さらに(これが一番の問題なのだったが)尻の割れ目にジャストフィットさせたように、しっかりごっつり当たっている、モノがある。あつい。かたい。ときどき、びくんと動く。
(ホワイ!?なぜいつもこうなるんだおそ松サァァァン!)
偶然が積み重なり晴れて両想いとなった当初は、彼の職業に対して遠慮した。レスキュー隊という厳しい仕事。ゆえに、このような体勢で熟睡しても仕方あるまい。
一度許してしまうと、次からは指摘し辛くなる。特に、カラ松という男は気が小さいのだ。
(いつも……いつもいつもよくこんな体勢で寝られるなおそ松さん!?)
そう思うのも無理はない。何せ、逢えばいつもこんな体勢で夜を明かすのだ。
カラ松は、体を休めて健やかに目覚めるべき朝までろくに眠れず、寝不足で出勤するはめになる。しかも、おかしな体勢で体のあちこちが悲鳴を上げている。
何より、彼らはまだ「なにもしていない」のだ。
セックスどころか、キスさえもしていない。
にも関わらず、おそ松の局部の硬さと熱さばかりを覚え込まされているのだった。
「…なぁ」
勇気を出して囁くように声をあげる。ゆっくり首を回して後ろをみようとすると、体に回った腕に力がこもってぎっちりと抱きなおされてしまった。
「あのな…おそ松さ……」
んー、とか何とか寝ぼけた声があがるばかりで埒が明かない。そのくせ尻に当たるブツは未だ温度と硬度と保ったままだ。
限界は突然訪れた。なんなんだこいつ。殺してぇ~。
「……おい!いいかげんにしろ、おそ松」
低く地を這う声が、ようやく眠る生き物の耳に届いた。
「……ふぇっ?」
動くほうの手で、バンバンと太くずっしりと重い腕を叩く。
「えっえっ、何?なに?」
「お前!いったいなんなんだ!いっつもすぐ寝るし!なんか変なポーズにされてオレ寝られないし!」
怒れるカラ松は、拘束が緩んだのをいいことに手足をバタつかせてキレた。それはもう、引くほど駄々をこね散らかした。
「ごめんごめーん、俺が悪かったからぁ」
キレて泣き喚いたまま、背を向けてしまったカラ松を、注意深く抱きしめないようにして宥めつつ、おそ松はそれはもう謝った。
「なんかさ…どうしていいかわっかんなくってさぁ」
すこしずつ、背中をさすって、腕を撫でて、そうして腹に腕を回して首元に顎をよせて。
「…ねえ、さっき『おそ松』ってよんでくれたよね?さんつけないで、おそ松って?」
「…………覚えてない」
カラ松は、カッコ悪いところを見せて拗ねてしまっていたのもあるが記憶が曖昧なのも確かだった。
「そー?でも俺は聞いたもんね」
「お、おそ松ッ」
ゴリッと音がしそうな勢いで、腰に当たるソレに驚き思わず出た名前。
「ほら、ね?」
にやりとわらう口元が、獰猛に見えた。
「カラ松がどうしたいかわかんなくて、ずーーーーーっとエンリョしてたんだけど……」
ぷちぷちと、パジャマのボタンが外されていく。
「もう『して』もいいよね?」
お前より俺のほうがよっぽど遠慮してた!!
その声は、はじめてのキスに飲み込まれ。翌日はそれまでと比較しても最悪にカラダが動かなかった。